貧弱の英雄

カタナヅキ

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後日談

第870話 白狼騎士団の団長

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火竜との戦闘の際、アルトとハマーンが無理やりに動かした飛行船は不具合を引き起こし、王都の外にまで移動した後に墜落してしまう。

幸いにも船自体の損害は大きくはなかったが、新しい動力源を取り込んだ船の噴射口が壊れてしまい、修理に時間が掛かってしまう。しかも王都内の鍛冶師は街の復興に忙しく、結局は飛行船を勝手に動かしたアルトが責任を以て修理を行う。


「アルト、材料を持って来たよ!!」
「ウォンッ!!」
「助かったよ。悪いけど、ここまで運んでくれるかい?」


飛行船の修復には城から派遣された兵士達と、ビャクを引き連れたナイも手伝っていた。ビャクが荷車を引いて城から運び出された飛行船の修理用の器材を運び込み、それを見たアルトはナイに指示を与える。

噴射口の修理が行えるのはアルトだけであり、主に派遣された兵士の役目は飛行船が他の魔物に襲われないように見張りを行う。ちなみに飛行船を見たい人間も集まり、彼等が修理の邪魔をしないように兵士達は注意する。


「ほら、危ないですから下がって下さい!!危険ですから迂闊に近づかないでください!!」
「何だよ、もっと近くで見せてもいいだろ!!」
「へえ、これが飛行船か……」
「凄いな、本当にこんなに大きい船が浮くのか!?」
「でも、何で鮫なんだ……?」


兵士達の前には王都に向かおうとしていた旅人が群がり、中には王都からわざわざ訪れた住民もいた。魔物が現れるかもしれない草原にまで人が押し寄せる当たり、飛行船が一般の人々の間でもどれほど珍しい存在なのか思い知らされる。


「今日も大分人が集まってるね……大丈夫かな、魔物が出てきたら大変なのに」
「大丈夫さ、ほら見てごらんよ。辺りを見渡しても魔物がいないだろう?グマグ火山で現れた火竜の時と同じさ、あの夜に現れた火竜の気配を感じ取ってまたこの周辺の魔物達は逃げ出したのさ」
「あ、なるほど……」
「クゥ~ンッ(臆病な奴等め)」


アルトの言う通りに先に現れた火竜の影響か、王都周辺の魔物達は姿を消してしまい、当面の間は魔物に襲われる心配はないらしい。

だが、逆に言えば火竜はそれほど恐ろしい存在であり、その火竜を打ち倒したナイの凄さを改めてアルトは思い知る。しかし、彼とこうして話していると何処にでいるような少年にしか思えないのだから不思議だった。


(こうして話しているとナイ君は普通の子供だな……いや、僕と同い年だけど)


忘れがちではあるがアルトとナイは同い年で有り、むしろナイの方が誕生日が早い。ちなみにナイはあと数日で16才を迎えようとしており、アルトも近いうちに誕生日を迎える。

アルトは成人年齢を迎えれば正式に白狼騎士団の団長となるが、彼は騎士団長というのは性に合わないため、自分の代わりに団長となる人物を探していた。そして目の前にそれに相応しい人物がいる事を思い出し、この機に頼んでみる事にした。


「そうだ、ナイ君……君さえ良かったら白狼騎士団の団長にならないかい?」
「えっ!?」
「まあ、その場合は君も王国騎士になるというわけだけど……今の君だったら誰も反対する事はないと思うんだ」


唐突なアルトの提案にナイは驚くが、実際の所は今のナイならば王国騎士に選ばれてもおかしくはない。むしろ、快く受け入れられるのは間違いない。

少し前にナイは金狼騎士団と銀狼騎士団の仮団員として所属し、この二つの騎士団からも勧誘されていた。特にドリスとリンはナイの事を気に入っており、顔を合わせる度に勧誘をしてくる。しかし、アルトはそんな彼だからこそ白狼騎士団を任せられると思っていた。


「まあ、他の騎士団と比べれば僕の白狼騎士団は色々と緩いからね。団員も二人しかいないし、それに君が騎士団長になるならヒイロとミイナも喜ぶと思ってね」
「いや、でも……騎士団長なんて急に言われても」
「まあ、別に今すぐに返事はしなてくいいよ。しばらくの間は忙しくなりそうだからね……そうだ、そういえばナイ君は冒険者稼業にも興味があったね。今でも冒険者になりたいと思っているのかい?」
「う~ん……冒険者になりたいというより、そういう仕事が向いているのかなと思ってさ」
「ウォンッ?」


アルトの言葉を聞いてナイは冒険者になるかどうか悩んでいた時期もあった。冒険者の主な仕事は魔物の討伐や調査などの仕事だが、ナイは子供の頃から魔物を倒しており、その素材を回収していた。だからこそ自分は冒険者に向いているのではないかと考えていた。

しかし、王国では未成年者は冒険者になれないという法律があり、そのせいでナイは魔物を倒す力はありながら冒険者になる事はできなかった。あと二年近く待たなければ冒険者になれないのならば他の職に就く事も真面目に考えねばならない。

ナイが王都へ来た元々の目的は自分が本当にしたい仕事を探すためという目的もあり、何だかんだあってその目的は果たせずにいたが、王国騎士にしろ冒険者にしろ今のナイならば問題なく務まるだろう。


「冒険者か……」
「君が冒険者になればリーナは喜ぶだろうね。勿論、他の騎士団の騎士になりたいというのであれば僕は止めないよ。じっくりと考えて決めるといいさ」
「うん、そうするよ」
「ウォンッ!!」


アルトの言葉にナイは頷き、今すぐに決めなくてもいいという彼の言葉にほっとするが、いずれはナイも選択する時が来る。自分がどんな職業に就くべきか、彼は真剣に考える事にした――
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