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後日談
第866話 火竜の紋章
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――表彰式の後、ナイはハマーンに呼び出された。彼はナイのために岩砕剣の鞘を作り、英雄の証として「火竜」を模した紋章を刻んだ特製の鞘を渡す。
「ほれ、できたぞ」
「わあっ……ありがとうございます!!大切にします!!」
「うむ。それと旋斧が魔法剣を扱えるかどうかはここで試すと良いぞ」
「あ、はい!!」
ナイは新しい鞘に岩砕剣を収めると、今度は旋斧を構える。王都で火竜の討伐を果たした後、旋斧は元通りに戻るどころか以前よりも刃の色が真っ赤に染まった。グマグ火山の火竜を倒した時のようにまた火竜の魔力を奪い取ったのかと思ったが、試しに魔法剣を試すと今までとは異なる変化を遂げる。
「えっ!?」
「これは……魔法剣、か?」
聖属性の魔力を送り込んだ途端、旋斧の刃は光に包まれ、刀身が魔力に包み込まれて美しい「光刃」と化す。その光景を見てナイとハマーンは驚き、今までに聖属性の魔法剣を発動した時は白炎を纏っていたが、今回の場合は色合いや形が異なる。
どうやら旋斧は先のシャドウとの戦闘で魔法剣の能力が変化したらしく、試しに他の魔法剣を発動すると属性に合わせた色の「光剣」と化す事が判明する。
「ふむ、こいつは面白いのう……火属性ならば赤色、水属性ならば青色、雷属性ならば黄色と色が変わるのか」
「何だか不思議な感覚です……」
「だが、魔法剣が発動できるという事は魔剣として完全に復活したという事じゃ。いや、最早この剣の力は聖剣に匹敵したといえるかもしれん」
「聖剣って……あの伝説の剣の事ですか?」
聖剣の存在はナイも知っており、自分の旋斧が聖剣に匹敵する代物と化したという話を聞いて驚くが、確かに今まで旋斧で屠ってきた敵の事を考えると納得してしまう。
これまでにナイは火竜、ゴーレムキング、ゴブリンキング、更にはリョフやシャドウという強敵を倒し、その度に旋斧は成長して強くなっていた。ナイの成長に負けぬように旋斧も強くなり続け、遂には聖剣にも匹敵する存在と化す。
(これからもよろしくね、相棒)
ナイは旋斧を見つめて笑みを浮かべ、この旋斧があったからこそ彼はここまで強くなることができた。逆に旋斧の方もナイだからこそここまでの力を手に入れたと言える――
――王国内に存在する鍛冶師の中で最も腕が優れている人物は誰かと問われれば、誰もが「ハマーン」の名前を口にする。ハマーンは黄金級冒険者でありながら鍛冶師も兼任し、これまでに様々な武器、防具、魔道具を作り出してきた。
だが、彼はまだ一度も「魔剣」の類w作り出していない。そもそも魔剣自体が簡単に生み出せる代物でもなく、あの伝説の鍛冶師と謳われたフクツでさえも生涯に二つの魔剣しか作り出していない。
魔剣を製作する場合、鍛冶師に大きな負担を与えてしまい、中には魔剣を作り上げた直後に命を落とす鍛冶師もいる。しかし、不思議な事に魔剣を作り上げた時の鍛冶師達は満足した表情で逝く。それは自分の生涯を費やしてでも作品を完成させた事への安堵感からであり、ハマーンの父親も魔剣を製作した時に命を失った。
ハマーンの父親は彼ほどに腕が立つ鍛冶師ではなかった。家族の事も碌に顧みらず、無骨に毎日剣を打っていた。そんな父親に対してハマーンは良い感情は抱いておらず、彼が鍛冶師ではなく冒険者になったのも父親のせいである。
実を言えばハマーンは元々は鍛冶師になるつもりはなく、幼少の頃から父親から鍛冶の事を教わっていたが、母親が死んだときも彼の父親は涙も流さずに黙々と剣を打っていた。その事にハマーンは怒りを抱き、父親から離れた。
『くそ親父が!!俺はお前みたいになんかならないぞ!!』
『……そうか』
家を飛び出したハマーンは自分の腕っ節には自信があったため、冒険者になって彼は瞬く間に階級を上げていく。冒険者として名前が広がり、大勢の人間から慕われ、裕福な生活を送る事ができた。
しかし、冒険者になってから数年後、ハマーンの元に父親が倒れたという報告が届く。話してくれたのはハマーンの父親とは子供の頃からの付き合いの鍛冶師からであり、急いでハマーンは家に戻るとそこには信じられない光景が広がっていた。
『お、親父……!?』
『……ハマーン、か?』
家に戻ったハマーンが見たのは血だらけの父親の姿が地面に横たわる姿であり、彼の手には鉄槌が握りしめられていた。それを見たハマーンは慌てて父親を抱き起こそうとしたが、その手を振り払って父親はハマーンに告げる。
『邪魔をするな……もう少しで終わる』
『邪魔って……あんた、その身体で剣を打っていたのか?』
『そうだ……死ぬ前にこいつだけは完成させないとならん』
ハマーンの父親は自分が死ぬ前に最後に剣を作り上げるため、息子の手を振りほどいて作業に戻る。そんな父親の姿はハマーンは動揺し、どうして自分が死ぬかもしれないというのに剣を打とうとするのか理解できなかった。
『何やってんだ親父、本当に死ぬぞ!?』
『死にはせん……この剣を打ち終えるまではな』
『あんた、何を言って……』
『頼む……黙って見ていろ』
無理やりにでもハマーンは父親を止めるべきかと思ったが、彼のあまりの気迫に気圧されて何も出来ず、彼の言う通りに従う。そしてハマーンの父親は最後の力を振り絞り、自分の生涯最後の作品を作り上げた。
『完成だ……』
『す、すげぇっ……何だよ、これ。魔剣、なのか……?』
『そうだ……これが俺の作った魔剣「白百合」だ』
『しらゆり……?』
ハマーンの父親が作り上げたのは「百合」の紋章が刻まれた日本刀を想像させる武器であり、刀身に刻まれた美しい百合を見てハマーンは衝撃を受ける。百合は彼の母親が好きだった花であり、彼女が死んだ後も百合の花は飾られていた。
母親が好んでいた「百合」を魔剣の名前に付け、更には刀身に百合の花までも刻む。この行為からハマーンは父親が母親の事を想って作り出した魔剣だと知る。
『親父、あんたどうして……』
『……母さんが死んだとき、俺も病気が発覚してな。もう10年も生きられないと言われたよ。だから俺には時間がなかった……どうしても死ぬ前に俺はこの剣を完成させたかった』
『そ、そんな……』
『お前にとって俺は碌でもない父親だっただろう。だがな、鍛冶師として俺は最後に満足がいく作品を作り上げられた……それだけで本望だ』
『親父?親父!!』
『……じゃあな、母さんと一緒にあの世で待ってるぞ……』
ハマーンの父親は彼に対して最後の言葉を継げると、そのまま息を引き取った――
――父親の事を思い返したハマーンは黙って自分の目の前の机の上に置かれた火竜の死骸から発見された経験石の欠片に視線を向けた。彼の父親は自分の命と引き換えに魔剣を作り上げた。そしてハマーンの目の前には魔剣の素材にはうってつけの素材が置かれている。
「親父よ……儂もそろそろそっちに行く日が来たのかもしれんな」
火竜の経験石の欠片を見てハマーンは決意を固め、亡き父親のように彼は自分の命と引き換えにでも魔剣を作り上げる覚悟を決めた。
「ほれ、できたぞ」
「わあっ……ありがとうございます!!大切にします!!」
「うむ。それと旋斧が魔法剣を扱えるかどうかはここで試すと良いぞ」
「あ、はい!!」
ナイは新しい鞘に岩砕剣を収めると、今度は旋斧を構える。王都で火竜の討伐を果たした後、旋斧は元通りに戻るどころか以前よりも刃の色が真っ赤に染まった。グマグ火山の火竜を倒した時のようにまた火竜の魔力を奪い取ったのかと思ったが、試しに魔法剣を試すと今までとは異なる変化を遂げる。
「えっ!?」
「これは……魔法剣、か?」
聖属性の魔力を送り込んだ途端、旋斧の刃は光に包まれ、刀身が魔力に包み込まれて美しい「光刃」と化す。その光景を見てナイとハマーンは驚き、今までに聖属性の魔法剣を発動した時は白炎を纏っていたが、今回の場合は色合いや形が異なる。
どうやら旋斧は先のシャドウとの戦闘で魔法剣の能力が変化したらしく、試しに他の魔法剣を発動すると属性に合わせた色の「光剣」と化す事が判明する。
「ふむ、こいつは面白いのう……火属性ならば赤色、水属性ならば青色、雷属性ならば黄色と色が変わるのか」
「何だか不思議な感覚です……」
「だが、魔法剣が発動できるという事は魔剣として完全に復活したという事じゃ。いや、最早この剣の力は聖剣に匹敵したといえるかもしれん」
「聖剣って……あの伝説の剣の事ですか?」
聖剣の存在はナイも知っており、自分の旋斧が聖剣に匹敵する代物と化したという話を聞いて驚くが、確かに今まで旋斧で屠ってきた敵の事を考えると納得してしまう。
これまでにナイは火竜、ゴーレムキング、ゴブリンキング、更にはリョフやシャドウという強敵を倒し、その度に旋斧は成長して強くなっていた。ナイの成長に負けぬように旋斧も強くなり続け、遂には聖剣にも匹敵する存在と化す。
(これからもよろしくね、相棒)
ナイは旋斧を見つめて笑みを浮かべ、この旋斧があったからこそ彼はここまで強くなることができた。逆に旋斧の方もナイだからこそここまでの力を手に入れたと言える――
――王国内に存在する鍛冶師の中で最も腕が優れている人物は誰かと問われれば、誰もが「ハマーン」の名前を口にする。ハマーンは黄金級冒険者でありながら鍛冶師も兼任し、これまでに様々な武器、防具、魔道具を作り出してきた。
だが、彼はまだ一度も「魔剣」の類w作り出していない。そもそも魔剣自体が簡単に生み出せる代物でもなく、あの伝説の鍛冶師と謳われたフクツでさえも生涯に二つの魔剣しか作り出していない。
魔剣を製作する場合、鍛冶師に大きな負担を与えてしまい、中には魔剣を作り上げた直後に命を落とす鍛冶師もいる。しかし、不思議な事に魔剣を作り上げた時の鍛冶師達は満足した表情で逝く。それは自分の生涯を費やしてでも作品を完成させた事への安堵感からであり、ハマーンの父親も魔剣を製作した時に命を失った。
ハマーンの父親は彼ほどに腕が立つ鍛冶師ではなかった。家族の事も碌に顧みらず、無骨に毎日剣を打っていた。そんな父親に対してハマーンは良い感情は抱いておらず、彼が鍛冶師ではなく冒険者になったのも父親のせいである。
実を言えばハマーンは元々は鍛冶師になるつもりはなく、幼少の頃から父親から鍛冶の事を教わっていたが、母親が死んだときも彼の父親は涙も流さずに黙々と剣を打っていた。その事にハマーンは怒りを抱き、父親から離れた。
『くそ親父が!!俺はお前みたいになんかならないぞ!!』
『……そうか』
家を飛び出したハマーンは自分の腕っ節には自信があったため、冒険者になって彼は瞬く間に階級を上げていく。冒険者として名前が広がり、大勢の人間から慕われ、裕福な生活を送る事ができた。
しかし、冒険者になってから数年後、ハマーンの元に父親が倒れたという報告が届く。話してくれたのはハマーンの父親とは子供の頃からの付き合いの鍛冶師からであり、急いでハマーンは家に戻るとそこには信じられない光景が広がっていた。
『お、親父……!?』
『……ハマーン、か?』
家に戻ったハマーンが見たのは血だらけの父親の姿が地面に横たわる姿であり、彼の手には鉄槌が握りしめられていた。それを見たハマーンは慌てて父親を抱き起こそうとしたが、その手を振り払って父親はハマーンに告げる。
『邪魔をするな……もう少しで終わる』
『邪魔って……あんた、その身体で剣を打っていたのか?』
『そうだ……死ぬ前にこいつだけは完成させないとならん』
ハマーンの父親は自分が死ぬ前に最後に剣を作り上げるため、息子の手を振りほどいて作業に戻る。そんな父親の姿はハマーンは動揺し、どうして自分が死ぬかもしれないというのに剣を打とうとするのか理解できなかった。
『何やってんだ親父、本当に死ぬぞ!?』
『死にはせん……この剣を打ち終えるまではな』
『あんた、何を言って……』
『頼む……黙って見ていろ』
無理やりにでもハマーンは父親を止めるべきかと思ったが、彼のあまりの気迫に気圧されて何も出来ず、彼の言う通りに従う。そしてハマーンの父親は最後の力を振り絞り、自分の生涯最後の作品を作り上げた。
『完成だ……』
『す、すげぇっ……何だよ、これ。魔剣、なのか……?』
『そうだ……これが俺の作った魔剣「白百合」だ』
『しらゆり……?』
ハマーンの父親が作り上げたのは「百合」の紋章が刻まれた日本刀を想像させる武器であり、刀身に刻まれた美しい百合を見てハマーンは衝撃を受ける。百合は彼の母親が好きだった花であり、彼女が死んだ後も百合の花は飾られていた。
母親が好んでいた「百合」を魔剣の名前に付け、更には刀身に百合の花までも刻む。この行為からハマーンは父親が母親の事を想って作り出した魔剣だと知る。
『親父、あんたどうして……』
『……母さんが死んだとき、俺も病気が発覚してな。もう10年も生きられないと言われたよ。だから俺には時間がなかった……どうしても死ぬ前に俺はこの剣を完成させたかった』
『そ、そんな……』
『お前にとって俺は碌でもない父親だっただろう。だがな、鍛冶師として俺は最後に満足がいく作品を作り上げられた……それだけで本望だ』
『親父?親父!!』
『……じゃあな、母さんと一緒にあの世で待ってるぞ……』
ハマーンの父親は彼に対して最後の言葉を継げると、そのまま息を引き取った――
――父親の事を思い返したハマーンは黙って自分の目の前の机の上に置かれた火竜の死骸から発見された経験石の欠片に視線を向けた。彼の父親は自分の命と引き換えに魔剣を作り上げた。そしてハマーンの目の前には魔剣の素材にはうってつけの素材が置かれている。
「親父よ……儂もそろそろそっちに行く日が来たのかもしれんな」
火竜の経験石の欠片を見てハマーンは決意を固め、亡き父親のように彼は自分の命と引き換えにでも魔剣を作り上げる覚悟を決めた。
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