貧弱の英雄

王国の闇

第864話 貧弱の英雄

王城の玉座の間には王都内の家臣全員が集まり、その中には一般人であるはずのヒナやモモの姿もあった。他にも冒険者達も参列しており、ハマーンの弟子の鍛冶師たちも居た。

彼等がここへ集まったのは表彰式に参加するためであり、意識を取り戻した国王の前にはナイが跪いていた。国王はそんな彼に対して盾と二つの大剣が重なり合うメダルを差し出し、それをナイは受け取ると彼は玉座の間に存在する全員に告げる。


「ナイよ、お主には「英雄」の称号を与えよう！！この称号を与えられた人間は勇者以外では初めてであり、英雄の証としてメダルを授けよう！！また、反魔の盾の所有権はナイに一任する！！王家は反魔の盾の所有権を完全に破棄し、その権利を英雄へ贈与する！！」
「「「うおおおおおおっ！！」」」


ナイが渡されたメダルは彼の称号である「英雄」の証であり、貴族でもない人間がメダルを持つ事を許されるのはこの英雄の称号を持つ人間だけである。そして反魔の盾に関しても今後はナイが管理する事を国王が直々に認めた。

正確に言えば反魔の盾はそもそもナイは自分の物だとは思わず、いずれゴマンの家の墓に返すつもりだった。だが、自分が生きている間は反魔の盾は管理する事を承諾し、謹んで彼は「英雄」の証を受け取る。


(英雄のメダル……爺ちゃん、ゴマン、信じられる？僕なんかが英雄に選ばれるなんて……)


メダルを受け取ったナイは亡き養父アルと親友ゴマンの事を思い出し、もしも二人がこんな光景を見たらどう反応するのか気になった。昔は足を転ばせただけで骨も折れかけていた「貧弱」な子供が今では国の英雄として認められた。

割れんばかりの拍手がナイに送られ、その後は今回の事件で解決した者が一人ずつ前に出て表彰を受ける――





――同時刻、マホだけは表彰式には参加せずに今は亡きシンの屋敷へ訪れていた。表向きはシンは国家反逆を企てた大罪人として発表されているが、彼は彼なりの信念でこの国のためにずっと生きてきたのも事実だった。

いずれのこの屋敷も国に押収されるだろうが、その前にマホはシンの部屋の机に四つのグラスを置き、酒を注いだ。そして自分は椅子に座り込み、今は亡きシン、シャドウ、マジクの事を思い浮かべる。


「これもお前達の計画通りか？」


この国に新たな英雄を作り上げる、それがシンの立てた計画だった。シンは自分の息子であるロランを英雄にしようとしたが、結局は彼が死んだ事で状況は一変した。

シンの計画はシャドウが引き継ぐ事になり、本来の計画ではシンは悪事を自ら暴露した後にロランに討たれる計画だった。



――謀反を引き起こしたシンを息子であるロランが国に忠誠を尽くして父親を討つ。それがシンの最初の計画であり、ロランは国のためならば例え父親であろうと戦う真の中心として英雄に祭り上げられたであろう。



だが、計画はイリアの裏切りとマホの協力によってシンは早々に正体を暴かれ、その場で自殺した。自分の計画が失敗した事を悟ったシンは計画の続行は不可能だと判断し、自ら命を絶った。

しかし、シンの計画はシャドウが引き継ぎ、彼は自ら悪役を徹してこの国に本当に脅威に招き入れた。そしてシャドウを打ち倒したのはナイであり、この国に新たな英雄が生まれた。

ロランの計画とは大幅に変更したが、結果的にはこの国に「英雄」を誕生した。その切っ掛けを作り出したのはシンとシャドウであり、そして死霊術で蘇ったもマジクも協力する。

肝心の計画のやり方は問題だらけだったが、今回の一件で国の人間達は団結力を強め、そして闇ギルドと白面という脅威は完全に国から消え去った。もうこの国を陥れようとする組織は存在せず、同時にこの国を裏で支配してきたシン一族もいない。


「お主等のやり方が正しかったとは思えん。だから認める事も褒める事もできんが……せめて今日ぐらいは労を労ってやろう」


机の上に置かれた四つのグラスにマホは乾杯し、自分だけが生き残った事に寂しく思う。彼女の身体の呪いはもう消え去っており、もう肉体は健康その物に戻っていた。

この国がこれからどうなるのかはマホでも予想はできない。しかし、王妃ジャンヌに代わる新たな英雄が誕生した事は間違いなく、彼女は窓に視線を向けて告げる。



「それにしても……貧弱の英雄か。何とも面白い英雄が誕生したもんじゃのう」



マホは苦笑を浮かべながらグラスを掲げ、口元に運び込む――