貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
879 / 1,110
王国の闇

第863話 全ての後始末

しおりを挟む
「――ナイ君、しっかりして!!」
「うっ……」


立ち尽くした状態で動けないナイの元にリーナは赴き、彼女はナイの肩を掴む。すると、ナイはリーナに振り返ろうとしたが、もう身体に力が入らず彼女の元に倒れ込む。


「わわっ!?ナ、ナイ君……?」
「……気絶したみたい」


リーナに抱きつく形で倒れ込んだため、彼女は頬を赤らめるがミイナが様子を伺うと既に意識を失っていた。気絶するのも無理はなく、もう彼は体力も魔力を使い果たしていた。

疲れ果てたナイをリーナは抱きしめ、もう彼の事を手放したくはないと思った。しかし、このを自分だけ独り占めするわけにもいかず、ナイを抱きかかえて地上へ降り立つ。

すぐさま彼等の元に全員が集まり、飛行船の方から縄梯子でアルトの方も降りてきた。全員が意識を失ったナイを覗き込み、心配そうな表情を浮かべる。


「おい、起きな!!死んでるんじゃないだろうね!?」
「……大丈夫だ。かなり疲弊している様子だが、死んではいないよ。ゆっくりと休めば目を覚ますさ」
「よ、良かった……」
「心配かけさせるんじゃないよ……」


アルトの言葉を聞いて全員が安堵する中、ここでビャクが何かに気付いたように鳴き声を上げる。


「ウォンッ!!ウォンッ!!」
「わあっ!?びっくりした……どうしたの、ビャク君?」
「クゥ~ンッ……」


ビャクは火竜の死骸に視線を向けると、そこには二つの大剣が地面に突き刺さっていた。片方は岩砕剣であるが、もう片方は刃が砕けたはずの旋斧だった。

何故か旋斧は刃が元通りの状態に復元しており、どうやら火竜を倒した時に生命力を吸収した事で刃が復元されたらしい。しかもグマグ火山で火竜を討伐した時よりも刃が真っ赤に染まっており、どうやらまた火竜の魔力を全て吸収して新たな「進化」を果たしたらしい。主人と同様に規格外の魔剣にアルトは唖然とする。


「全く、なんて魔剣だ……いや、ここまでくるともう聖剣にも劣らないね」
「聖剣は言い過ぎじゃないかい?」
「何を言うか!!二頭の竜種を屠った剣じゃぞ?後の世にこの二つの大剣は聖剣として扱われる事になってもおかしくはないぞ!!」


マホの言葉に全員がナイの所有していた二つの大剣に視線を向け、確かにこの二つの聖剣がなければ火竜は倒せなかった。そう考えるとこの大剣は聖剣にも匹敵する価値ある代物になったといっても過言ではない。

主人と共に成長してきた旋斧は遂に「伝説の聖剣」に匹敵する存在へと成長を果たす。そして製作者の鍛冶師の願い通り、としての役目を果たした。


「さあ、この英雄を城まで運ぼう。イリアがきっと僕達のために薬を作ってくれているはずだよ」
「イリアさんがですか……変な薬を作ってないといいですけど」
「はははっ……有り得るな」


目を覚ましたヒイロの言葉にアルトは否定できず、実際に彼女は王城の方で新しい回復薬の制作を行っていた。だが、こんな場所にいつまでも意識を失った英雄《ナイ》を放置するわけにもいかず、アルト達は彼を王城まで運び込む――





――こうして後の時代に「火竜騒乱」と呼ばれる事件は集結し、事件の発端である宰相は死亡が確認され、その協力者であったシャドウは死亡、彼に従っていた白面もほぼ全員が投降した。

白面は逃走した所で彼等の身体が毒に蝕まれており、逃げたとしても長生きはできない。だからこそ殆どの白面が投降して国から解毒薬を受け取り、これからは罪を償うために監獄へ送り込まれる。彼等にも情状酌量の余地はあり、罪を償った獣人は彼等の国に送り返す事が決まる。

しかし、白面に所属する者達はは小さい頃に獣人国から攫われて暗殺者として育てられてきた。だからこそ暗殺者以外の生き方など知らない者は、今更国に戻って自由になっても何をすればいいのか分からない。そんな彼等を導いたのは意外な事にシノビとクノであった。

和国の再興のために二人は白面の腕を見込み、今度は「黒面」と呼ばれる新しい組織を形成する事にした。黒面は主に諜報活動に特化した組織であり、この国を裏で支える組織にさせる予定だった。白面からすれば主人がシャドウからシノビに代わっただけであるが、シノビは彼等を毒などで行動を制限はしない。

黒面は表向きは城の兵士として振舞い、その裏では諜報活動を行う。しかし、これまでのように毒による行動制限はないため、彼等は普通の人間のように平和な日常生活を送れる。仕事を与えながらも彼等は自由な時を与える事で普通の人間の生活に慣れさせる。もしも他に仕事をしたいことがあれば彼等の自由にさせる、そういう取り決めでシノビは彼等を指導した。

ちなみに後の時代では黒面の活躍があまりにも大きすぎて国王はシノビとリノ王女の関係を許し、彼に和国の領地の管理を任せる事になるのだが――それはあくまでも未来の話である。




――そして事件が集結してから数日後、遂に今回の事件で活躍した人間の表彰が行われ、一番最初に表彰される人間は決まっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...