貧弱の英雄

王国の闇

第847話 英雄の器

(器……どういう意味なんだ？マジクさんは俺に何か伝えたいのか？)


マジクの攻撃に耐えながらナイは彼の行動を振り返り、とある疑問を抱く。先ほどまでロランも他の騎士達もシャドウに拘束された状態だったが、マジクは彼等には手を出さなかった。

先ほどからマジクが告げる「器」という言葉も引っかかり、彼が自分に何を伝えたいのかナイは分からない。もしかしたらマジクの言葉の意味が分かればナイは彼の真意を掴めるかもしれないと判断し、絶対に諦めない。


(マジクさんが何か伝えようとしているのなら……負けられない！！)


ナイは意識を覚醒させると、ここで全ての力を出し切る勢いで強化術を発動させる。そして地属性の魔石が完全に失われる前に行動に移す。


「うおおおっ！！」
「ぐぅっ！？」


光線を二つの大剣の刃で押し返しながらナイはマジクの元へ向かい、その姿を見たマジクは冷や汗を流す。だが、彼はすぐに右手で魔力を放出しながら左手に隠し持っていた小杖を取り出すと、杖を天井に構える。


「これならばどうじゃ……威力と規模は多少落ちるが、これを受けて無事だった人間は一人もおらん！！」
「っ……！？」


信じがたい事にマジクは室内で広域魔法を発動させようとしていた。天井の部分に黒雲が形成され、それを見たナイは頭上からも攻撃するつもりかと驚愕した。

二つの杖で同時に魔法を発動させようとするマジクに対して、ナイは自分はどのように行動を取るべきか考える。そして導き出した答えは魔法を中止させる事だった。


(これしかない！！)


ナイは左手に装着した闘拳を構え、内蔵されているフックショットを放つ。その結果、養父の形見であるミスリルの刃が小杖を破壊した。


「うおおおおっ！！」
「なにぃっ！？」


ナイの予想外の攻撃にマジクは焦り、天井に広がっていた黒雲は消え去る。さらにマジクの集中力が途切れた事で、杖から放出されていた電撃も弱まり、その隙を逃さずにナイは渾身の力を込めて踏み込む。


「はぁあああっ！！」
「ぐぅっ！？」


二つの大剣が遂に光線を弾き飛ばし、マジクが所有していた杖を破壊する。杖を失ったマジクは魔法を封じられ、彼は後ろに後退した。しかし、それをナイが逃すはずがなく、両手の大剣を地面に放り込むとマジクの身体を掴んで壁際に押し込む。


「うおおおおっ！！」
「ぬあっ！？」


強化術を発動させて白炎を纏った状態でナイはマジクを壁に叩き付けると、マジクは苦悶の表情を浮かべ、体当たりの衝撃で胸元の死霊石にも影響を与えたのか、身体中に宿っていた闇属性の魔力が噴き出す。それを見てナイは渾身の一撃を繰り出す。


「弾撃！！」
「がはぁっ！？」
「マ、マジク魔導士！？」


足の裏から足首、膝、股関節、腹部、胸、肩、肘、腕の順番に身体を回転及び加速させ、勢い良く拳を撃ち込む。ドルトン仕込みの「弾撃」をナイはマジクの胸元に叩き込むと、彼の体内の死霊石が砕け散る。

マジクを戦闘不能に追い込んだナイはすぐに離れると、強化術が切れてナイは疲労感に襲われる。それでもナイは倒れる事はなく、マジクの前で立ち尽くす。


「マジクさん……」
「ふ、ふふっ……まさか、この儂の魔法を破る者が現れるとはな」
「どうしてこんな事を……」


胸元に手を伸ばしたマジクは死霊石が壊れた事を知り、もう間もなく自分は完全に死ぬ。そんな彼を見てナイはマジクが完全に消えてしまう前に質問すると、マジクは満足気な表情を浮かべて告げる。


「ナイよ……お主は英雄の器じゃ。シャドウを打ち倒し、この国の真の英雄になれ」
「えっ……」
「それが……この国のために……」
「マジクさん！！」


最後の言葉を言い終える前にマジクの身体から全ての魔力が消え去り、やがて眠るようにマジクは完全な死を迎えた。そんな彼に対してナイは拳を握りしめ、両手を合わせて彼の冥福を祈る事しかできなかった――