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王国の闇
第841話 吸血鬼の末路
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「てりゃあああっ!!」
「っ――――!?」
身体を振り回される吸血鬼は声にもならない悲鳴を上げ、モモが手放すと近くの建物の壁に叩き付けられる。
吸血鬼が衝突した瞬間に壁は崩壊し、建物の中に消えてしまう。不幸中の幸いだったのは白猫亭付近の住民は避難が完了しており、モモが投げ飛ばした吸血鬼が飛び込んだ建物内には住民はいなかった。
「あふぅっ……」
「モ、モモ!?」
「く、薬が切れたようだな……」
「大丈夫か!?」
「ウォンッ……」
吸血鬼を投げ飛ばした際に力を使い切ったのか、モモは目を回した状態で倒れる。イーシャンがすぐにモモを診察すると、どうやら疲れて気絶しただけらしく、彼女の身体自体は筋肉痛さえも起こしていない。
モモはテンに鍛えられた際にナイと同じく「自然回復」の技能を習得しており、そのお陰であれほど暴れ回った後だというのに肉体はすぐに回復した。
「ど、どうやら気絶しているだけのようだな……ちゃんと休ませれば目を覚ます」
「よ、良かった……」
「それにしても……凄まじい力じゃな」
ドルトンは周囲の光景を確認し、モモによって破壊された建物の壁や吸血鬼が叩き込まれた地面を確認し、ぽっかりと人型のクレーターが出来上がっていた。
ミノタウロスであろうとここまでの芸当はできず、彼女の力は下手をしたら本気を出したナイにも匹敵するかもしれない。尤も流石に本人にも負担は大きかったらしく、しばらくは目を覚ます様子がない。
「ビャク、お前も怪我は大丈夫か?すぐに治してやるからな……」
「クゥ~ンッ」
「……どうやら命拾いしたようじゃな」
「モモ、よくやったわね……後はゆっくり休んでいなさい」
「う~ん、ナイ君……」
意識を失ったモモはナイの名前を呟き、こんな時にもナイの事を気にする彼女に呆れながらも笑みを浮かべる。
(ナイ君、早く戻ってきなさい……こんなに強くて可愛い彼女候補がいるのよ)
ヒナはモモが目を覚ます時までにナイが戻ってくる事を祈るが、壁が壊れた建物から血塗れの吸血鬼が姿を現す。
「はあっ、はあっ……」
「なっ!?ま、まだ生きてやがったのか!?」
「そんなっ!?」
「くっ……!!」
「グルルルッ!!」
吸血鬼は全身から血を流しながらも外に出てくるが、背中に生えている羽根の片方は千切れ欠けており、もう片方も歪な形に折れ曲がっていた。瞳の光も失い、瞳孔も定まっておらず、もう誰が見ても戦える状態ではない。
「殺す、殺してやる……」
「くっ!!」
「皆、下がれ!!」
「いや、この者はもう……」
ヒナとイーシャンは身構えるが、ドルトンはいちはやく吸血鬼が限界を迎えていることを察し、自分達が手を下さずとも倒れる事を察した。だが、吸血鬼の首輪に異変が生じる。
唐突に首輪に刻まれた髑髏の目元が怪しく光り輝き、吸血鬼は苦悶の表情を浮かべて首元をに手を伸ばす。必死に首輪を引き剥がそうとするが、逆らえば逆らう程に首輪が締め付け、やがて首の骨が折れる音が鳴り響く。
ッ――――!?
遂には吸血鬼の骨が完全に折れてしまい、地面に倒れ込む。その光景を確認した者達は唖然とするが、イーシャンがゆっくりと近付いて様子を伺うと、彼は信じがたい表情を浮かべながら呟いた。
「し、死んでやがる……」
「な、何じゃと……」
「いったい何が……?」
「ウォンッ……」
白猫亭を強襲した吸血鬼は目的を果たす前に力尽きてしまい、その代償としてシャドウの首輪によって絞殺された――
「――やっと死んだか、あのガキ」
同時刻、棺桶の上に座り込んでいたシャドウは吸血鬼が死んだ事を察した。彼が用意した首輪には闇属性の魔力が込められており、首輪を身につけた人間が死ねば魔力が本体に戻る仕組みだった。
首輪を締め付ける条件は吸血鬼がシャドウの意思に背く事、あるいは一定の生命力を下回ると自動的に首輪は締まる。生命力が下回る状況は吸血鬼が弱っている事を意味しており、シャドウは吸血鬼が何者かに敗れたと判断した。
別にシャドウからすれば人手足りないので仕方なく僕に仕立て上げた存在でしかなく、彼が死のうとシャドウにとってはどうでもいい話だった。
「これで残された俺とマジクと……お前だけか」
シャドウは自分が座り込んでいる棺桶に視線を向け、この棺桶はリョフとマジクの入っていた棺桶ではなく、巨人族用の棺桶だった。その中には彼の最後の切り札が眠っており、この切札を使う時が間もなく近付いていた。
「夜明けまであと1、2時間という所か……」
日が昇ればシャドウはもう生きてはおらず、無理を重ねた事でシャドウの寿命は尽きかけていた。それでも彼は最後まで弟のために計画を果たすため、諦めるわけにはいかなかった。シャドウは自分の胸元に手を押し当てると、覚悟を決めた様に顔を上げる。
「来たか……」
隠し通路が繋がる扉に衝撃が走り、徐々に扉が凹んでいく光景を見てシャドウは全てを悟ったように杖を握りしめる――
「っ――――!?」
身体を振り回される吸血鬼は声にもならない悲鳴を上げ、モモが手放すと近くの建物の壁に叩き付けられる。
吸血鬼が衝突した瞬間に壁は崩壊し、建物の中に消えてしまう。不幸中の幸いだったのは白猫亭付近の住民は避難が完了しており、モモが投げ飛ばした吸血鬼が飛び込んだ建物内には住民はいなかった。
「あふぅっ……」
「モ、モモ!?」
「く、薬が切れたようだな……」
「大丈夫か!?」
「ウォンッ……」
吸血鬼を投げ飛ばした際に力を使い切ったのか、モモは目を回した状態で倒れる。イーシャンがすぐにモモを診察すると、どうやら疲れて気絶しただけらしく、彼女の身体自体は筋肉痛さえも起こしていない。
モモはテンに鍛えられた際にナイと同じく「自然回復」の技能を習得しており、そのお陰であれほど暴れ回った後だというのに肉体はすぐに回復した。
「ど、どうやら気絶しているだけのようだな……ちゃんと休ませれば目を覚ます」
「よ、良かった……」
「それにしても……凄まじい力じゃな」
ドルトンは周囲の光景を確認し、モモによって破壊された建物の壁や吸血鬼が叩き込まれた地面を確認し、ぽっかりと人型のクレーターが出来上がっていた。
ミノタウロスであろうとここまでの芸当はできず、彼女の力は下手をしたら本気を出したナイにも匹敵するかもしれない。尤も流石に本人にも負担は大きかったらしく、しばらくは目を覚ます様子がない。
「ビャク、お前も怪我は大丈夫か?すぐに治してやるからな……」
「クゥ~ンッ」
「……どうやら命拾いしたようじゃな」
「モモ、よくやったわね……後はゆっくり休んでいなさい」
「う~ん、ナイ君……」
意識を失ったモモはナイの名前を呟き、こんな時にもナイの事を気にする彼女に呆れながらも笑みを浮かべる。
(ナイ君、早く戻ってきなさい……こんなに強くて可愛い彼女候補がいるのよ)
ヒナはモモが目を覚ます時までにナイが戻ってくる事を祈るが、壁が壊れた建物から血塗れの吸血鬼が姿を現す。
「はあっ、はあっ……」
「なっ!?ま、まだ生きてやがったのか!?」
「そんなっ!?」
「くっ……!!」
「グルルルッ!!」
吸血鬼は全身から血を流しながらも外に出てくるが、背中に生えている羽根の片方は千切れ欠けており、もう片方も歪な形に折れ曲がっていた。瞳の光も失い、瞳孔も定まっておらず、もう誰が見ても戦える状態ではない。
「殺す、殺してやる……」
「くっ!!」
「皆、下がれ!!」
「いや、この者はもう……」
ヒナとイーシャンは身構えるが、ドルトンはいちはやく吸血鬼が限界を迎えていることを察し、自分達が手を下さずとも倒れる事を察した。だが、吸血鬼の首輪に異変が生じる。
唐突に首輪に刻まれた髑髏の目元が怪しく光り輝き、吸血鬼は苦悶の表情を浮かべて首元をに手を伸ばす。必死に首輪を引き剥がそうとするが、逆らえば逆らう程に首輪が締め付け、やがて首の骨が折れる音が鳴り響く。
ッ――――!?
遂には吸血鬼の骨が完全に折れてしまい、地面に倒れ込む。その光景を確認した者達は唖然とするが、イーシャンがゆっくりと近付いて様子を伺うと、彼は信じがたい表情を浮かべながら呟いた。
「し、死んでやがる……」
「な、何じゃと……」
「いったい何が……?」
「ウォンッ……」
白猫亭を強襲した吸血鬼は目的を果たす前に力尽きてしまい、その代償としてシャドウの首輪によって絞殺された――
「――やっと死んだか、あのガキ」
同時刻、棺桶の上に座り込んでいたシャドウは吸血鬼が死んだ事を察した。彼が用意した首輪には闇属性の魔力が込められており、首輪を身につけた人間が死ねば魔力が本体に戻る仕組みだった。
首輪を締め付ける条件は吸血鬼がシャドウの意思に背く事、あるいは一定の生命力を下回ると自動的に首輪は締まる。生命力が下回る状況は吸血鬼が弱っている事を意味しており、シャドウは吸血鬼が何者かに敗れたと判断した。
別にシャドウからすれば人手足りないので仕方なく僕に仕立て上げた存在でしかなく、彼が死のうとシャドウにとってはどうでもいい話だった。
「これで残された俺とマジクと……お前だけか」
シャドウは自分が座り込んでいる棺桶に視線を向け、この棺桶はリョフとマジクの入っていた棺桶ではなく、巨人族用の棺桶だった。その中には彼の最後の切り札が眠っており、この切札を使う時が間もなく近付いていた。
「夜明けまであと1、2時間という所か……」
日が昇ればシャドウはもう生きてはおらず、無理を重ねた事でシャドウの寿命は尽きかけていた。それでも彼は最後まで弟のために計画を果たすため、諦めるわけにはいかなかった。シャドウは自分の胸元に手を押し当てると、覚悟を決めた様に顔を上げる。
「来たか……」
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