847 / 1,110
王国の闇
第831話 火竜の経験石の欠片
しおりを挟む
――マジクの奇襲によってリンとアッシュが戦闘不能に陥った頃、リザードマンの方は下水道を移動していた。そして王都の中心部に存在する白面の施設に到着する。
ロランの読み通りにシャドウは王都中心部の地下施設に待ち構え、リザードマンは施設へと帰還した。そこには暗闇の中で佇むシャドウが存在し、その足元には彼の父親の死骸が横たわっていた。
「シャアアアッ……!!」
「……戻ってきたか、とっとと寄越せ」
シャドウはリザードマンに気付くと、顔を向けずに命令を伝える。その命令に対してリザードマンは腹の中に手を伸ばし、やがて鋭い爪で自らの腹を突き刺す。
「アガァッ……!?」
「……ちゃんと持って来たか」
体内からリザードマンは水晶の破片を取り出し、それを見たシャドウは事前に用意しておいた台座の上に置かせた。腹から手が引き抜かれるとリザードマンの腹部の傷口は闇属性の魔力によって塞がる。
リザードマンの体内に回収させておいたのは、飛行船の噴射口の動力として利用されていた「火竜の経験石」だった。火竜の化石から偶然にも発見された経験石を改造し、それを飛行船に取り込む事で高速飛行を可能にする技術が作り出された。
っ化石から発見された時の火竜の経験石は欠片程度しか残っておらず、魔力に関しても当たり前だが微塵も残っていなかった。しかし、ある鍛冶師はこの掌にも収まり切れる程の大きさの経験石を再利用し、全長100メートルを超える飛行船を飛ばす動力へと造り替える。
――この掌にも収まる程の小さい火竜の経験石をどのように扱うのかというと、原理は煌魔石と同じであり、大量の火属性の魔力を注ぐ事で火竜に膨大な火属性の魔力を蓄えさせる。
実を言えば魔力を込める魔石は質が高ければ高いほどに膨大な魔力を蓄積させ、それを一気に解放させる力を持つ。火竜の炎の吐息も経験石の魔力を利用しているからであり、常に火竜が火属性の魔石が生まれやすい火山に生息しているのは定期的に経験石に魔力を込めるためでもある。
圧倒的な火力を誇る火竜だが、その力の源は経験石であると言っても過言ではなく、火竜の絶大な威力を誇る火炎の吐息は経験石があってこそ生み出せる技ともいえる。それを利用して飛行船の製作者は噴射口に火竜の経験石を動力にする事で火竜の火炎の吐息の如く、凄まじい火炎の噴射を可能とした。
「こいつに限界まで魔力を注ぎ込めば……この都市一つを崩壊させるほどの爆弾も作り出す事はできるわけか」
「シャアアッ……」
「ふんっ……そんな物欲しそうな顔をするじゃねえよ」
シャドウが事前に用意しておいた台座には高密度の魔力が込められた魔石が数十個も嵌め込まれており、この台座に火竜の経験石を嵌め込めば魔力が送り込まれる。
台座に嵌め込まれた魔石が1つずつ徐々に色を失い始め、その代わりに火竜の経験石に色が復活し、徐々に色合いが濃くなっていく。その様子を眺めながらシャドウは座り込み、リザードマンに振り返った。
「お前は時間を稼いで来い、いいか?できる限り戦闘を避けろ、逃げ回って奴等を翻弄しろ」
「シャアッ……!!」
シャドウの命令を受けてリザードマンは即座に駆け出し、施設から飛び出す。その様子を見てシャドウは笑みを浮かべ、人間を操るときとは違い、魔獣や魔人族のような生物は死霊術で操りやすいので楽だった。
「あと少しだ……あと少しでお前の計画通りにいくぞ、シン」
天井を見上げながらシャドウは呟き、この時に彼は口元に手を伸ばすと、激しく咳き込む。咳は中々に止まらず、口元を塞いでいる手から血が流れる。
「ぐふっ……がはぁっ!?」
遂には立っていられずにシャドウは四つん這いになり、血反吐を地面に吐き散らす。しばらくすると落ち着いてきたが、シャドウは心臓を抑えて短時間の間に死霊人形を作り過ぎた事で自分の肉体が限界を迎えようとしている事に気付く。
死霊人形を作り出すのは本来は危険な行為であり、普通なら一日に一体の死霊人形を作るのが限度である。それなのにシャドウは今日一日だけで何体もの死霊人形を作り上げ、さらにそれらに魔力を分け与えた事でシャドウの寿命は一気に縮んでしまう。
シンと双子であるシャドウも老人といっても過言ではない年齢であり、恐らくは朝日を迎えた時が彼は命を落とす。死霊魔術師が最も魔力が高まる時間帯はあくまでも夜の間だけであり、次に太陽が昇った時にシャドウの命は尽きる。しかし、その前に弟が残した最後の計画を果たさねばならなかった。
「くそ親父が……これもあんたの望み通りか……?」
父親の死体に視線を向け、シャドウは少しでも身体の負担を少なくするために座り込み、もう返事が返ってくる事はないと知りながらも呟いた――
ロランの読み通りにシャドウは王都中心部の地下施設に待ち構え、リザードマンは施設へと帰還した。そこには暗闇の中で佇むシャドウが存在し、その足元には彼の父親の死骸が横たわっていた。
「シャアアアッ……!!」
「……戻ってきたか、とっとと寄越せ」
シャドウはリザードマンに気付くと、顔を向けずに命令を伝える。その命令に対してリザードマンは腹の中に手を伸ばし、やがて鋭い爪で自らの腹を突き刺す。
「アガァッ……!?」
「……ちゃんと持って来たか」
体内からリザードマンは水晶の破片を取り出し、それを見たシャドウは事前に用意しておいた台座の上に置かせた。腹から手が引き抜かれるとリザードマンの腹部の傷口は闇属性の魔力によって塞がる。
リザードマンの体内に回収させておいたのは、飛行船の噴射口の動力として利用されていた「火竜の経験石」だった。火竜の化石から偶然にも発見された経験石を改造し、それを飛行船に取り込む事で高速飛行を可能にする技術が作り出された。
っ化石から発見された時の火竜の経験石は欠片程度しか残っておらず、魔力に関しても当たり前だが微塵も残っていなかった。しかし、ある鍛冶師はこの掌にも収まり切れる程の大きさの経験石を再利用し、全長100メートルを超える飛行船を飛ばす動力へと造り替える。
――この掌にも収まる程の小さい火竜の経験石をどのように扱うのかというと、原理は煌魔石と同じであり、大量の火属性の魔力を注ぐ事で火竜に膨大な火属性の魔力を蓄えさせる。
実を言えば魔力を込める魔石は質が高ければ高いほどに膨大な魔力を蓄積させ、それを一気に解放させる力を持つ。火竜の炎の吐息も経験石の魔力を利用しているからであり、常に火竜が火属性の魔石が生まれやすい火山に生息しているのは定期的に経験石に魔力を込めるためでもある。
圧倒的な火力を誇る火竜だが、その力の源は経験石であると言っても過言ではなく、火竜の絶大な威力を誇る火炎の吐息は経験石があってこそ生み出せる技ともいえる。それを利用して飛行船の製作者は噴射口に火竜の経験石を動力にする事で火竜の火炎の吐息の如く、凄まじい火炎の噴射を可能とした。
「こいつに限界まで魔力を注ぎ込めば……この都市一つを崩壊させるほどの爆弾も作り出す事はできるわけか」
「シャアアッ……」
「ふんっ……そんな物欲しそうな顔をするじゃねえよ」
シャドウが事前に用意しておいた台座には高密度の魔力が込められた魔石が数十個も嵌め込まれており、この台座に火竜の経験石を嵌め込めば魔力が送り込まれる。
台座に嵌め込まれた魔石が1つずつ徐々に色を失い始め、その代わりに火竜の経験石に色が復活し、徐々に色合いが濃くなっていく。その様子を眺めながらシャドウは座り込み、リザードマンに振り返った。
「お前は時間を稼いで来い、いいか?できる限り戦闘を避けろ、逃げ回って奴等を翻弄しろ」
「シャアッ……!!」
シャドウの命令を受けてリザードマンは即座に駆け出し、施設から飛び出す。その様子を見てシャドウは笑みを浮かべ、人間を操るときとは違い、魔獣や魔人族のような生物は死霊術で操りやすいので楽だった。
「あと少しだ……あと少しでお前の計画通りにいくぞ、シン」
天井を見上げながらシャドウは呟き、この時に彼は口元に手を伸ばすと、激しく咳き込む。咳は中々に止まらず、口元を塞いでいる手から血が流れる。
「ぐふっ……がはぁっ!?」
遂には立っていられずにシャドウは四つん這いになり、血反吐を地面に吐き散らす。しばらくすると落ち着いてきたが、シャドウは心臓を抑えて短時間の間に死霊人形を作り過ぎた事で自分の肉体が限界を迎えようとしている事に気付く。
死霊人形を作り出すのは本来は危険な行為であり、普通なら一日に一体の死霊人形を作るのが限度である。それなのにシャドウは今日一日だけで何体もの死霊人形を作り上げ、さらにそれらに魔力を分け与えた事でシャドウの寿命は一気に縮んでしまう。
シンと双子であるシャドウも老人といっても過言ではない年齢であり、恐らくは朝日を迎えた時が彼は命を落とす。死霊魔術師が最も魔力が高まる時間帯はあくまでも夜の間だけであり、次に太陽が昇った時にシャドウの命は尽きる。しかし、その前に弟が残した最後の計画を果たさねばならなかった。
「くそ親父が……これもあんたの望み通りか……?」
父親の死体に視線を向け、シャドウは少しでも身体の負担を少なくするために座り込み、もう返事が返ってくる事はないと知りながらも呟いた――
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる