貧弱の英雄

カタナヅキ

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王国の闇

第808話 冒険者と王国騎士の出動

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――冒険者ギルドの方では王都に滞在する冒険者全員が集まっており、彼等の前にギルドマスターのギガンが立つ。彼は元は黄金級冒険者でもあり、現役を退いてからも肉体の鍛錬を怠っていないので実力は衰えていない。

現在の彼は現役時代と同じ装備を身に付け、他の冒険者達に対して指示を出す。その内容は王国騎士と連携し、街に存在する白面や闇ギルドの人間達を捕縛する事であった。


「今夜、間違いなくこの王国の歴史が変わる!!裏社会を牛耳る悪党どもを根絶やしにする絶好の好機だ!!この機を逃すな、一人残らず奴等を捕まえて王都に真の平和を取り戻すぞ!!」
『うおおおおおっ!!』


冒険者達はギガンの言葉に歓声を上げ、彼等も我慢の限界だった。この王都の治安を維持するのは王国兵だけに任せられず、王都に暮らす冒険者達も戦う覚悟は既にできていた。

ギガンの号令の元、冒険者達は街中に散らばって怪しい人間の捜索を行い、まだ捕らえられていない白面を見つけたら捕まえる様に行動する。その一方でギガンは緊急事態に備えて冒険者ギルドに待機し、何時でも動けるように待機する。


(おい、ギガンさんのあの格好を見てみろよ……伝説の冒険者の復活だぜ)
(あの人、昔は凄い冒険者だったんだろ?)
(馬鹿!!凄いどころじゃねえよ、あのリョフさえいなければあの人は歴代最強の冒険者と言われてもおかしくはないんだぞ!!)
(マジかよ……ガオウさんやリーナちゃんより強いのか?)
(本当に馬鹿だなお前は!!その二人を育て上げたのがあのギルドマスターなんだぞ!?)


冒険者達はギガンが現役時代の格好に戻った事で期待感を膨らませ、久しぶりに彼の本気の戦いぶりが見れるのかと期待する。しかし、肝心のギガンはとある問題を抱えていた。


(……鎧がきつい、流石に今更着るのは無理があったか)


ずっと放置していたせいで鎧はガタを来ており、こんな事ならばハマーンに鎧の整備を頼んでおくべきだったかと後悔する。表向きは無表情を貫くが、いつ鎧が壊れるのかと内心焦っていた。しかし、その態度が逆に冒険者達の緊張感を抱かせ、やる気を引き起こす。


(見ろよ、あのギガンさんの顔……凄い顔だな)
(し、失敗したらとんでもなくおこられそうだな……)
(こんな所で話している場合じゃないな、俺達も行くぞ)


結果的にはギガンの普段よりも一段と険しい表情を見た冒険者達は焦りを抱き、真面目に仕事に取り掛かる。最も本人はその事に気付いておらず、鎧が壊れない事を祈りながら待機する――





――同時刻、各王国騎士団も遂に動き出し、猛虎騎士団と共にナイは行動を開始する。白猫亭の守護のためにビャクは置いてきたが、その代わりにロランの馬に乗せてもらう。


「ナイと言ったな、もしも何か感じ取ったらすぐに伝えるんだぞ!!」
「はい、分かりました!!闇属性の魔力の禍々しさは覚えているのですぐに気付く事ができると思います!!」
「よし、期待しているぞ!!」


ロランがナイを連れてきたのは彼が闇属性の魔力の使い手とは今までに一度も戦った事がなく、ロランと比べてナイの場合は闇属性の魔力を放つ敵とは何度か戦った事がある。そのためにナイは闇属性の魔力を感じ取ればすぐにロランに伝えるのが仕事だった。

彼の背中に抱きつきながらもナイは街の様子を伺い、妙に静かだと気付く。住民達には無暗に外に出ないように警告しているが、それでも今日の夜は不気味な程に静かで違和感を抱く。


(何だろう、この感覚……まるであの時と一緒だ)


ナイはアルの仇である赤毛熊を倒しに向かった際、村へ戻るとき同じ感覚を覚える。彼が村へ戻った時には既に村人全員はゴブリンの餌食にされ、ナイは大切な人達を一気に失ってしまった。

あの時と同じようにナイはこれから起こる出来事に不安を感じ取り、こんな時にヨウの予知夢を思い出す。ナイは漆黒の鎧を纏った剣士に殺される夢を彼女は見たというが、ナイの目の前には漆黒の鎧を纏ったロランが居た。


(まさか、この人が……?)


仮にヨウの予知夢で出てきた漆黒の鎧の騎士の正体がロランだった場合、ナイはロランに殺される事になる。ロランはシンの息子であり、もしかしたら味方になったのは演技で実はシンと結託してこの国を乗っ取ろうとしている事も有り得ない話ではない。

しかし、ロランはこの国の大将軍として尊敬されており、あのアッシュや他の人間からも信頼されている。ナイも少し話した程度だが、彼がとても裏切るような人間には思えない。


(考えていても仕方ない……まずはシャドウを探し出さないと)


ヨウの予知夢の件も気にかかるが、彼女の予知夢が当たっていたとしてもゴブリンキングとの戦闘の時の様にヨウが勘違いしただけでナイが死ぬとは限らない。しかし、やはり自分が死ぬ予知夢を見られた事に対してはナイは不安を抱き、本当に大丈夫なのだろうかと考えていると、ここでロランの馬が止まった。


「ヒヒンッ!?」
「ぬおっ!?」
「うわっ!?ど、どうしたんですか!?」
「大将軍、わ、我々の馬も……!?」


突如として街道を走っていた馬たちが急停止すると、まるで何かに怯える様に暴れ始める。それに対して慌ててロランと彼の配下の騎士達は抑え付けるが、この時にナイは嫌な気配を感じとる。


「この気配は……!?」
「……この先に何かいるな」


技能など使わずとも進行方向の先に異様な気配を放つ存在が待ち構えている事をナイ達は把握する。気配だけで馬たちは怯え、これ以上は近づこうとしない。

人間よりも生存本能が優れている動物だからこそ、この先に待ち構える存在の危険性を感じ取り、決して近付こうとしない。それを察したナイ達は馬から降りると、全員が武器を引き抜いた状態でここから先は徒歩で移動を行う。


「……あれが父の屋敷だ。子供の頃は俺も住んでいた」
「あそこが……」


ロランの指し示す方向に視線を向けると、この国の宰相が暮らすには相応しいほどの大きさの建物が存在し、フレア公爵家やアッシュ公爵家の屋敷にも見劣りしない立派な屋敷だった。

だが、屋敷に近付くにつれてナイ達は冷や汗を流し、異様な威圧感を感じとる。既に門は開け開かれており、屋敷の敷地内には一人の全身が闇属性の魔力を纏う男が立っていた。こうして顔を合わせるのはナイもロランも初めてだが、すぐに彼の正体を気付く。


「あれが……リョフ」
「間違いない……噂通りの男だな」



――屋敷の敷地内に待ち構えている存在はリョフで間違いなく、昼間の時よりも彼は存在感を放っていた。これは夜を迎えた事で彼を蘇らせたシャドウが本来の力を取り戻した事を意味しており、リョフは現れた猛虎騎士団に対して黙って武器を構えた。それに対してロランも堂々と名乗り上げる。



「猛虎騎士団団長ロランだ!!」
「ロラン……そうか、お前が噂に聞いた大将軍か。それにしても未だに大将軍を勤めているとは驚きだな」


皮肉にもリョフの前に現れたのは幼少期の彼が憧れを抱いていたに地位に就く男であり、ロランの名前は彼も耳にしていた。だが、生前の彼はジャンヌ以上に縁がなく、相対する機会は一度もなかった。

ロランが大将軍だと知ってリョフは俄然に興味を抱き、正直に言えば彼が決着を付けたいと思っている相手はゴウカだったが、大将軍と聞いて彼は強い興味を示す。その一方でナイの方はリョフの外見を見て「漆黒の剣士」だと気付き、緊張感を抱く。
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