貧弱の英雄

カタナヅキ

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王国の闇

第799話 自分達に出来る事を

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――王国騎士団と警備兵がシンとシャドウの捜索を行う中、白猫亭の方ではヒナはクロネと共に厨房に立ち、今回の騒動で被害を受けた人たちのために料理を作っていた。


「ほらほら、遠慮しないで!!どんどんと食べてね!!」
「ううっ……美味い!!」
「あ、ありがとう……でも、本当にいいのかい?こんなに食べさせてもらって……」
「遠慮は無用よ、こんな時こそ助け合わないと駄目よ」


白面や魔物によって被害を受けた人たちは白猫亭に集まり、温かい料理を味わう。中には家や家族を失った人間もおり、彼等は涙を流しながら食事を味わう。


「くそっ……母ちゃんにもこの料理を食べて欲しかったな」
「俺達が何をしたというんだ……」
「おい、ちゃんと食べろ!!どんな時も飯はしっかり食え、それが生きるって事だ!!」
「そうだぞ、こんな美味い飯を食べられるのは俺達が生きている証だからな!!」


大切な物を失った人間達に対して救援に訪れてくれた他の人間が励まし、そんな彼等にヒナ達は少しでも生きる希望を与えるために美味しい料理を振舞う。今の自分にできる事はこれぐらいしかなく、彼女は上を見上げてモモの事を思い出す。


(あなたもしっかりやりなさいよ、モモ!!)


上の階に居るはずのモモに対してヒナは笑みを浮かべ、こんな時だからこそ彼女はモモにできる事があると伝え、彼女の分の仕事も請け負ってモモを想い人の元へ送る――




――上の階ではモモはナイのために今の自分のできる事を考え、そして彼女はナイの煌魔石に自分のありったけの魔力を送り込む。白猫亭へ戻ってきたナイが持ち帰った煌魔石に対して両手を構え、彼女は意識を集中させる。


「……ふうっ、終わったよ。これ以上すると私の魔力がなくなっちゃいそう」
「あ、ありがとう……でも、大丈夫なの?」
「平気平気、ナイ君のためならこれぐらい……わあっ!?」
「危ない!?」


ナイの部屋にてモモは煌魔石に魔力を補給した後、魔力を使いすぎたのか彼女は足元がふらつき、咄嗟にナイはモモを抱きしめる。この際に二人の顔が間近にまで迫り、モモとナイは頬を赤らめた。


「あ、ありがとうナイ君……」
「い、いや……」
「……ねえ、一つお願いしていいかな?」
「え?」


モモはナイの身体にそのまま抱きつき、そんな彼女の行動にナイは驚いたが、モモは勇気を振り絞って伝える。


「その……こ、今度、二人だけで一緒に何処かに行かない?」
「えっ……」
「駄目、かな……?」


ナイはモモの言葉に驚いたが、彼女の泣きそうな表情を見て断る事ができず、彼女の手を握って約束した。


「うん、いいよ……じゃあ、今回の一件が終わったら二人で何処かに遊びに行こうか」
「ほ、本当に!?なら、約束だよ!!」
「ああ、約束する……必ず、戻ってくるよ」


モモはナイの言葉を聞いて喜ぶが、その一方でナイの方は彼女のためにも必ず戻らなければならないと改めて覚悟を決めた――





「――全員集まりましたね!!それでは私達も動きますよ!!」
「ヒイロ、張り切り過ぎ」
「よ~し、頑張ろうね!!」
「援護は任せてほしいでござる」
「「「ウォンッ!!」」」


白猫亭の前には白狼騎士団に所属するミイナとヒイロ、黄金級冒険者であるリーナと忍者のクノ、最後にビャク、クロ、コクが返事を行う。彼女達は他の王国騎士団と共に王都内に残された敵の捜索のために動く予定だった。

富豪区はドリス、商業区はリン、一般区は聖女騎士団、商業区は白狼騎士団、最後に王都を取り囲む城壁の方は猛虎騎士団が警備を行う事が決まった。猛虎騎士団の役目は王都の外部に逃げられないように隔離するため、彼等の大半は捜索には参加しない。

ここから先は王都内に出現した白面の捜索を行い、他にも姿を消したシャドウとシン、そしてリョフと思われる存在の捜索を行う事が決まる。


「私達の担当する地区には先に冒険者の方が捜索を行っています!!すぐに私達も向かいましょう!!」
「任せて!!商業区なら毎日行ってたから隠れられそうな場所は全部分かるよ!!」
「そういえばナイは?」
「ナイさんは今は手が離せないそうですが、用事が終わればすぐに来てくれるそうです!!さあ、行きましょう!!」
「えっ……そうなんだ」


ヒイロの言葉を聞いてリーナは白猫亭に視線を向け、女の勘が働いて何故かナイの事が気になった。しかし、今は悪党の捕縛を優先しなければならず、彼女は胸をもやもやさせながらも皆と共に捜索へ向かう。


「ビャク君はナイさんの足代わりなのでここに待機して貰います!!私達はクロ君とコク君に乗せて貰って行きましょう!!」
「大丈夫?私の武器は結構重いから馬でも運ぶのが大変だけど点tね」
「無論、問題ないでござる!!こう見えてもクロもコクもたくましいでござるからな!!」
「「ウォンッ!!」」


心配した風にミイナが声をかけると、クロとコクは全員に背中に乗る様に促し、すぐにヒイロ達は背中へと乗り込む。ここから先はシャドウだけではなく、白面や闇ギルドの残党も動き出すと思われ、一瞬の油断も出来ない。


「では行きますよ!!この王都の平和を取り戻すのです!!」
「ヒイロこそ、張り切り過ぎて落ちないように気を付けて」
「分かっています!!こんな時まで茶化さないでください!!」
「では、出発するでござるよ」
「うん、行こう!!」


クロとコクが駆け出すと、商業区へ向けて一直線に向かう。その一方で取り残されたビャクはナイが出てくるのを待つと、この際にビャクは不穏な気配を感じ取り、周囲を見渡す。


「グルルルッ……!!」
「……勘のいい狼だな」
「臭いは完璧に消したはずだが……」
「まあいい、こいつも標的だ。殺すぞ……」
「へへへ……今回こそ捕まえてやるぞ!!」


街道から姿を現したのは白面ではなく、一般人に偽装した暗殺者達だった。この男達は闇ギルドに所属する者達であり、かつてナイ達が王都へ訪れたばかりの頃、襲ってきた盗賊もその中に居た。

久々に見た盗賊の顔にビャクは怒りを抱き、前回の時はビャクは魔道具の首輪を付けられていたせいで苦しめられたが、今回は違った。ビャクは盗賊達と向き合い、咆哮を放つ。


「ウォオオンッ!!」


ビャクは盗賊達に対して単身で向かい、そんな彼に向けて盗賊達は毒を塗り込んだボーガンを構えた――





――その一方でゴウカは兵士達の拘束を逃れ、街のある場所に避難していた。影も現在はお尋ね者扱いされており、シャドウと手を組んで他の冒険者や王国騎士に手を出した事は知られていた。そのため、現在の彼も狙われている立場である。


『ふむ、困った事になったな……このまま捕まったら面倒だ!!』


ゴウカは自分がした悪事は理解しており、しかし彼としてはこのまま捕まるわけには行かない。まだ自分を追い詰めたリョフとの決着がついておらず、彼はどうしても捕まるわけには行かなかった。


『これからどうするべきか……そうだ!!この機会に猛虎騎士団の団長の元へ行くか!!』


ロランが戻ってきた事はゴウカの耳にも入っており、どうせ犯罪を犯したのだからとゴウカはこの際にロランの元へと赴き、勝負を挑むべきかと考える。つくづく脳筋な発想だが、もうゴウカには失うものはない。

生涯の好敵手と巡り合う事が彼の人生の目標であり、その目的さえ果たせればどうでもよかった。そんな彼の元に一人の人物が訪れ、声ではなく筆談で語り掛けてきた。


『ゴウカ……貴方、何をしてるの?』
『ん?おお、マリンではないか!!』


ゴウカは自分の前に現れた黄金級冒険者マリンに対して親し気に語り掛け、こうして二人の王国最強の冒険者達は再会してしまった――
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