貧弱の英雄

カタナヅキ

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王国の闇

第789話 王子として……

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「アルト王子、これは何の真似か?」
「言っておくけど、別に乱心したわけじゃない。確かに僕は兄上や姉上と比べれば王子としての自覚は薄いかもしれない。だけどね、この国を脅かすかもしれない存在を前にして引く程……落ちぶれてもいない!!」
「王子……!!」


ロランは先ほどからのアルトとの問答で既に自分と宰相《ちち》との関係を知られている事を悟っていた。しかし、まさか魔石を自分に取り付けて命と引き換えに足止めを行うなど思いもしなかった。

アルトはロランと向き合い、魔石に取り付けた壊裂をしっかりと掴む。この壊裂を作動させれば魔石は砕け散り、爆発を引き起こす。そうなれば非力なアルトは助からず、死ぬ事は間違いなかった。


「お考え直し下さい王子……そんな事をして何の意味があるのですか?」
「意味ならあるさ、僕の命一つでこの国が救われるのであれば……本望だ」
「王子……!!」


覚悟を決めた表情を浮かべるアルトに対し、ロランは彼の変わりように戸惑う。小さい頃のアルトは問題児で他の二人の王子と比べると面倒事ばかり起こしていたが、まさか自分の命と引き換えにしてでも自分を食い止めようとする姿に戸惑う。


「ロラン大将軍、もう一度訪ねよう。君が忠誠を誓うのは!?」
「王子……」
「答えるんだ!!これは命令だ!!」


ロランはアルトの言葉に険しい表情を浮かべ、正直に言えばここで彼が嘘でも王族のために仕えると言えばいいだけの話である。しかし、ロランの性格を知っているアルトは彼が嘘を吐くような男ではない事を知っていた。

この質問の真意はアルトはロランの忠誠心を試しており、本当に彼が宰相のようにこの国の発展しか考えていないのであれば目論見は外れる。しかし、僅かでも王族に対する忠誠心を抱いているのであれば話は変わる。


「ロラン大将軍、答えるんだ!!君が忠誠を誓う相手は誰だ!!」
「それは……」


周囲の兵士も猛虎騎士団の騎士達もロランの返答を待ち、彼がどのように答えるのかと緊張する。しかし、この時に城壁からアルトを狙う者がいた。

城壁の上にて一人の兵士が誰にも気づかれないように弓を構え、アルトに狙いを定める。そして彼に目掛けて矢は放とうとした時、背後から声を掛けられる。


「邪魔をするなでござる」
「うっ!?」


兵士の首元にクナイが構えられ、驚いた兵士は後ろに顔を向けると、そこにはクノが立っていた。何時の間にか彼女は女性兵に変装し、シンと繋がりを持つ兵士を抑えつける。

アルトを狙った兵士はクノによって止められ、その間にもロランはアルトの言葉に対し、考え込むように黙り込む。しかし、彼は覚悟を決めた様に口を開いた。


「私が忠誠を誓うのは――」






――同時刻、教会内部ではリョフとゴウカの激戦が繰り広げられ、廃墟と化した建物は更に原型が留めない程に崩れ落ち、二人の激しい戦闘によって地面に衝撃が走る。


『ふっ、ふふっ……ははははっ!!』
『ふんっ……ゴウカと言ったか、そんなにも楽しいのか!!』
『楽しい、楽しいぞ!!そうだ、この感覚だ……こんな風に戦う相手を求めて俺は冒険者になった!!』


リョフとゴウカはお互いに斬り合いながらも自分と拮抗する相手を発見し、歓喜していた。戦闘を楽しむように何百号も激しく打ち合う。

どちらも王国内では敵なしと謳われた武人同士で有り、蘇った伝説の武人と現世を代表する最強の武人の戦いは誰も立ち寄る事が出来なかった。


「……何なんだ、奴等は」
「信じられません……これが人同士の戦いだというのですか!?」
「さ、流石に……あれに加わるのは無理だぞ」


教会から少し離れた建物の上にてシノビ、リノ、ルナの三人は様子を伺う。他の聖女騎士団も各自が離れた場所で教会で起きている戦闘を見守っていた。

全員が状況を理解できず、いきなりゴウカの前に現れた謎の武人に戸惑うが、騎士団の中でも古参の人間は武人の正体がリョフだと見抜く。しかし、行方不明だったはずのリョフの変わりようを見て戸惑いを隠せない。


「アリシア、あいつはリョフで間違いないと思うか?」
「ああ……だが、何だあの姿は」
「まさか、死霊人形か?」


レイラ、アリシア、ランファンはリョフの姿を見知っており、実を言えば彼女達はジャンヌと行動を共にしていた時にリョフと邂逅した事があった。リョフは当時最強の王国騎士と謳われたジャンヌとの対戦を望んだが、その時は既にジャンヌは身籠っていたので戦える状況ではなかった。

結局はジャンヌとリョフは戦う事はなかったが、その後にジャンヌが出産してからしばらく時間が経過した後、彼女は王城にて何者かに暗殺された。しかし、ジャンヌ程の強者を殺せる人間は限られており、しかも同時期にリョフは姿を消した。この事から聖女騎士団の勘の鋭い人間はリョフがジャンヌを殺したと思って彼に深い恨みを抱く。
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