貧弱の英雄

カタナヅキ

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王国の闇

第787話 目覚め

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「うっ……」
「ん!?もう目覚めたのか!?」
「おい、大丈夫か坊主?」
「ここは……」


ナイは目を覚ますと、身体に痛みを覚えながらもどうにか起き上がる。この時にガオウとハマーンの顔を見ると、ここが何処なのかを問う。


「ここは冒険者ギルドの医療室だ。坊主、無理をするなよ」
「今のお主は成長痛に襲われておる。これ以上の無理はしない方がいい」
「成長痛……?」


成長痛という言葉にナイは自分の身体が筋肉痛でも引き起こしたかのように上手く動けない事に気付く。今日一日だけでもどれほどの魔物を倒したのか分からず、特にリザードマンやゴブリンキラーとの戦闘で大量の経験値を得て一気にレベルが上がったらしい。だが、今は休んでいる場合ではなく、ナイは再生術を発動させる。


「くぅうっ……」
「おい、何してるんだ!?」
「無理をするでない!!身体が壊れるぞ!?」
「……もう大丈夫です」


再生術を発動させたナイは成長痛を無理やりに抑え込むと、ベッドから起き上がる。この際にナイの肉体から白炎が纏い、その様子を見たギガンは驚愕した。


(何だ、これは……ここまではっきりと白炎を纏う人間など見た事がないぞ!?)


強化術(巨人族の場合は鬼人化、獣人族は獣化)を発動させる場合は自然と白炎が纏うが、ナイの場合はその白炎の規模と密度が尋常ではない。しかも成長痛を瞬時に抑え込み、万全な態勢に戻ったナイの自己再生能力にギガンは動揺を隠せない。

ナイは自然回復を高める技能も身に付けており、先の戦闘でそれらの技能もさらに性能が強化されたらしく、彼は手足を自由に動かせる事を確認すると旋斧と岩砕剣に手を伸ばす。

この時にナイは旋斧と反魔の盾を手にした際、無意識に目元が潤んでしまい、自分自身も戸惑う。何故だか急に旋斧と反魔の盾の元々の所有者であるアルとゴマンの顔が思い浮かぶが、すぐに目元を拭って武器と盾を装備する。


「助けてくれてありがとうございました。でも、行かせてもらいます」
「行くって……何処にだ?」
「……敵が現れたんですよね、それも凄く嫌な感じの」
「むっ……分かるのか?」
「はい、分かります」


ナイは建物の中にいながらも王都内に現れた異様な気配を感じ取り、その気配感知の鋭さにガオウもハマーンも驚く。二人とも王都内に出現した異様な気配には気づいているが、彼等の場合は外に出てやっと気づけたのに対して、ナイは建物の中に居ながらも感じ取った事に驚く。


(この小僧……前よりも力を増しておる)
(なんて奴だ……もう嫉妬するのも馬鹿馬鹿しく思えてきた)


ハマーンとガオウはナイがもう自分達よりも強さが上のに到達した事に気付き、苦笑いを浮かべるしかなかった。その一方で成長痛を抑えたナイは今までにないほどに力が湧きあがる感覚を覚え、魔力も余裕があった。


(不思議だ……今なら、誰にも負ける気がしない!!)


ナイは旋斧と岩砕剣を背負って覚悟を決めるように両手で頬を叩き、気合を込める。そして彼は外に向かおうとした時、地震を想像させる強烈な振動が建物内に襲い掛かった。


「うわっ!?」
「きゃっ!?」
「こ、これは!?」
「何が起きた!?」


部屋の中に居た全員が振動に驚き、ナイは即座に窓の外を確認する。冒険者ギルドから少し離れた場所で土煙のような物が舞い上がっており、その位置を確認したナイは以前にネズミと遭遇した教会を思い出す。

現在、教会の方ではリョフとゴウカが激しい戦闘を繰り広げ、その気配を感じ取ったナイは急がねばならないと思い、すぐに教会へ向かおうとした。しかし、この時に部屋の中にノックも無しに冒険者が入り込む。


「た、大変です!!ギルドマスター!!」
「今度は何だ!?」
「そ、外に……王都の外に猛虎騎士団が!!」
「何だと!?」
「猛虎騎士団だと!?」


冒険者の報告を受けたギガンは驚愕し、他の者達も動揺する。その一方でナイは猛虎騎士団という言葉を聞き、まだ自分が唯一出会っていない王国騎士団が王都に到来しようとしている事を知る――





――王都の城壁にてアルトは他の兵士と共に猛虎騎士団の様子を観察し、既に騎士団は城壁に迫る距離だった。唐突な帰還にアルトだけではなく、城壁の兵士達も戸惑う。


「い、いったい何が……」
「本物だ、本物の猛虎騎士団だぞ!!」
「おい、先頭を見ろ……ロラン団長だ!!」
「大将軍で間違いないぞ!!」
「…………」


猛虎騎士団を率いるロランは漆黒の鎧を纏った老齢の騎士であり、王国騎士の中でも最強と呼ばれている。そのロランが先頭を歩き、城壁の前に立つと開門を要求した。


「開門せよ!!王命を受け、我々は戻ってきた!!」
「王命!?」
「す、すぐに開かなければ……」
「待つんだ!!」


ロランの命令に慌てて城壁の兵士達は従おうとしたが、それを止めたのはアルトだった。彼はロランを見下ろし、覚悟を決める様に城壁の上から話しかける。
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