794 / 1,110
王国の闇
第779話 慟哭
しおりを挟む
――同時刻、シャドウは二つの棺桶の上で苦しみもがいていた。普段は滅多に取り乱さない彼だったが、棺桶の上で彼は呻き声を漏らし、知らず知らずのうちに涙を流す。
「馬鹿野郎がぁっ!!何をっ……何をしてやがるっ!!くそがぁっ!!」
シャドウは狂ったように地面に転がり込み、叫び声をあげる。正体を隠さなければならない彼であったが、今の彼は正常な判断は出来ず、現実を受け入れられなかった。
そんな彼を黙って見下ろす人物が存在した。それはシンに瓜二つの姿をした老人であり、冷めた表情で彼を見下ろす。そんな彼の視線に気付いてシャドウは睨みつけた。
「何を見てやがる……失せろっ!!」
「…………」
老人に対してシャドウは怒鳴りつけると、その言葉に従うよう部屋の隅に移動する。その姿にシャドウは増々憤るが、いくら怒りを抱いたところで現状は変わらない。
「くそがっ……どうしてだ、どうして……あぁああああっ!!」
シャドウは絶叫すると、やがて吹っ切れたような表情を浮かべ、彼は黙って棺桶の一つに手を伸ばす。棺桶を開いた瞬間、異様な冷気が部屋の中に放たれ、棺桶の内部には多数の水属性の魔石が敷き詰められていた。
この棺桶には仕掛けが施されており、棺桶に入った人間の死体がこれ以上に腐らないように冷凍する仕組みになっていた。無論、定期的に魔石を入れ替える必要はあるが、そのお陰で死体の方は綺麗な状態で残っていた。
――棺桶の中に入っていたのはシャドウが知る人間の中でも最強の「武力」を誇る男であり、かつてのシャドウの相棒でもあった。その男の名前は「リョフ」と呼ばれ、リョフは胸元に剣で突き刺された様な傷跡が残っていた。
胸の中心に存在する傷跡をシャドウは見下ろすと、彼はゆっくりと死霊石と呼ばれる死体を操る際に利用する魔石を取り出す。死霊石を手にしたシャドウはリョフの死体に向けて手を伸ばし、傷口から体内に埋め込む。
「甦れ……リョフ!!」
シャドウの言葉に反応して体内に埋め込まれた死霊石から闇属性の魔力が流れ込み、全身が凍り付いていたリョフの身体が徐々に黒色化する。
もう一つの棺桶には生前のリョフが扱っていた「魔槍」が収められていた。外見は槍というよりも戟に近く、その名前は「雷戟」と名付けられていた。
この雷戟は出自が不明で有り、何時誰が何の目的で作り出したのかは不明である。だが、この雷戟を扱えた人間はリョフ以外にはおらず、ジャンヌが使用していた氷華や炎華にも劣らぬ危険な能力を宿していた。
「さあ、目覚めろ……そして奴の計画の糧となれ!!」
『グゥウッ……ウオオオッ!!』
シャドウの怒りに呼応するかのようにリョフは瞼を開くと、全身から漆黒の炎のような闇属性の魔力を纏い、胸元の傷口が塞がれていく。その姿を見たシャドウは笑みを浮かべ、彼は確信を抱く。この目の前の男こそ自分の生涯の最高傑作になる事を。
雷戟を手にしたリョフは起き上がり、それを見たシャドウは笑みを浮かべると、その場に座り込む。意識を失ったのか、彼は動かなくなる。その一方でリョフの方は意識を取り戻したように瞳に光が宿る。
『ここ、は……どこ、だ?』
リョフは自分の姿の異変に気付き、胸元に手を伸ばす。自分はジャンヌとの戦いで彼女と相打ちになった事を思い出すが、どうして死んだはずの自分がここに居るのかと戸惑う。
『おれは……いきているのか?』
言葉もまだはっきりと発音は出来ないが、リョフは自分の肉体と手にした武器を見て頭を抑え、やがて意識が薄れていく。彼は棺桶から抜け出すと、ゆっくりと外の世界に向けて動き出す。
『ううっ……おぉおおおおっ!?』
日の光を浴びた途端にリョフは今までにないほどの苦痛を味わい、膝を着いてしまう。自分の身体の変化に彼は戸惑うが、その一方で苦痛を感じる度に意識が覚醒していく。
強靭な精神力を誇るリョフは光を浴びて苦痛を感じながらも精神は壊れず、むしろ日の光如きに苦しむ自分自身に怒りを抱く。その感情の高ぶりに呼応するように死霊石から魔力が生み出され、全身を包み込む。
やがてリョフの肉体は「漆黒の鎧」を纏ったかのように変化し、闇属性の魔力が光を遮る。リョフは自分の変化に戸惑いながらも手にした雷戟に視線を向け、外の世界へと足を踏み入れた。
『何だ、これは……?』
外の光景を見てリョフは自分が王都に居る事は理解したが、彼の記憶にある王都とは街の外観が少々異なり、違和感を拭えない。自分の身体の変化もそうだが、王都の風景が変わっている事に戸惑うと、何処からか声が聞こえてきた。
――リョフ、約束を守ってもらうぞ
何処からか聞こえてきた声にリョフは驚き、振り返るがそこには誰もいない。しかし、声は自分の頭の中に響いた様に感じ、リョフはある事を思い出す。それは生前、シャドウと交わした約束を彼は思い出した。。
「馬鹿野郎がぁっ!!何をっ……何をしてやがるっ!!くそがぁっ!!」
シャドウは狂ったように地面に転がり込み、叫び声をあげる。正体を隠さなければならない彼であったが、今の彼は正常な判断は出来ず、現実を受け入れられなかった。
そんな彼を黙って見下ろす人物が存在した。それはシンに瓜二つの姿をした老人であり、冷めた表情で彼を見下ろす。そんな彼の視線に気付いてシャドウは睨みつけた。
「何を見てやがる……失せろっ!!」
「…………」
老人に対してシャドウは怒鳴りつけると、その言葉に従うよう部屋の隅に移動する。その姿にシャドウは増々憤るが、いくら怒りを抱いたところで現状は変わらない。
「くそがっ……どうしてだ、どうして……あぁああああっ!!」
シャドウは絶叫すると、やがて吹っ切れたような表情を浮かべ、彼は黙って棺桶の一つに手を伸ばす。棺桶を開いた瞬間、異様な冷気が部屋の中に放たれ、棺桶の内部には多数の水属性の魔石が敷き詰められていた。
この棺桶には仕掛けが施されており、棺桶に入った人間の死体がこれ以上に腐らないように冷凍する仕組みになっていた。無論、定期的に魔石を入れ替える必要はあるが、そのお陰で死体の方は綺麗な状態で残っていた。
――棺桶の中に入っていたのはシャドウが知る人間の中でも最強の「武力」を誇る男であり、かつてのシャドウの相棒でもあった。その男の名前は「リョフ」と呼ばれ、リョフは胸元に剣で突き刺された様な傷跡が残っていた。
胸の中心に存在する傷跡をシャドウは見下ろすと、彼はゆっくりと死霊石と呼ばれる死体を操る際に利用する魔石を取り出す。死霊石を手にしたシャドウはリョフの死体に向けて手を伸ばし、傷口から体内に埋め込む。
「甦れ……リョフ!!」
シャドウの言葉に反応して体内に埋め込まれた死霊石から闇属性の魔力が流れ込み、全身が凍り付いていたリョフの身体が徐々に黒色化する。
もう一つの棺桶には生前のリョフが扱っていた「魔槍」が収められていた。外見は槍というよりも戟に近く、その名前は「雷戟」と名付けられていた。
この雷戟は出自が不明で有り、何時誰が何の目的で作り出したのかは不明である。だが、この雷戟を扱えた人間はリョフ以外にはおらず、ジャンヌが使用していた氷華や炎華にも劣らぬ危険な能力を宿していた。
「さあ、目覚めろ……そして奴の計画の糧となれ!!」
『グゥウッ……ウオオオッ!!』
シャドウの怒りに呼応するかのようにリョフは瞼を開くと、全身から漆黒の炎のような闇属性の魔力を纏い、胸元の傷口が塞がれていく。その姿を見たシャドウは笑みを浮かべ、彼は確信を抱く。この目の前の男こそ自分の生涯の最高傑作になる事を。
雷戟を手にしたリョフは起き上がり、それを見たシャドウは笑みを浮かべると、その場に座り込む。意識を失ったのか、彼は動かなくなる。その一方でリョフの方は意識を取り戻したように瞳に光が宿る。
『ここ、は……どこ、だ?』
リョフは自分の姿の異変に気付き、胸元に手を伸ばす。自分はジャンヌとの戦いで彼女と相打ちになった事を思い出すが、どうして死んだはずの自分がここに居るのかと戸惑う。
『おれは……いきているのか?』
言葉もまだはっきりと発音は出来ないが、リョフは自分の肉体と手にした武器を見て頭を抑え、やがて意識が薄れていく。彼は棺桶から抜け出すと、ゆっくりと外の世界に向けて動き出す。
『ううっ……おぉおおおおっ!?』
日の光を浴びた途端にリョフは今までにないほどの苦痛を味わい、膝を着いてしまう。自分の身体の変化に彼は戸惑うが、その一方で苦痛を感じる度に意識が覚醒していく。
強靭な精神力を誇るリョフは光を浴びて苦痛を感じながらも精神は壊れず、むしろ日の光如きに苦しむ自分自身に怒りを抱く。その感情の高ぶりに呼応するように死霊石から魔力が生み出され、全身を包み込む。
やがてリョフの肉体は「漆黒の鎧」を纏ったかのように変化し、闇属性の魔力が光を遮る。リョフは自分の変化に戸惑いながらも手にした雷戟に視線を向け、外の世界へと足を踏み入れた。
『何だ、これは……?』
外の光景を見てリョフは自分が王都に居る事は理解したが、彼の記憶にある王都とは街の外観が少々異なり、違和感を拭えない。自分の身体の変化もそうだが、王都の風景が変わっている事に戸惑うと、何処からか声が聞こえてきた。
――リョフ、約束を守ってもらうぞ
何処からか聞こえてきた声にリョフは驚き、振り返るがそこには誰もいない。しかし、声は自分の頭の中に響いた様に感じ、リョフはある事を思い出す。それは生前、シャドウと交わした約束を彼は思い出した。。
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる