貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
784 / 1,110
王国の闇

第770話話 隠し武器庫

しおりを挟む
「皆さんが無事で本当に良かったです。でも、これからどうしますか?」
「決まっているだろう、すぐに王城へ戻ってシンを捕まえる!!奴め、我々をこんな目に遭わせた報いを受けさせてやろう!!」
「そうですわね、もう言い逃れはできませんわ。例え国王様が止めようとしても私は宰相を捕まえます!!」
「俺はゴウカの元へ向かわせてもらうぞ!!あいつだけは許さねえ、一発ぶん殴らないと気が収まらないからな!!」
「まあ、落ち着かんか皆の衆……気持ちは分かるが、今の状況では難しいぞ」


興奮した様子で自分達をこんな目に遭わせた者達の元へ向かおうとするアッシュ達に対し、一人だけ冷静なハマーンは全員を落ち着かせようとした。


「宰相を捕まえるにしろ、ゴウカの元へ向かうにしろ、今の儂等は武器も防具も奪われた状態じゃぞ。こんな状態で戦闘にでもなれば坊主の足を引っ張る事になる」
「ならばこの闘技場内に保管されている武器庫へ向かうぞ!!ここには魔物が利用する武器も保管されている!!」
「そんなもん、何の役に立つんじゃ?魔物が使う武器じゃぞ、碌に手入れもされておらんだろう」


闘技場では魔物に武器を防具を与えて戦わせる事もあるが、大抵使い古された代物であり、敢えて壊れやすい武器や防具を身に付けさせて戦わせる。下手に新品の武器や防具を与えると闘技場の参加者が不利になるため、まともな武器は保管していない。

ここに集まっている者達はシンから「国の脅威」と認識された一流の武芸者揃いであり、一流の鍛冶師としては彼等に相応しい武器を用意させたいと考えたハマーンは、自慢げな表情で自分の顔を指差す。


「まずは儂の店に向かうぞ、儂の秘蔵の武器と防具を今回だけ貸してやろう」
「それは本当か、ハマーン殿!?」
「それは有難いが……大丈夫なのか?ナイの話によるとハマーン殿の店も襲われたそうだが……」
「安心せい、儂は万が一の場合に備えて地下に秘密の武器庫を作っておる。そこは儂にしか開く事が出来ない仕掛けを施しておるからな、そこまで移動すればお主等に見合った武器と防具を渡してやろう」
「ほう、それは有難い!!ではハマーン殿の店に向かうぞ!!」
「分かりました。それじゃあ、僕が先行するので他の人は後から付いて来て下さい」


ハマーンの話を聞いて全員がまずは装備を調達するため、最初に彼の店に向かう事を決めた。ナイを先頭に全員が階段を上り、遂に地下からの脱出を果たす。

ここでリン達にとっての予想外な出来事は闘技場の見張りに関してであり、階段を上った先の通路を見て驚く。そこには十数名の王国騎士が倒れており、彼等はドリスとリンを裏切ってシンに寝返った王国騎士達で間違いなかった。


「こ、これは!?」
「あっ……そう言えば言い忘れてました。この人達がここで見張っていたんで、話しかけたら急に襲い掛かって来たんで仕方なく倒したんです」
「倒した?これだけの数の王国騎士を一人で!?」
「はい、そうですけど……」


ナイが申し訳なさそうな表情で答えると、ドリス達は信じられない表情を浮かべて倒れた騎士達の様子を確認する。王国騎士は騎士の中でも特別な地位であり、この国最強の精鋭と言っても過言ではない。

そんな王国騎士を十数名も相手にしてナイはたった一人で叩きのめし、しかも存在を忘れる程に彼の記憶には残っていなかった事を意味する。この事実にドリスとリンは冷や汗を流し、アッシュの方もナイが依然と比べて一段と成長した事を悟る。


(し、信じられませんわ……これだけの数の王国騎士を相手にして無傷だなんて)
(私でもこれだけの数の王国騎士を同時に相手にするのは……)
(また一段と強くなったか……これは、本格的に娘の婿として接しなければならんのかもしれんな)


ドリスとリンは裏切った王国騎士達の元上司であり、彼等の強さはよく知っている。それだけにナイが事もなさげに王国騎士を倒したという話を聞いて動揺を隠せず、一方でガオウとハマーンは既に邪魔者を排除したナイを褒め称える。


「はっ、やるじゃねえか坊主!!だが、ここから先はお前だけに活躍させないぞ!!」
「うむ、ここからは共に戦うぞ!!儂もここまでされた以上、流石に我慢できん!!さあ、行くぞ皆の者!!」


ハマーンの言葉に全員が頷き、ドリスとリンは何かを思い出したようにナイに問い質す。


「ちょ、ちょっと待ってくださいましっ!!」
「ましっ……?」
「今のは少し嚙んだだけですわ!!それよりもナイさん、ここに魔物はいませんでしたの!?」
「ああ、私達を追い詰めた魔物がいるはずだ」
「魔物?それならもう全員倒したと思いますけど……」


魔物という言葉にナイは闘技場の前に現れたオークの集団と、魔人族であるリザードマン、更にはゴブリンキラーらしき個体を倒した事を告げる。これらの魔物達はドリスとリンは昨日に交戦しており、その話を聞いたドリスとリンは驚愕した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

処理中です...