貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
761 / 1,110
王国の闇

第747話 脱出成功

しおりを挟む
「ふうっ……意外と上手くいきましたね」
「ふふふ、中々そういう格好も似合っておるぞ」


クロネに化けていたのはエルマであり、実はこの二人は背格好が良く似ており、それを利用してヒナはエルマに化粧を施す。この際に髪の毛の色も染め、服もクロネの予備の服を借りる。

戦闘能力がない従業員ならば警戒される事もないと判断し、しかも暗闇で碌に顔を見れない状況ならば尚更だった。警備兵は体調を崩したマホに注目するため、彼女を運ぶ際にクロネを演じたエルマの顔をよく見ようとはせず、そもそもエルマの顔を知る兵士自体が少ないはずである。

三人の警備兵を車内で倒したヒナ達は御者を脅し、王城を向かうのを中断して外部にいるはずのランファンと連絡を取るために行動を開始した。


「止まりなさい、下手な動きをしたら命はないわよ!!」
「ひいっ!?」
「ヒ、ヒナさん……その台詞だと私達が悪党のように聞こえますが」
「そういう所はしっかりとテンに似ておるのう」


ヒナに脅された警備兵は慌てて馬車を止めると、彼も気絶させて他の兵士と共に車内に隠すとヒナ達は外へ出る。まだ安心できる状況ではないが、一刻も早くランファンと合流する必要があった。


「老師、無理はされないでください。これからどうしますか?」
「うむ……とりあえず、儂は王城へと戻る。城内で情報を探る事にしよう」
「えっ!?でも、危険なんじゃ……」
「そうとも限らん。どうやら宰相は儂に死なれると困るみたいだからのう、それにこのままでは儂はお主等の足手まといになる……エルマ、これを持っていけ」
「老師!?」


結局はマホは王城に戻る事を告げると、彼女は杖を差し出す。マホが現在所有している杖は彼女が数十年も使い続けた大切な杖であり、それを渡されたエルマは戸惑う。


「その杖は儂の半身と言っても過言ではない。必ず、後で儂に返すのじゃぞ」
「……分かりました!!必ずお返しします!!」
「うむ、ではな……」
「マホさん……」


マホはヒナとエルマと別れると一人で王城へ向かう。その様子を見送り、心配そうな表情を浮かべながらもヒナとエルマは行動を開始した――





――同時刻、王城の方でも動きはあった。イリアとイシは気絶させたオロカを連れ出し、医療室へと足を踏み入れる。そこにはシンの姿があり、そして姿を隠蔽したシャドウの姿もあった。

全員が揃うと事前に用意していた円卓に座り込み、王都の地図を広げる。地図上には闘技場と白猫亭の上に駒が置かれ、闘技場には金と銀の駒、白猫亭には赤の駒、そして王都の外の方には白の駒が置かれていた。これは各王国騎士団を現す駒であり、最も王都から離れた場所には虎の模様が刻まれた駒が置かれる。


「王都の種戦力である金狼騎士団、銀狼騎士団、そして聖女騎士団はこれで排除した。残るのはアルト王子が率いる白狼騎士団と冒険者達だが……問題にもならんだろう」
「それはどうですかね、白狼騎士団は侮れませんよ。特にあの人は……」
「例の坊主か……」


地図を確認してシンは自分の計画が間もなく果たされると確信を抱くが、イリアはまだ不安要素が残っている事を指摘する。彼女は白色の駒を取り上げて掌の上で転がすと、イシも反応を示す。


「ナイさんの実力は宰相だってご存じでしょう?あの人は若いですけど、私の見立てでは実力は王国騎士団の
「なるほど、確かにお主の言う言葉が本当ならば彼もまたこの国の有能な人材に成りえるな」
「そうでしょう?あの時、私がナイさんを抹殺しなかったのは正しい事だったと認めてくれますか?」


飛行船に乗り合わせた際、実はイリアはナイの抹殺をシンに命じられていた。理由としてはナイが王族との関係が多く、今後彼が他の王族に何らかの悪影響を与える可能性もあった。

実際にナイと遭遇してからアルトは以前以上に活発的に行動するようになり、彼のために貴重な魔石を利用して魔剣(旋斧)の実験まで始めた。当時のナイはシンからすれば不安要素が大きく、排除する事を命じる。



――しかし、その命令に対してイリアは個人的な判断で反故し、逆に彼を助けるような真似までした。イチノでのナイの戦いぶりを見て彼は殺すよりも生かし他方が面白い事になるというイリアの判断であり、それに対してシンも止む無く認めた。



イチノから帰還した後もナイは成長を続け、そして現在では王国騎士や黄金級冒険者にも劣らぬ実力を身に付けた。だが、シンからすればナイは味方に引き込めれば心強い存在だが、その反面に彼のせいでシンの勢力も大分削られてしまった。


「件の少年が確かに実力を身に付けた事は認める。しかし、少々やり過ぎた。これ以上は見逃す事はできん、我々の施設を潰された以上はな」


クーノの白面が管理されていた施設はナイ達によって壊滅されたという報告はシャドウから受けており、シンとしてはもうナイ達を放置する事はできず、彼は始末する方向で話を進めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...