貧弱の英雄

カタナヅキ

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王国の闇

第740話 ヨウの祈り、インの願い

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「――ヨウ司祭、もう夜が明けます。あまり無理をするとお身体が壊れますよ!!」
「…………」


イチノの陽光教会ではヨウは一晩中祈りを捧げ、その様子を見かねたインが彼女に声を掛ける。一か月以上も前からヨウは毎日夜通し祈りを捧げていた。そんな彼女をいつも心配するのはインであった。

ヨウが祈りを捧げる際中は誰の声も聞かず、他の修道女も声を掛けられる雰囲気ではなかった。しかし、インだけは別で彼女は祈りを捧げるヨウの元に赴き、溜息を吐きながら肩を掴む。


「もうお休みください、ヨウ司祭!!これ以上に無理をすれば本当に倒れますよ!!」
「イン……私には祈る事しか出来ないのです。だから邪魔をしないで……」
「そんなわけにはいきません!!貴女が倒られたらこの教会はどうなると思っているのですか!?」


インはヨウの言い分を聞かず、無理やりに彼女を立ち上がらせると肩を貸して彼女の部屋のベッドまで運び込む。こんなやり取りを一か月以上も繰り返し、インは毎回夜が明けた後はヨウをベッドで休ませて食事を取らせていた。



――どうしてヨウが夜通し陽光神に祈りを捧げる様になったのかというと、それは彼女は一か月以上前に見た予知夢のせいだった。その夢の内容は王都に戻ったはずのナイが漆黒の鎧を纏った剣士と向かい合い、身体中が傷だらけの状態で剣士と向かい合っていた光景だった。



漆黒の剣士は傷だらけのナイに対して容赦なくを振りかざし、その攻撃に対してナイは傷だらけの大剣を振りかざすが、結果は漆黒の剣士が振り落とした大剣によってナイが手にしていた

武器を失ったナイに対して漆黒の剣士は容赦せず、大剣を彼の頭上に目掛けて振り下ろす。しかし、そこから先の出来事を見る前にヨウは目を覚ましてしまい、彼女は毎回眠る時はいつも同じ夢を見てしまう。

当然だがヨウはナイとは親しい間柄のドルトンとイーシャンに夢の内容を伝え、自分が予知夢という異能を持っている事を明かす。最初はイーシャンは夢の内容が現実になるなど信じなかったが、ドルトンはヨウの気迫と表情を見て嘘とは思えず、彼はナイの身に危険が迫っている事を信じた。


『ナイの事は儂等に任せてくれ。丁度、復活した儂の商会も王都へ遠征しようと思っていた所でな。予定をかなり早める事になるが、すぐに王都へ出発しましょう。イーシャン、お主も来てくれ。儂の主治医として雇おう』
『お、俺もか?』


ドルトンは元々近いうちに商業のために王都へ向かう予定だった事を伝え、医者であるイーシャンも連れて王都へ向かう。イチノから王都までかなりの距離が存在するが、この二人にナイに危険を知らせる事ができる人物はいない。


「ナイ……無事でいてください」
「ヨウ司祭……あの子を信じましょう。大丈夫です、あの子は誰よりも強くなった。私はそう思います」
「イン……」


ヨウの呟きに対してインは元気づける様に言い返し、その言葉を聞いてヨウは意外そうな表情を浮かべる。少し前まではナイの事を忌み子として避けていた彼女だが、今の彼女の言葉に嘘を感じられない。

様々な経験を経てインも精神的に成長し、彼女はヨウ程にナイの事を心配などしていなかった。勿論、ヨウの予知夢の話を信じていないわけではないが、これまでにナイが乗り越えた数々の苦難を思い返し、彼ならばどんな危険な目に遭ったとしても必ず乗り越えられる強さを持っていると信じる。


「ヨウ司祭、あの子を信じましょう。ナイは……この街の英雄です。あの子ならどんな困難に直面しようと、きっと乗り越えられます」
「……まさか、貴女の口からそんな言葉が聞けるとは思いませんでした」
「そう思われても仕方ありませんけど……私だってあの子の事をずっと見てきたつもりです」


インはナイが陽光教会に世話になっている時から彼の事を見ており、ヨウの次に彼の世話をしてきた。教会に居た頃のナイに対してはインはあまり良い印象は抱いていなかったが、それでも彼の力と才能は認めていた。

いくらヨウが教えたとはいえ、普通の人間の場合は簡単に回復魔法を覚えるはずがない。あくまでもナイが覚えた回復魔法は基礎でしかないが、それでも魔法の才能がなければ覚えられるはずがない。

ヨウがナイに期待を抱いていた様にインも彼の事は実を言えば心の底では認めており、冷たく当たってはいたがナイの事は認めていた。そして改心した彼女だからこそ、ナイの凄さを素直に認めてヨウに安心させるように告げる。


「あの子は強い、そういったのはヨウ司祭ではありませんか。なら、あの子を信じて待ちましょう」
「信じる……」
「ナイならきっと大丈夫……あの子はこの国の英雄にもなれる器を持っています」
「……その通りですね」


インの言葉にヨウは初めて笑顔を浮かべ、そんな彼女にインは笑いかけ、遠い地のナイの事を想って二人は窓から空を見上げた――
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