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王国の闇
第738話 マホの予感
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「――待たせたな」
「老師!?」
「今まで何処に居たのですか!?」
「きゅ、急に消えるんじゃねえよ……うぐぅっ!?」
「全く……あれほど注意したのに魔剣の力を使いおったな?仕方のない奴じゃ」
白猫亭にて治療を受けていたエルマ達の元にマホが唐突に現れ、彼女は一人で杖を突きながらどうにか歩いて戻って来た。三人は治療中にも関わらずにマホの元へ訪れ、急いで彼女を白猫亭の中に通す。
現在の白猫亭は聖女騎士団の面々が治療を受けているが、生憎と薬が足りずに応急処置程度の治療しか受けられていない。それでもエリナはルナは比較的に軽傷であるため、今の所は二人が見張りを行っている。
一番の重体はテンであり、治療を受けた後はベッドに横たわってからは目を覚ます様子がない。現在はヒナが付きっ切りで看病を行っていた。
「酷い有様じゃな……誰も死んでおらぬか?」
「え、ええっ……奇跡的に全員生きています。あれほど酷い目に遭ったのに」
「奇跡ではない、ゴウカは敢えて死なないように手加減しておったのだ」
「て、手加減!?あの攻撃が手加減だなんて……」
「真実じゃ……奴は強すぎる、少なくとも奴に単独で勝てる人間など国内にはおらぬだろう」
「畜生がっ……」
ゴウカの話を聞いてガロは右腕を抑え、昼間の戦闘で一度切り落とした腕はまだ完全には感覚が戻っておらず、これでは武器を握る事もできない。いずれは治るだろうが今のガロはまともに戦える状態ではなかった。
マホが白猫亭に戻った理由は皆の安全を確かめるため、それと魔剣「炎華」と「氷華」の確認のためだった。二つの魔剣は忘れないように回収しており、現在はエルマが預かっていた。
「エルマよ、その二つの魔剣を渡してくれるか」
「老師?いったい何を……」
「この魔剣はむやみやたらに使う事は許されぬ……儂が認める者が現れるまでは儂が保管しなければならぬ」
「そ、そんな魔剣……本当に操れる奴がいるのか?」
実際に氷華を使用したガロからすれば普通の魔剣とは異なり、氷華は明らかにおかしかった。通常の魔剣と異なる点は氷華の場合は能力を使用しようとしただけで強制的に所有者の魔力を吸い上げ、根こそぎ奪おうとしてきた。仮にガロが腕を切断していなかった場合、あのまま彼はミイラと化すまで魔力(生命力)を奪われていただろう。
氷華と炎華はただの魔剣ではなく、この二つの魔剣を操作するためには火属性と水属性の適正を持つだけではなく、魔力を完全に奪われない様に制御する高い「魔操術」の技量を必要とする。そして後にも先にもこの魔剣を使いこなしたのは王妃ジャンヌしか存在しない。
「この魔剣の後継者は儂が見極める。お主にはまだ手に負えんかったようじゃがな」
「ぐっ……!!」
「だが、お主が一から鍛え直し、強くなればこの魔剣を扱える日が来るかもしれぬ。しかし、今のお主にその資格はない」
「……ちっ、はっきり言いやがって」
以前のガロならば考え無しに魔剣を使いこなせると怒鳴りつけていたかもしれない。しかし、冒険者稼業を行う内に成長した彼は嫌でも自分の実力を思い知らされ、悔しいが今の自分では魔剣を使いこなせる力量は無い事を悟っていた。
国内で炎華と氷華を同時に扱いこなせる人間はいないのは確かであり、片方の魔剣だけでも使いこなせる人間がいるかどうかも怪しい。だが、既にマホは炎華に関しては扱える可能性を持つ人間を見出していた。
(あの者ならばこの炎華を使いこなせるかもしれぬ……しかし、今は何処に居るのやら)
炎華を見つめながらマホは点を見上げ、彼女の思い描く人物が早く戻ってくる事を祈るばかりである――
「――へっくしょんっ!!」
「うわっ、びっくりした。大丈夫かい?」
王都から離れた草原にて夜営を行っていたナイはくしゃみを行い、アルトは驚いた声を上げる。ナイは現在、アルトに装備を見直して貰い、他の皆は既に眠っていた。
明日には王都に辿り着けると思うが、妙にナイは落ち着かず、落ち着いて眠る事ができなかった。アルトの方はナイのために装備の点検を行い、二人で夜遅くまで語り合う。
「ふうっ……それにしてもナイ君は本当に強くなったね、あのミノタウロスを素手で仕留めるなんて……」
「いや、皆が助けてくれなかったら流石に殺されていたと思うよ?」
「それでも大した物さ……よし、終わったぞ。ほら、身に付けてくれ」
「わあっ……ありがとう、アルト」
アルトに促されるままにナイは装備を身に付けると、完璧に修復された闘拳に満足そうに頷く。少し前から不具合を感じていたが、クーノに赴いた時にアルトが工具と部品を購入し、完璧に直してもらう。
改めてナイは反魔の盾を反対の腕に装着し、二つの大剣を背負う。そして今回から新しい装備としてアルトが用意してくれた銀とミスリルの合金で構成された鎖帷子も身に着けた。
「老師!?」
「今まで何処に居たのですか!?」
「きゅ、急に消えるんじゃねえよ……うぐぅっ!?」
「全く……あれほど注意したのに魔剣の力を使いおったな?仕方のない奴じゃ」
白猫亭にて治療を受けていたエルマ達の元にマホが唐突に現れ、彼女は一人で杖を突きながらどうにか歩いて戻って来た。三人は治療中にも関わらずにマホの元へ訪れ、急いで彼女を白猫亭の中に通す。
現在の白猫亭は聖女騎士団の面々が治療を受けているが、生憎と薬が足りずに応急処置程度の治療しか受けられていない。それでもエリナはルナは比較的に軽傷であるため、今の所は二人が見張りを行っている。
一番の重体はテンであり、治療を受けた後はベッドに横たわってからは目を覚ます様子がない。現在はヒナが付きっ切りで看病を行っていた。
「酷い有様じゃな……誰も死んでおらぬか?」
「え、ええっ……奇跡的に全員生きています。あれほど酷い目に遭ったのに」
「奇跡ではない、ゴウカは敢えて死なないように手加減しておったのだ」
「て、手加減!?あの攻撃が手加減だなんて……」
「真実じゃ……奴は強すぎる、少なくとも奴に単独で勝てる人間など国内にはおらぬだろう」
「畜生がっ……」
ゴウカの話を聞いてガロは右腕を抑え、昼間の戦闘で一度切り落とした腕はまだ完全には感覚が戻っておらず、これでは武器を握る事もできない。いずれは治るだろうが今のガロはまともに戦える状態ではなかった。
マホが白猫亭に戻った理由は皆の安全を確かめるため、それと魔剣「炎華」と「氷華」の確認のためだった。二つの魔剣は忘れないように回収しており、現在はエルマが預かっていた。
「エルマよ、その二つの魔剣を渡してくれるか」
「老師?いったい何を……」
「この魔剣はむやみやたらに使う事は許されぬ……儂が認める者が現れるまでは儂が保管しなければならぬ」
「そ、そんな魔剣……本当に操れる奴がいるのか?」
実際に氷華を使用したガロからすれば普通の魔剣とは異なり、氷華は明らかにおかしかった。通常の魔剣と異なる点は氷華の場合は能力を使用しようとしただけで強制的に所有者の魔力を吸い上げ、根こそぎ奪おうとしてきた。仮にガロが腕を切断していなかった場合、あのまま彼はミイラと化すまで魔力(生命力)を奪われていただろう。
氷華と炎華はただの魔剣ではなく、この二つの魔剣を操作するためには火属性と水属性の適正を持つだけではなく、魔力を完全に奪われない様に制御する高い「魔操術」の技量を必要とする。そして後にも先にもこの魔剣を使いこなしたのは王妃ジャンヌしか存在しない。
「この魔剣の後継者は儂が見極める。お主にはまだ手に負えんかったようじゃがな」
「ぐっ……!!」
「だが、お主が一から鍛え直し、強くなればこの魔剣を扱える日が来るかもしれぬ。しかし、今のお主にその資格はない」
「……ちっ、はっきり言いやがって」
以前のガロならば考え無しに魔剣を使いこなせると怒鳴りつけていたかもしれない。しかし、冒険者稼業を行う内に成長した彼は嫌でも自分の実力を思い知らされ、悔しいが今の自分では魔剣を使いこなせる力量は無い事を悟っていた。
国内で炎華と氷華を同時に扱いこなせる人間はいないのは確かであり、片方の魔剣だけでも使いこなせる人間がいるかどうかも怪しい。だが、既にマホは炎華に関しては扱える可能性を持つ人間を見出していた。
(あの者ならばこの炎華を使いこなせるかもしれぬ……しかし、今は何処に居るのやら)
炎華を見つめながらマホは点を見上げ、彼女の思い描く人物が早く戻ってくる事を祈るばかりである――
「――へっくしょんっ!!」
「うわっ、びっくりした。大丈夫かい?」
王都から離れた草原にて夜営を行っていたナイはくしゃみを行い、アルトは驚いた声を上げる。ナイは現在、アルトに装備を見直して貰い、他の皆は既に眠っていた。
明日には王都に辿り着けると思うが、妙にナイは落ち着かず、落ち着いて眠る事ができなかった。アルトの方はナイのために装備の点検を行い、二人で夜遅くまで語り合う。
「ふうっ……それにしてもナイ君は本当に強くなったね、あのミノタウロスを素手で仕留めるなんて……」
「いや、皆が助けてくれなかったら流石に殺されていたと思うよ?」
「それでも大した物さ……よし、終わったぞ。ほら、身に付けてくれ」
「わあっ……ありがとう、アルト」
アルトに促されるままにナイは装備を身に付けると、完璧に修復された闘拳に満足そうに頷く。少し前から不具合を感じていたが、クーノに赴いた時にアルトが工具と部品を購入し、完璧に直してもらう。
改めてナイは反魔の盾を反対の腕に装着し、二つの大剣を背負う。そして今回から新しい装備としてアルトが用意してくれた銀とミスリルの合金で構成された鎖帷子も身に着けた。
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