貧弱の英雄

カタナヅキ

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王国の闇

第718話 回想『宰相と影の支配者』

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――時は少し前に遡り、リノの命を受けてシノビは内密にバッシュの後を追う。バッシュから伝えられた話が事実ならば彼自身も狙われる危険性もあり、その予想は的中した。

玉座の間の前にてバッシュは兵士に拘束され、連れて行かれる光景を確認したシノビはすぐに助けようとした。だが、シンの目的が気にかかり、ここは敢えて彼が王子を何処へ連れて行くのか後を尾行する。


(宰相の目的は王子の命を奪う事ではないようだが……何を考えている)


シンはバッシュを連れて一階のある部屋へと移動した。そこは普段は倉庫として利用されている場所だが、床板を外すと地下に続く階段が存在した。


(なるほど……こんな場所に隠し部屋があったとはな)


階段を降りると地下牢が存在し、その場所に王子は運び込まれた。シノビは彼等の後に続いて様子を伺う。しかし、地下牢の扉越しに聞こえてきた内容に彼は目を見開く。

シンの正体がこの国を裏で支え続けてきた一族である事、国のためならば例え相手が王族であろうと手を下す事、そしてシンがリノの命を狙っている事をシノビは初めて知る。


(おのれ、宰相め……本当の狙いはリノ王女か!?)


シンの目的はバッシュの命ではなく、彼を地下牢に閉じ込めてその間に邪魔者のリノを始末するつもりだと知り、シノビはシンを拘束するために姿を現す。


「シン!!貴様……リノ王女に何をするつもりだ!?」
「ほう……なるほど、尾けていたか。流石は忍者、イゾウよりも隠密術に優れておるな」
「何だと!?」


自分の前に現れたシノビに対してシンは感心した様子で頷き、この時に彼は「イゾウ」の名前を口にした。先日の事件は宰相の耳にも届いているので彼がイゾウの名前を知っていてもおかしくはないが、まるでイゾウの事を昔から知っているような口ぶりだった。


「イゾウも中々に優れた男だが、お主の方が忍者としては優れているようじゃな。惜しいのう、その才能をこの国のために生かしてくれれば役立ちそうだが……知られた以上は死んでもらうぞ」
「貴様……!!」
「宰相、御下がりください!!」
「この者は我等が……」


シンの傍に控えていた兵士がシノビと向き合うが、そんな彼等に対してシンは肩を掴み、自分の後ろに隠れる様に促す。


「止めて置け。お主達が敵う相手ではない。安心しろ、儂は死なぬ」
「……この俺を舐めているのか?」
「舐めてはおらん。それよりもお主、儂に構っていてもいいのか?大切なリノ王女の身に危険が迫っておるぞ」
「何だとっ……!?」


この時にシノビはシンの足元の影が変化している事に気付き、自分の元に近付いている事を知る。異様な悪寒を感じたシノビはその場を跳んで影を回避すると、シンの影は彼の姿ではなく、別の姿へと変貌した。

やがてシンの元から影は切り離されると、円形へと変化を果たす。そして影の中から現れたのは人の形をした「何か」だった。


(何だこれは!?)


全身が黒い靄のような物に覆い込まれた物体が出現し、すぐにシノビは自分の肉体から力が抜け落ちる感覚に襲われ、黒い靄の正体を見抜く。この物体は闇属性の魔力で間違いなく、やがて人の形をした物体から声が放たれる。


『こうしてちゃんと顔を合わせる初めてだな……お前が俺の相棒の同胞だろう?』
「何だと……まさか、貴様がシャドウか!?」


シンの影から現れた人の形をした物体の正体、それがシャドウだと見抜いたイゾウは躊躇なく風魔を抜いて攻撃を行う。

シャドウに対してシノビは風属性の魔力を刃に纏わせ、シャドウの首筋に放つ。だが、刃が触れた瞬間に奇妙な感覚に襲われ、シノビの攻撃は素通りした。


「何だと!?」
『無駄だ……影を切る事は誰もできない』
「くぅっ!!」


確実にシャドウの首を切ったと思ったが、実際は刃はシャドウの首を通過し、その後も何度か切り付けようとしたが刃は通らない。いくら攻撃をしても通じず、シノビは嫌な予感を抱いて階段を駆け上り、距離を取る。


『逃げるのか?この奥に王子様がいるんだぞ?』
「くっ……」
『まあ、逃げた方が賢明かもな……お前のお姫様の命が危ないぞ?』
「っ……!?」


シノビはシャドウの言葉を聞いてシンの顔を見ると、シンは微動だにせず、無表情を貫く。その様子を見てシノビは疑問を抱いたが、即座に彼はその場を離れた。

倉庫を脱出したシノビは外で見張り役を行っていた兵士の前に姿を現し、緊急事態だったので姿を隠す余裕はなかった。兵士達は階段から現れたシノビに驚愕するが、シノビは今は彼等などに構っている暇はなかった。


「退けっ!!」
「うわっ!?」
「な、何だお前はっ!?」


兵士達を蹴散らして倉庫を抜け出したシノビはリノの元へ向かい、彼女が待機しているはずの訓練場へ走った。この際に兵士達は彼を追いかけ、侵入者と判断する――
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