貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
716 / 1,110
王都の異変

第703話 全てはこの国のために……

しおりを挟む
――時は現代へ戻り、宰相が用意した兵士によってバッシュは拘束され、彼は王城内に存在する地下牢へと送り込まれる。抵抗できない様に彼は魔法金属製の枷を嵌められ、檻の中へと閉じ込められた。

バッシュは憎々し気な表情を浮かべて鉄格子越しに自分を見下ろすシンを見上げ、その視線を正面から受けながらもシンは動じずに告げる。


「申し訳ございません、バッシュ王子……しかし、これも必要な事なのです」
「ふざけるな!!貴様、こんな事をしてただで済むと思っているのか!?」
「無論、相応の報いを受ける覚悟はあります。貴方はいずれこの国の王となられる御方……全てが終わればここから解放し、私は罪を受けましょう」
「……何だと?」


シンの意外な言葉にバッシュは呆気に取られ、彼は自分が目的を果たすまでの間だけ、この場所に彼を閉じ込める事を伝える。


「王子、これだけは信じてください。私は決して自分のためだけに貴方をこのような場所に閉じ込め、リノ王女を排除しようとしているわけではないのです」
「排除、だと……やはり、貴様の目的はリノか!?」
「正確に言えば……この国に害を為す存在全てを消す事が私の生涯の役目だと思っております」


バッシュはシンの言葉を聞いて驚愕の表情を浮かべ、国に害を為す存在とはリノの事を差しているのかと思ったが、彼の口ぶりからリノ以外にもこの国を脅かす存在が居る様に聞こえた。


「どういう意味だ!!貴様の目的は何だ、全て答えろ!!」
「分かりました。ここまで来た以上、貴方には隠し事は行いませぬ……しかし、心しておき下さい」
「……言ってみろ」


シンは本当にバッシュには危害を与えるつもりはないらしく、檻越しに彼の前で跪き、自分の正体と目的を話し始めた――





――シンの一族は名家で彼の家の人間の殆どが宰相や大臣の位に就いている。建国した時から先祖代々国王の右腕として活躍し、この王国の発展のために尽くしていた。

王国が大国として発展したのはシンの一族の貢献が大きく、彼等は国を支えてきた忠臣の一族である。しかし、実際の所は彼等の正体は国を支えるというよりも、国に害を為す存在を排除する事で国を守ってきたという方が正しい。

これまでにシンの一族は表向きは王国に仕える一方で裏で暗躍し、国の害となる存在を抹消し続けてきた。時には王族さえも邪魔になると判断した存在を躊躇なく始末した事もあり、国の代表でもある国王を暗殺した事もあった。



シンの一族が真に忠誠を誓う相手は王族ではなく、だった。国の益に繋がるのならばそれが国を治める立場の王族であろうと容赦なく始末し、自分達に都合がいい王族を国王として仕立て上げる。そんな事を繰り返していくうちに王国は順調に発展していった。

実を言えば先代の国王が亡くなったのもシンの父親が関係しており、先代の国王は現在の国王と比べると好戦派の人間でよく他国に攻め入ろうとしていた。しかし、度重なる戦によって民に負担を大きく与え、このままでは国が崩壊してしまうと考えたシンの父親は国王を暗殺し、王子に王位を継がせた。その王子こそが現代の国王である。

国に仕える身でありながらシンの一族は影から国を動かし、国の害悪になると判断した存在を抹消してきた。そして今現在はこの国で最も害となる可能性が高いのはリノである事に間違いなく、シンは先祖と同じように彼女を排除する事を決めた――





「ご理解ください、王子様……リノ王女を生かせば獣人国との間に不和を齎します。それならばいっその事、リノ王女を始末して問題を解決するしかないのです」
「ふざけるな!!貴様は家臣の分際で忠誠を誓った相手を殺すのか!?」
「お言葉ですが、私が忠誠を誓うのは王族《あなたがた》ではなく、この国でございます。王国の発展のためとあれば私は喜んで犠牲となりましょう。それにリノ王女の排除をすれば獣人国の国王も公爵もこれまで通りの関係を結ぶ事を約束されました」
「何だと……貴様、まさか獣人国とも繋がっているというのか!?」
「獣人国だけではありません、巨人国も他の国も……我々の一族は貴方達が思っているよりも繋がりを持っています」


シンは獣人国と既に密約を交わし、リノを殺す事を条件に両国の関係を保つ事を約束していた。その話を聞いてバッシュは自分が思い違いをしていた事を知り、目の前の男はただの一家臣ではなく、自分の想像以上にこの国に根を張る存在だと知る。


(まずい……この男をこのまま放置すれば大変な事が起きる)


バッシュは自分がシンという存在を見誤っていた事を悟り、何としても止めようとした。しかし、牢獄に閉じ込められた彼ではどうしようもできない。


「リノ王女を殺し、そして私は自害すれば今回の一件は収まります。貴方は何も気にする事はありません……どうか、この国の未来のために立派な王となって下さい」
「ふざけるなぁあああっ!!」


シンはバッシュに一方的に告げると、彼を残して立ち去る。その後姿にバッシュは怒りをぶつけるが、檻に閉じ込められた彼にはどうする事もできなかった――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

処理中です...