707 / 1,110
王都の異変
第696話 救助
しおりを挟む
――小男を殴り飛ばした後、ナイは力を使い果たしてその場で倒れてしまい、身体はもう動かなかった。最後の一撃で残り少ない体力も奪われ、もう一歩も動く事ができない。
(まずい、意識が……くそっ、まだあいつが残っているのに)
ミノタウロスを命令していた小男は倒したが、残されたミノタウロスの方はまだ視界と嗅覚を毒で封じられただけで死んではいない。現在はあまりの激痛に顔面を抑えて呻いているが、このまま放置すれば酒場内の全員が殺されてしまう。
どうにかナイは起き上がろうとしたが、もう指を動かす体力も残っていない。このままでは駄目だと頭が理解するが、どうしても身体が言うことを聞かない。
「みん、なっ……」
「ブフゥウウッ……!!」
ナイの呟きを耳にしたのか、聴覚だけを頼りにミノタウロスは起き上がると、自分をここまで追い詰めたナイの元へゆっくりと近づく。その姿を見てナイは顔を向ける事しかできず、ミノタウロスは腕を伸ばす。
「ブモォオオオッ!!」
「くぅっ……!?」
「やああっ!!」
「させませんっ!!」
「ていっ」
しかし、ミノタウロスの伸ばした腕がナイに触れる寸前、三人の少女の声が聞こえてきた。階段から駆け上がってきたリーナは短剣を投げつけ、ミノタウロスが破壊した出入口の扉からヒイロとミイナが駆け出し、それぞれの武器を放つ。
リーナの放った短剣はミノタウロスの右目に突き刺さり、ヒイロの魔剣「烈火」とミイナの「如意斧」は背中をほぼ同時に切り付け、ミノタウロスは血飛沫が舞い上げながら倒れ込む。
「ッ――――!?」
ミノタウロスの断末魔の悲鳴が響き渡り、その光景を目にしたナイは驚愕の表情を浮かべる。そんな彼の元に頭にプルミンを乗せたモモが駆けつける。
「ナイ君、大丈夫!?すぐに治してあげるからね!!」
「モモ……それに皆も、どうしてここに?」
「俺は止めたんだがな……こいつらがお前の事を心配だからといって飛び出しやがった」
「ゴエモンさんまで……」
「ナイ君、平気かい!?」
ナイの元に全員が駆けつけ、その中にはゴエモンやアルトも含まれていた。すぐにナイはモモの治療を受け、アルトもナイの状態を観察して薬を取り出す。
「もう大丈夫だからね、すぐに治してあげるから……」
「ほら、回復薬だ。これを飲めば少しは体力も回復するよ」
「ありがとう、二人とも……」
「それにしても……これを全部、お前ひとりでやったのか?」
ゴエモンは倒れている100人近くの暗殺者と、蒼月が頭に突き刺さった状態で絶命したミノタウロスを確認して顔色を変えた。ナイが強い事は知っていたが、まさかこれほどの数の相手に勝利し、しかもミノタウロスを追い詰めていた事を知って冷や汗を流す。
白面の暗殺者は並の傭兵よりも比べ物にならない程に厄介な存在であり、しかも100倍の数の敵を相手に勝利したナイにゴエモンは愕然とした。
(こいつの実力は全盛期のテンを越えているのか!?)
ナイは全盛期のテンと同程度の力を持つ予想していたゴエモンだが、いくら若い頃のテンでもこれだけの人数の手練れを相手に勝てるとは思えない。しかもナイは今回は旋斧も岩砕剣も所持しておらず。身に付けていた武器といえば刺剣のみである。
反魔の盾や腕鉄鋼さえも装備していない状態で状態でナイは100人近くの敵を倒し、更に得体の知れないミノタウロスを追い詰めていた。その事実にゴエモンだけではなく、他の者も戸惑う。
(これだけの数の敵をたった一人で倒したのか……また、死線を潜り抜けて力を身に付けたんだな)
アルトは最初に会った時のナイと比べ、現在のナイの力は明らかに大きな差があった。最早騎士団の副団長と同程度どころではなく、これほどの力を持つナイはこの国の最強の騎士と称される「ロラン」にも匹敵するかもしれないと考えた。
「大丈夫、ナイ君?水を飲む?」
「水……あるの?」
「うん、プルミンちゃんが水を分けてくれるよ」
「ぷるぷるっ」
治療中にプルミンは頭に生えている角のような触手を伸ばし、ナイの口元に移動させると、冷たい水を放つ。どうやら体内に保有している水を分けてくれたらしく、冷たい水を飲んでナイは身体が楽になっていく。
(まさかスライムの水を飲まされる日がくるなんて……でも、美味しいな)
激しく動いた後なので体内の水分も知らないうちにかなり消耗していたらしく、プルミンに水を分けて貰ったナイは体力も少し回復すると、その間に駆けつけた兵士達が倒れている獣人達の捕縛を行う。
「よ、よし!!全員、捕まえろ!!」
「毒薬はしっかりと回収してくれ。自決されたら困るからね」
「地下の方にも人がいるぞ、そいつらも攫われた民間人だ。救助しておいてくれ」
「わ、分かりました!!」
アルトとゴエモンの指示に兵士達は従い、酒場内に倒れている暗殺者全員の捕獲を行う。この際にゴエモンは密かに捕まっていたヒメと研究者を攫われた被害者として救助させ、彼女達が罪に問われない様に配慮した――
(まずい、意識が……くそっ、まだあいつが残っているのに)
ミノタウロスを命令していた小男は倒したが、残されたミノタウロスの方はまだ視界と嗅覚を毒で封じられただけで死んではいない。現在はあまりの激痛に顔面を抑えて呻いているが、このまま放置すれば酒場内の全員が殺されてしまう。
どうにかナイは起き上がろうとしたが、もう指を動かす体力も残っていない。このままでは駄目だと頭が理解するが、どうしても身体が言うことを聞かない。
「みん、なっ……」
「ブフゥウウッ……!!」
ナイの呟きを耳にしたのか、聴覚だけを頼りにミノタウロスは起き上がると、自分をここまで追い詰めたナイの元へゆっくりと近づく。その姿を見てナイは顔を向ける事しかできず、ミノタウロスは腕を伸ばす。
「ブモォオオオッ!!」
「くぅっ……!?」
「やああっ!!」
「させませんっ!!」
「ていっ」
しかし、ミノタウロスの伸ばした腕がナイに触れる寸前、三人の少女の声が聞こえてきた。階段から駆け上がってきたリーナは短剣を投げつけ、ミノタウロスが破壊した出入口の扉からヒイロとミイナが駆け出し、それぞれの武器を放つ。
リーナの放った短剣はミノタウロスの右目に突き刺さり、ヒイロの魔剣「烈火」とミイナの「如意斧」は背中をほぼ同時に切り付け、ミノタウロスは血飛沫が舞い上げながら倒れ込む。
「ッ――――!?」
ミノタウロスの断末魔の悲鳴が響き渡り、その光景を目にしたナイは驚愕の表情を浮かべる。そんな彼の元に頭にプルミンを乗せたモモが駆けつける。
「ナイ君、大丈夫!?すぐに治してあげるからね!!」
「モモ……それに皆も、どうしてここに?」
「俺は止めたんだがな……こいつらがお前の事を心配だからといって飛び出しやがった」
「ゴエモンさんまで……」
「ナイ君、平気かい!?」
ナイの元に全員が駆けつけ、その中にはゴエモンやアルトも含まれていた。すぐにナイはモモの治療を受け、アルトもナイの状態を観察して薬を取り出す。
「もう大丈夫だからね、すぐに治してあげるから……」
「ほら、回復薬だ。これを飲めば少しは体力も回復するよ」
「ありがとう、二人とも……」
「それにしても……これを全部、お前ひとりでやったのか?」
ゴエモンは倒れている100人近くの暗殺者と、蒼月が頭に突き刺さった状態で絶命したミノタウロスを確認して顔色を変えた。ナイが強い事は知っていたが、まさかこれほどの数の相手に勝利し、しかもミノタウロスを追い詰めていた事を知って冷や汗を流す。
白面の暗殺者は並の傭兵よりも比べ物にならない程に厄介な存在であり、しかも100倍の数の敵を相手に勝利したナイにゴエモンは愕然とした。
(こいつの実力は全盛期のテンを越えているのか!?)
ナイは全盛期のテンと同程度の力を持つ予想していたゴエモンだが、いくら若い頃のテンでもこれだけの人数の手練れを相手に勝てるとは思えない。しかもナイは今回は旋斧も岩砕剣も所持しておらず。身に付けていた武器といえば刺剣のみである。
反魔の盾や腕鉄鋼さえも装備していない状態で状態でナイは100人近くの敵を倒し、更に得体の知れないミノタウロスを追い詰めていた。その事実にゴエモンだけではなく、他の者も戸惑う。
(これだけの数の敵をたった一人で倒したのか……また、死線を潜り抜けて力を身に付けたんだな)
アルトは最初に会った時のナイと比べ、現在のナイの力は明らかに大きな差があった。最早騎士団の副団長と同程度どころではなく、これほどの力を持つナイはこの国の最強の騎士と称される「ロラン」にも匹敵するかもしれないと考えた。
「大丈夫、ナイ君?水を飲む?」
「水……あるの?」
「うん、プルミンちゃんが水を分けてくれるよ」
「ぷるぷるっ」
治療中にプルミンは頭に生えている角のような触手を伸ばし、ナイの口元に移動させると、冷たい水を放つ。どうやら体内に保有している水を分けてくれたらしく、冷たい水を飲んでナイは身体が楽になっていく。
(まさかスライムの水を飲まされる日がくるなんて……でも、美味しいな)
激しく動いた後なので体内の水分も知らないうちにかなり消耗していたらしく、プルミンに水を分けて貰ったナイは体力も少し回復すると、その間に駆けつけた兵士達が倒れている獣人達の捕縛を行う。
「よ、よし!!全員、捕まえろ!!」
「毒薬はしっかりと回収してくれ。自決されたら困るからね」
「地下の方にも人がいるぞ、そいつらも攫われた民間人だ。救助しておいてくれ」
「わ、分かりました!!」
アルトとゴエモンの指示に兵士達は従い、酒場内に倒れている暗殺者全員の捕獲を行う。この際にゴエモンは密かに捕まっていたヒメと研究者を攫われた被害者として救助させ、彼女達が罪に問われない様に配慮した――
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説

ステータス画面がバグったのでとりあえず叩きます!!
カタナヅキ
ファンタジー
ステータ画面は防御魔法?あらゆる攻撃を画面で防ぐ異色の魔術師の物語!!
祖父の遺言で魔女が暮らす森に訪れた少年「ナオ」は一冊の魔導書を渡される。その魔導書はかつて異界から訪れたという人間が書き記した代物であり、ナオは魔導書を読み解くと視界に「ステータス画面」なる物が現れた。だが、何故か画面に表示されている文字は無茶苦茶な羅列で解読ができず、折角覚えた魔法なのに使い道に悩んだナオはある方法を思いつく。
「よし、とりあえず叩いてみよう!!」
ステータス画面を掴んでナオは悪党や魔物を相手に叩き付け、時には攻撃を防ぐ防具として利用する。世界でただ一人の「ステータス画面」の誤った使い方で彼は成り上がる。
※ステータスウィンドウで殴る、防ぐ、空を飛ぶ異色のファンタジー!!

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる