貧弱の英雄

カタナヅキ

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王都の異変

第683話 地下の拠点

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「――よし、変装は終わったな」
「ううっ……この仮面、変な臭いがする」
「毒を飲んだ時にこの仮面を付けたら進行を遅らせるみたいだから、もしかしたらこの仮面も何か特別な効果があるのかもしれないね……」
「確かに……」
「ぷるぷるっ(似合ってる?)」
「プルミンは付けなくてもいいと思うよ?」


全員が白面を装備した後、移動を再開する。単独で見張り役をしていた白面の暗殺者を捕まえる事ができたのは幸運であり、人数分の仮面を取りそろえる事ができた。ゴエモンの話によれば昔とは違って白面の仮面には毒は仕込まれておらず、毒耐性の技能を持たないリーナやモモでも問題なく装着する事ができた。

ナイ達は下水道を移動し、遂に白面の拠点と思われる出入口に辿り着く。正確には出入口といっても隠し通路であり、特別な手順を踏まなければ入る事は出来ない。


「いいか、同時に壁に嵌め込まれている魔石を回転させるんだぞ」
「同時ですね……分かりました」
「俺は反時計回り、お前は時計回りだ。絶対に間違えるなよ……もしも反対方向に回したら仕掛けが作動してこの扉は開かなくなるからな」


隠し通路を開くための出入口の隠し壁には細工が施されており、二人同時に離れた位置に存在する魔石を動かさなければならない。

ナイとゴエモンは同時に魔石を操作すると、二人の間の通路が突如として凹み始め、やがて地下に続く階段が出現した。ここから先はゴエモンも知らない未知の領域であり、油断は出来ない。


「よし、行くぞ……覚悟はいいな?」
「う、うん……」
「大丈夫です」
「……行きましょう」
「ぷるぷるっ……(←モモの頭の上で勇ましい表情を浮かべる)」


全員に確認するとゴエモンは率先して階段を降り、白面の拠点と思われる地下空間へ赴く。ちなみに隠し通路は他にもいくつか存在するらしく、それを全てゴエモンは調べつくしていた。

今頃はクノがアルト達と合流していたら彼等は警備兵と共に下水道へ移動し、この拠点に向かっているはずだった。白面がどの程度の規模かは不明だが、援軍が到着するまでナイ達は敵に勘付かれない様に行動し、ゴエモンの妻を救い出さなければならない。


(……ナイ君、本当に大丈夫なの?ゴエモンさんがもしも裏切ったら、僕達は捕まっちゃうかもしれないよ?)
(大丈夫……この人は嘘を吐いてないと思うよ)


リーナは手持ちの武器がないので不安を抱いてナイに小声で話しかけるが、ナイはゴエモンが死にかけた時、彼が本気で妻を愛している事に気付く。そうでもなけれえば死にかけた時に妻の救出などナイに頼むはずがない。

ゴエモンは妻を救うためならばどんな事でもする覚悟は伝わった。最悪の場合、ナイ達を騙して白面の組織に引き渡す可能性もある。だが、ナイはゴエモンが裏切る時が来るとしたら自分達の力が白面に劣っていると判断された時だと考え、逆に言えば白面よりも自分達の方が心強い存在である事を示せば彼は裏切らないと思った。


(大丈夫だよ……何があろうと二人は守るから)
(ナ、ナイ君……)
(格好いい……)
(ぷるんっ(キュンッ)……)


ナイの言葉にモモは頬を赤らめ、リーナは心強く思い、プルミンでさえも嬉しそうな表情を浮かべる。ナイは自分の力に自惚れているわけではなく、今の自分ならば二人を守り切れる力がある気がした。


(何だろう、この感じ……今から危険な場所に行くはずなのにどうしてこんなに落ち着いているんだろう)


修羅場を幾度も潜り抜けてきたせいか、ナイはこれから暗殺者組織の拠点に乗り込むというのに自分が焦っていない事に我ながら疑問を抱く。だが、考えている間に階段を下りた先に存在する扉に到着した。


「……鍵は掛かっていないな、中に入るぞ。ここから先は不用意に声を出すなよ」
「はい、分かりました」
「う、うん……」
「離れない様に気を付けないとね……この格好だと、他の人と紛れたら見つけられないかもしれないから」
「ぷるぷるっ(←仮面を装着)」
「いや、プルミンは無理しなくていいから……」


リーナの言葉にナイ達は頷き、ゴエモンは緊張しているのか腕を震わせながら扉を開く。そして中に入った瞬間、衝撃的な光景が映し出された。


『えっ……?』


全員の声が重なり、ナイ達の視界に映し出されたのはまるで地上に存在する「酒場」のような場所だった。中に居る者は全員が獣人族であり、彼等全員が仮面を外し、他の者と談笑したり、食事を味わい、まるで普通の人間のように過ごしていた。


「たくっ、昨日はきつかったぜ……こいつがへまをして警備兵に見つかってよ」
「おいおい、それでどうしたんだ?始末したのか?」
「いや、拉致して頭から酒をぶっかけて放置したよ。そいつ、元から評判が悪くてな。勤務中に酒を飲んで酔っ払ったと勘違いされて解雇されたよ。殺しても良かったんだが、それだと色々と面倒な事になるからな……」
「悪かったって……」


会話を行う者達の話を盗み聞きしたナイ達は彼等が白面の暗殺者である事を理解するが、どうにもこれまでにナイ達が相対した白面の暗殺者とは雰囲気が違う。会話の内容は物騒ではあるが、まるで地上の人間のように振舞い、とてもナイ達に襲い掛かった白面の暗殺者達と同じ仲間とは思えない。
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