貧弱の英雄

カタナヅキ

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王都の異変

第681話 クノ参戦

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「ぷるんっ!?」
「わっ!?ど、どうしたのプルミンちゃん?」
「ぷるぷ~るっ!!」
「上?上に何かあるの?」


スライムは優れた感知能力を身に付けており、プルミンは上空を示す。全員が視線を向けると、そこには見覚えのある人物が廃墟の朽ちた柱の上に立っていた。


「そういう事ならば拙者に任せてほしいでござる」
「誰だ!?」
「この声は……クノ!?」
「クノちゃん!?」
「ぷるっくりんっ?」


その人物はクノで間違いなく、彼女は空中を回転しながら派手に着地を行う。ゴエモンは咄嗟に仕込み杖に手を伸ばすが、それをナイは制した。


「大丈夫です、彼女は怪しい人ですけど味方です」
「怪しい人でもないでござるよ!?」
「いや、そんな格好をしていて怪しい人じゃないと言い張るのは無理があるよ」


クノはいつも通りの忍び装束であり、夜ならばともかく昼間の明るい時間帯に身に付けていれば怪しまれるのは仕方ない。

どうしてここに彼女がいるのかとナイ達は驚くが、クノは口元に指を向ける。これ以上に大きな声を出さない様に注意すると彼女は小声で話しかける。


「実は拙者はとある重要な任務を受けてここへやってきたでござる」
「重要な任務?」
「もしかして、この街に白面が居る事を知っていたの?」
「いや、それは全然知らなかったでござる」
「知らないの!?」
「おい、何だこの変なガキは……」


この街に白面が存在する事はクノも訪れて初めて知ったらしく、ゴエモンは急に現れたクノを見て訝しむが、この状況下でナイはクノと出会えたのは幸運だと思った。


「クノ、僕達は白面の拠点に忍び込んでゴエモンさんの奥さんを助けに行くんだ。だから、アルト達にも拠点の位置と援軍を送ってほしいから連絡を頼めないかな?」
「なるほど、そういう事でござるか。ならば拙者に任せてほしいでござる」
「おい、言っておくが奴等に気付かれたら……」
「安心して欲しいでござる、既にこの周辺に伏せていた白面は対処済みでござるよ」
「何!?」


クノの言葉にゴエモンは驚くが、それはナイ達も同じだった。だが、この状況下でクノが嘘を吐く理由がない。

彼女はゴエモンの家の周辺に見張り役として配置されていた白面は、既に一人残さず気絶させたらしく、ナイ達がこの廃墟から出てきたところを彼女は偶然に発見したらしい。


「ここは人通りが少ないとはいえ、一般人に気付かれない様に運び出すのは苦労したでござる」
「凄い!!流石はクノちゃん!!」
「でも、この人達は大丈夫なのかな……急に死んだりしない?」
「それは大丈夫だ。こいつらは仕事を行う前に毒を渡されるが、その毒を飲む前なら死ぬ事はない……見張り役を任されていた以上はそいつらも毒を飲んではいないはずだ」
「え、どうして?」
「見張り役は俺がお前等を仕留めたのか確認する必要がある。俺がいつどうやってお前等を始末するのかを見届けないといけないんだ。どのくらいの時間が掛かるか分からないのに、安易に毒を飲むわけがないだろう」
「なるほど……」
「恐らく、これが例の毒でござるな」


クノは白面の所持していた荷物の中から緑色の赤黒い液体を取り出し、見るからに危険な代物だった。こちらが白面が使用している毒薬で間違いなく、この毒を分析すれば解毒薬が作り出せるかもしれない。


「こちらの毒を薬師に渡せば解毒薬を製作できるかもしれないでござる。これは王都に戻り次第、イリア殿に渡しておくでござる」
「なるほど、確かにイリアさんなら解毒薬も作れそうだね……」
「だが、こいつらはどうする。目を覚ませば必ず組織に報告するぞ」
「その点も大丈夫でござる、和国秘伝の眠り薬を嗅がせているから耐性を持つ人間でも簡単には目が覚めないでござる」
「ありがとう。助かったよ……これなら拠点に迎えますね?」
「ああ……だが、見張り役から何時までも連絡が届かなければ怪しまれる。向かう準備はできているのか?」
「よ、よ~し!!頑張ろう、皆!!」
「うん、絶対にゴエモンさんの奥さんを助けようね!!」
「ぷるぷるっ!!」
「……それはそうと、何でござるかこのスライムは?」


全員の覚悟が出来た事を伝えると、ゴエモンも後戻りはできないと覚悟を決める。彼は下水道に繋がる地下道を示し、そして何年も費やして作り上げた下水道の地図を取り出す。


「奴等の根城は下水道の中心部、この部分に奴等しか入り込めない区画が存在する。そこから先は俺も知らないが、もしも妻が捕まっているとしたらこの中だ」
「そういえば奥さんの名前、教えてくれますか?」
「……ヒメだ」
「ヒメ?可愛い名前だね~」
「そうだな……まあ、今年で50才になるがな」


ゴエモンは捕まった妻の特徴と名前を全員に伝えると、早速は行動を開始した――





――時は少し前に遡り、クノがナイ達に合流する数日前にシノビから呼び出されていた。


「兄者、それはどういう意味でござる?」
「言葉通りの意味だ。お前には王都を離れてもらう」
「「ウォンッ?」」


クノはシノビに呼び出され、彼から王都を離れる様に指示を出された。急な話にクノは戸惑い、どうして自分が王都を離れなければならないのか理由を問い質す。


「いきなり何を言い出すのでござるか。拙者、何か悪い事をしたのでござるか?」
「悪い事と言えば……まあ、そうだな」
「どういう意味でござる?悪いところがあるなら直すでござる」
「そうか……なら、言わせてもらうがお前のその口調が問題だ」
「なっ!?」


シノビの言葉にクノは衝撃を受けた表情を浮かべるが、シノビは至極真面目な表情を浮かべてクノの口調に関して指摘する。


「クノ、お前が里に居た時から変わらずにその口調で話していた事は知っている。しかし、今の俺達は王国の人間に取り入り、受け入れられなければならない。お前のその口調は問題があるのだ」
「せ、拙者の口調の何が問題が?」
「ござる、という語尾が最大の問題だな。時々、他の人間からどうしてお前の妹は変わった言葉遣いなのか聞かれて困るんだ。お前の口癖だとは理解しているが、やはり王国に馴染むには口調には気を付けないといけない」
「そ、そんなっ!?」


クノはシノビの言葉に衝撃を受け、まさか自分の口調がおかしな事を指摘される日が来るとは思いもしなかった。シノビとしても別にクノを叱りつけたいわけではないが、もう見過ごす事は出来ない。


「先日、王女様からもお前の口調に関して問題を指摘されてな。バッシュ王子からお前の口調の独特さを追求されて困っていたそうだ」
「王女殿が!?」
「建前上、俺達は王女に従う立場だ。ならば彼女の迷惑にならないように振舞わなければならない……だが、急に口調を変えろと言われても難しいだろう。そこでお前は王都を離れ、修行を積んで来い」
「修行!?」
「そうだ。普通の人間の話し方を研究し、自然に話せるようになるまで王都に戻ってくるな。これは命令だぞ、クノ」
「そ、そんなっ!?」


一方的なシノビの言い分にクノは愕然とするが、シノビもふざけているわけではなく、現在の二人は王国に取り入らなければならない立場だった。和国の領地を取り戻すまで、二人は王国に従い続けなければならない。

結局はクノはシノビの命令に逆らえず、一時の間だけ王都を離れる事にした。彼女は王都を離れて何処へ向かうか悩み、とりあえずは王都の近くに存在するクーノという街に向かう事にした――
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