貧弱の英雄

カタナヅキ

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王都の異変

第679話 希望を捨てるな

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「何で、何でそんな簡単に諦めるんですか!!何で残される人の事を考えないんですか……!!」
「な、何だと……!?」
「ナイ君、どうしたの?」
「落ち着いて……ナイ君」
「ぷるぷるっ……」


ゴエモンの怪我の治療を行いながらナイは涙を流し続け、他の者が心配したように彼の元に近寄る。唐突に泣き出したナイにゴエモンは戸惑うが、そんな彼に対してナイは説明する。


「僕の爺ちゃんは……小さい頃、僕を庇って死にました。その時の事は一生忘れられないし、忘れたらいけない事だと思いました」
「そうだったのか……」
「爺ちゃん以外にも大切な友達や、優しくしてくれた大人の人たちも居ました……でも、全員死んでしまった。そのせいで何もかも嫌になって僕は逃げ出しました。時々、自分が死ねば楽になるのかと思った事もあります」
「そ、そんな……」


ナイの話を聞いてリーナは衝撃を受け、モモはそんな彼の話を聞いて涙を流し、無言で背中に抱きつく。プルミンもナイを慰めようと足元に擦り寄るが、ナイはゴエモンに語り掛ける。


「もし、もしも……貴方の奥さんがまだ生きていて、僕達が白面の組織から助け出す事に成功したとしても……貴方が死んだ事を知ったら奥さんはどう思いますか」
「……悲しむだろうな。だが、仮に生きていたとしても俺が任務に失敗したと知らればあいつは殺されるんだぞ」
「だったら簡単に諦めないでください、まだ生きているかもしれないんでしょう……なら、一緒に助けに行きましょうよ」
「助けにだと……」


今ここでゴエモンの命を奪う事は容易い事だが、もしも彼の妻が生きていた場合、ナイはゴエモンが死んだ事を報告しなければならない。その時、ゴエモンの妻がどれほど悲しむのかはナイには想像も出来ない。

何年も費やして白面の拠点を掴み、妻を救い出したいというゴエモンの気持ちはナイにも伝わった。ならばこんな場所で簡単に死ぬ事は間違いだとは思えず、ゴエモンに対してナイは一緒に白面の拠点へ向かう事を提案する。


「一緒に戦いましょう。そして奥さんを救い出しましょう」
「……もしも妻が殺されていたら、どうするつもりだ?」
「もしもの話なんてどうでもいい。少しでも生きている可能性があるのなら賭けるべきでしょう」


ナイの言葉にゴエモンは考え込み、もう一度彼は妻に会えるのならばどんな手を使ってでも会いたいと思っていた。そして彼はナイの覚悟を確かめるために問い質す。


「死ぬかもしれないんだぞ、下手をしたらお前の仲間も……大切な人間も殺されるかもしれないぞ」
「そんな事はさせない……それに貴方だって諦め切れるんですか?」
「ふんっ……いいだろう、但し条件がある。俺の任務はまだ失敗してはいない。もしもお前が油断すれば俺はお前の命を奪い、奴等に差し出す。それが条件だ」
「えっ!?」
「そ、そんなの駄目に決まってるよ!!」
「ぷるぷるっ!!」


ゴエモンの言葉を聞いて当然だがリーナ達は反対するが、それに対してナイは動じた様子もなく頷き、それだけの覚悟を抱かなければナイは彼の協力を得られないと思った。


「分かりました。でも、こっちも条件があります。命を狙うのは俺だけにしてください」
「ナイ君!?」
「だ、駄目だよ!!」
「……いいだろう、その条件ならば引き受けてやる。だが、もしもお前が白面の拠点を潰す事が出来ないと判断すれば、俺は躊躇なくお前は殺すぞ」
「構いません。でも……その時は覚悟して下さい」


用心のためにゴエモンはナイを脅迫するが、その言葉に対してナイは正面から言い返し、今までにないほどの迫力を放つ。その姿にゴエモンは冷や汗を流し、自分が成人年齢にも満たない子供に気圧されている事を理解する。


(こいつならばあるいは……)


聖女騎士団の副団長であるテンの全盛期にも匹敵する程の迫力を放つナイにゴエモンは期待し、彼ならば本当に自分達を苦しめた白面の組織を潰せるかもしれないと思った。

ゴエモンの目的は妻を救い出す事、そしてナイ達の目的はこの街で人攫いを行う白面の捕縛、そのためにお互いに協力する事を誓う――





――ゴエモンの家にてナイ達が彼と和解した頃、アルトはヒイロとミイナを連れて警備兵と話し合い、街で何か異変が起きていないのかを尋ねる。


「それでは特に何も変わりはないという事かい?」
「ええ、この街は王都ほどではありませんが優秀な冒険者もいっぱいいますし、賞金首のような犯罪者も見かけられません。ただ……」
「ただ……なんですか?」
「いや、その……気のせいかもしれないんですけど、今日はどうも街が騒がしいような気がするんですよね」
「騒がしい?」
「すいません、別に何か事件があったというわけじゃないんですけど……何となくですが、雰囲気がいつもと違うというかなんというか……」


クーノの警備兵に街の様子がいつもと違うらしく、報告を行った兵士も自分の違和感の正体が分からずに謝罪を行う。


「すいません、今のは忘れてください。本当に気のせいだと思うので……」
「ふむ……分かった。なら、僕達は失礼するよ。何かあったらこの街一番の宿屋に来てくれ、そこで僕達は泊る予定だからね」
「は、はい!!分かりました!!」


アルトは兵士の報告を聞いてから二人を連れて宿泊予定の宿屋へと向かう。事前に話を通しているので宿屋に辿り着ければ部屋を貸してくれるが、アルトは少し街中を歩く事にした。


「二人ともさっきの兵士の言葉をどう思う?」
「どう思うと言われても……はっきりとしない言い回しでしたね」
「でも、嘘を吐いている様子はなかった」
「彼が感じた違和感は虫の知らせ、という奴かもしれないね。もうすぐこの街で何かが起きようとしているのかもしれない」
「何か、とは?」
「そこまでは僕にも分からないよ。但し……きっと、凄い事が起きようとしているんだよ」


二人はアルトの言葉に顔を合わせ、こういう時の彼の勘は一度も外れた事はない。そしてアルトの推測通り、この街で間もなくとんでもない大事件が起きる事になる――
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