貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
684 / 1,110
王都の異変

第673話 その頃のクーノでは……

しおりを挟む
――情報屋のゴエモンとの接触に成功し、彼から20年前に存在した白面の組織の誕生と崩壊の経緯を聞いたナイ達は彼の家に招かれた。情報屋として生きているゴエモンは立派な一軒家に暮らしており、今は一人で暮らしているという。


「客が来るのは何年ぶりだろうな……まあ、遠慮なく座ってくれ」
「ど、どうも……」
「わあっ、美味しそうなお菓子!!」
「モモちゃん、まだ食べれるの!?さっき、あんなにいっぱい食べてたのに……」


ゴエモンが用意した茶菓子とお茶を味わい、ナイ達は改めて彼と向き合う。店ではあれ以上に話をすると何処からか聞かれているか分からず、ゴエモンが場所の移動を提案してきた。

彼には妻が存在し、この街に来たばかりの頃に知り合った女性と結婚したらしい。子供には恵まれなかったが、それでも仲睦まじく暮らしていた。しかし、ある時に強盗に妻が襲われ、そのまま帰らぬ人になったという。


「あの……この壁に立てかけている絵は誰ですか?」
「それは俺の妻の絵だ……美人だろう?」
「えっ!?こ、こんなに若かったんですか!?」
「うわぁっ……凄い美人」


家の中には亡くなったゴエモンの妻の写真も飾られており、その写真を確認する限りではかなりの美人でしかも若い。年齢は20代後半ぐらいであり、少なくともゴエモンがこの街に訪れた時は50~60代だと考えるとかなりの年齢差だった。


「ああ……それは若い頃の妻の絵だ。ちょっと見栄っ張りでな、昔に画家に描いて貰った絵を貼っているんだ」
「ああ、なるほど……でも、本当に美人ですね」
「良い女だったよ……まあ、とりあえずは茶でも飲め」


ナイ達は促されるままにゴエモンが淹れたお茶を味わうと、改めてゴエモンと向かい合い、情報交換を行う。


「それでゴエモンさん、白面の事をもっと詳しく教えてくれますか?」
「……これ以上に俺が白面に関して知っていることはないぞ」
「何でもいいんです。白面の暗殺者が使う武器とか、どういう風に仕事を引き受けていたのか……」
「生憎だが奴等は特別な武器は一切使っていなかった。それでも普通の暗殺者よりも高い暗殺技術を持ち合わせていたからこそ恐れられていたが……いや、待てよ。そういえばあの仮面は……」
「何か知っているんですか?」


ゴエモンは20年前の白面の暗殺者が身に付けている仮面の事を思い出し、かつて暗殺者が身に付けていた仮面を面白半分で身に付けた者がいた事を話す。


「白面の暗殺者の一人が失敗して標的と共に建物から落ちて死んだという話がある。その時に警備兵が白面の仮面を取り上げたそうだが、兵士の一人がふざけて白面を自分の顔に付けた事がある」
「そ、それで?」
「その途端警備兵の男は悲鳴を上げて倒れたらしい。最初は何が起きたのか分からずに他の警備兵も戸惑っていたが、慌てて仮面を外すと男は泡を吹いた状態だった。どうやら奴等の仮面には他の人間が取り付けた時のために痺れ薬が塗り込まれていたらしい」
「えっ……でも、そんな物を塗り込んでいたら白面の暗殺者だって困りますよね?」
「そこが奴等の恐ろしい所だ。恐らくは白面の暗殺者は全員が非常に高い毒耐性を所持していたんだろう。だから普通の人間なら触れるだけで身体が痺れて動けない薬でも奴等には効かない」
「へ、へえっ……」
「ナイ君なら仮面を被っても平気なのかな?」
「いや、あんなダサいの被りたくないよ……」


白面を身に付けた兵士が痺れ薬で動けなくなったという話を聞いてナイは有力な手掛かりにはならないと思い込んだが、ここである事を思い出す。それは先日に襲い掛かってきた白面の暗殺者は仮面を剥いだ時、髑髏のような入れ墨を顔の何処かに刻んでいた。

ここまでの話だとゴエモンは髑髏の入れ墨に関しては何も話しておらず、白面の暗殺者がそのような入れ墨を掘っていれば彼が話をしないわけがない。ナイはゴエモンに髑髏の入れ墨も尋ねようとした時、唐突に彼は目つきを鋭くさせる。


「……誰だ?」
「えっ?」
「俺の家に誰かが入り込んだ。どうやら二階から侵入してきたようだな……俺が狙いか、それともお前等か?」
「えっ!?」
「大声を上げるな、気づかれるぞ」


ゴエモンの言葉にナイ達は天井を見上げる。この家は二階建てであり、ゴエモンの推測が正しければ二階の窓から何者かが侵入した事になる。

上の階の人間に気付かれない様にナイ達は武器に手を伸ばすと、ゴエモンは仕込み杖を掴み、相手が仕掛ける瞬間を伺う。しばらくの間は静寂な時を迎えるが、やがて階段と一階の窓から人影が出現してゴエモンは注意を行う。


「来るぞ!!」
「くっ!!」
「わあっ!?」
「モモちゃんは身体を伏せて!!」
「ぷるるんっ!?」


窓が割れて階段から何者かが降りてくる音が鳴り響き、即座にナイ達は武器を構える。この時にナイは大剣だと室内では戦いにくいため、刺剣を装備した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...