貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
674 / 1,110
王都の異変

第663話 怪しい商団

しおりを挟む
――狼男の死骸を埋葬した後、ナイ達は仮眠を取ると朝を迎えた。全員が碌に眠れずに寝ぼけまなこだったが、朝が早い時間帯は魔物達も眠りこけているため、今のうちに進めるだけ先に進まなければならない。


「ふああっ……眠いよう、プルミンちゃん。枕になって」
「ぷるんっ!?」
「皆、大丈夫?無理しない方が良いよ」
「ううっ……な、なんでナイさん達は平気そうなんですか」
「眠い……」


馬車の中では碌に寝付けずに横になるモモ、ヒイロ、ミイナに対してリーナ、ナイ、アルトは割と平気そうな顔をしていた。この三人が平気な理由はミイナは冒険者なので夜通しで見張りを行う事は多々あり、アルトも魔道具の実験なので徹夜する事は慣れていた。

ナイの場合は自然回復の技能のお陰で少ない睡眠時間でも身体を完全回復させる事ができる。自然回復の技能は怪我の再生だけではなく、体力回復にも役立つ技能であり、睡眠にも有効だった。


「ん?あれ……なんか、前の方で馬車が停まってるよ」
「えっ……また商団かな?」
「でも、ちょっと様子がおかしいね」


草原を移動中、商団らしき馬車が何台も停止している事にナイ達は気付き、この時にナイ達は違和感を抱く。最初は夜営でも行っているのかと思われたが、それにしては様子がおかしい。


「ふむ……少し気になるね、悪いけど停まってくれるかい?」
「分かった。ビャク、ちょっと止まって」
「ウォンッ」


ナイが命じるとビャクは速度を落とし、商団らしき馬車の前で停止する。いきなり現れたビャクを見て馬車の近くに立っていた者達は驚くが、中からナイ達が現れると更に驚く。


「な、何だお前等は!?」
「僕達はただの通りすがりの旅人だよ。そういうそちらこそ、こんな場所で何をしているんだい?」
「いや、それは……」
「おいおい、ガキばっかりじゃねえか」


アルトの質問に対して商人と思われる格好をした男が前に出ると、狼車に乗り合わせている人間の殆どが年若い少年と少女だけだと気付いて笑みを浮かべる。その反応にナイは疑問を抱きながらもアルトに顔を向ける。彼は自分の身分を証明するためにペンダントを差し出す。


「これを見てくれ」
「あん?なんだそのペンダントは……」
「お頭、あれ王家の紋章じゃないですか?」
「ん?言われてみれば確かに……」
「……このペンダントが分からないのかい?」


アルトがペンダントを差し出すと、商人の男は訝し気な表情を浮かべ、その態度にアルトは表情を険しくさせる。このペンダントはアルトが王族である事を証明する代物だが、それを商人の男が知らない事に彼は警戒してナイに耳打ちした。


(この辺の商人なら僕のペンダントの正体に気付かないはずがない。ナイ君、こいつらはただの商人じゃないよ)
(うん、分かってる。この人達、普通の格好をしているけど全員が武器を隠し持っている)


最初に遭遇した時からナイは商団の人間に違和感を覚え、観察眼を発動させて様子を伺い、全員が武器を隠し持っている事を見抜く。商人にしては男達は不自然に鍛え上げられた身体をしていた。

ドルトンのように自分の身を守るために体を鍛える商人がいてもおかしくはないが、大抵の商人は自分の身を守る場合は護衛を連れて行動する。しかし、目の前の商人の男はどう見ても普通の身体つきではなく、ナイは警戒心を抱きながらも今度は自分がメダルを取り出す。


「これ、分かりますか?」
「あん?何だってんだ……こ、こいつは!?」
「兄貴、こいつ貴族のメダルを持っていますぜ!!という事はこいつ、どっかのお偉いさんじゃないのか!?」


ナイが二枚の公爵家のメダルを見せつけると、商団の男達の態度は一変し、商人の男はナイが貴族の関係者だと知ると笑みを浮かべる。その反応を見て男達の正体がろくでもない存在だとナイは勘付くが、念のために聞いてみる。


「一応は聞いてみるけど……貴方達、商人ですか?」
「ああ、そうだぜ……但し、商人といっても奴隷商人だけどな!!」
「うわっ!?」


商人の男は背中に手を伸ばすと、服の中に隠していたカトラスを引き抜き、それをアルトに目掛けて振り下ろす。その攻撃に対して咄嗟にナイは刺剣を引き抜き、男のカトラスを受け止めた。

背中の大剣を抜いている暇がなかったのでナイは刺剣で男が振り下ろしたカトラスを受け止めると、まさか自分の攻撃を受け止めるとは思わなかった男は呆気に取られた。しかし、その間に狼車から降りていたリーナが蒼月を振りかざし、男の武器を弾く。


「はあっ!?」
「うおっ!?こ、このガキ……!!」
「あ、兄貴!!あの女、それにあの武器……こいつ、もしかして黄金級冒険者のリーナじゃないっすか!?」
「何だと!?」


商人の男は自分の武器が弾かれた事に怒りを抱くが、すぐに配下の一人がリーナの正体を見抜き、焦った声を上げる。商人の男もリーナが黄金級冒険者だと知って焦るが、すぐに気を取り直す。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

処理中です...