貧弱の英雄

カタナヅキ

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王都の異変

第661話 水鉄砲

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「当たれっ」
「ウガァッ!?」
「当たった!!」


ミイナの放った輪斧は狼男にの左腕に的中し、血飛沫が舞い上がる。しかし、この時に雲が切れて満月の光が地上に注ぎ、狼男の身体に再び変異した。

肉体がまたもや膨れ上がり、左腕に突き刺さった輪斧に対して狼男は右腕で引き抜く。この際に派手に血が流れるが、光を浴び続けると怪我をした箇所が塞がり始める。


「なっ……傷が治っていく!?」
「満月の光を浴びると再生機能も強化されるんだ!!ナイ君達の扱う再生術と同じだよ、今のあいつは強化術と再生術を常に同時に発動させていると思うんだ!!」
「そんな……うわっ!?」
「ウガァッ!!」


狼男は引き抜いた輪斧を投げ飛ばし、その攻撃に対してナイは反魔の盾で弾くが、狼男はナイへ向けて駆け出す。ここでリーナが彼を守ろうと蒼月を構えるが、突き出された瞬間に狼男は上空へ回避する。


「このっ!!」
「ガアアッ!!」
「避けた!?」


リーナの攻撃を回避した狼男はナイに向けて牙を剥き出しにすると、空中で回転しながら牙を放つ。しかし、それに対してビャクが動き出し、空中に浮かんだ狼男に体当たりを食らわせる。


「ガウッ!!」
「ギャウッ!?」
「ありがとう、ビャク!!」
「えっと……あった、ナイ君、これを使え!!」


狼男が吹き飛ばされるとアルトは自分の荷物の中から小袋を取り出し、それをナイに放り込む。ナイは水筒を受け取って中身を確認すると、その中には意外な代物が入っていた。

小袋を手にしたナイは狼男と向き合い、小袋の中身を放つ。小袋の中には赤色の粉末が入っており、それは以前にもナイが見た事がある火属性の魔石の粉末だった。


「ギャインッ!?」
「うおおっ!!」


魔石の粉末を受けた狼男は悲鳴を上げ、視界が封じられてしまう。この状態で火属性の魔法攻撃を喰らえば粉末が反応して爆発を引き起こし、いくら狼男だろうと無事では済まない。

ただの怪我の類ならば再生術で治す事は出来るが、火傷の類の場合は再生術だろうと簡単には治らない。アルトの目的は狼男の身体を焼いて怪我をさせる事であり、ナイは旋斧を構える。


(もう火竜の魔力はないけど……!!)


残念ながら旋斧にはもう火竜の魔力は残されていない。しかし、火属性の魔石から魔力を吸い上げれば火属性の魔法剣は発動できた。


「うおおっ!!」
「ガアッ……!?」


旋斧の刀身に火属性の魔力が宿り、それを確認した狼男は嫌な予感を覚え、距離を取ろうとした。しかし、それを見越してナイも瞬間加速を発動させて追いつく。


「はああっ!!」
「ウガァアアアアッ!?」


ナイの一撃によって狼男の身体が炎に包まれ、その光景を確認した者達は驚愕する。想像以上に狼男の身体は燃え盛り、無我夢中に暴れ狂う。やがて川に移動し、水中に飛び込む。

だが、いくら炎を消そうとしても魔法で生み出した炎はただの水では消す事は出来ず、水の中で炎に全身を焼かれる感覚を味わい、狼男は水の中に完全に沈む。


「……死んだ、のか?」
「多分……」
「よ、良かった……怖かったね、プルミンちゃん」
「ぷるぷるっ……ぷるんっ!?」


狼男が水の中に沈む光景を見て全員が死んだと思ったが、この時にプルミンだけが危険を察したように身体を震わせる。その様子に気付いたナイは嫌な予感を浮かべ、最も川辺に近いモモに危険が迫っている事を知らせる。


「モモ!!川から離れて!!」
「えっ?」
「ウガァアアアッ!!」


水中から狼男が飛び出し、全身が黒焦げと化した状態ながらもモモを道連れにするつもりか、大口を開いて噛みつこうとしてきた。その光景を見たモモは悲鳴を上げる暇もなく、噛みつかれそうになる。

だが、この時にプルミンは身体を震わせると口を開き、体内の水分を吐き出す。まるで水鉄砲のように放たれた水が狼男の顔面に的中し、目潰しを受けて怯んだ狼男は倒れ込む。


「ぷるっしゃあっ!!」
「ギャインッ!?」
「わあっ!?」


思いがけぬプルミンの攻撃を受けて狼男は怯むと、その様子を見ていた他の者達が動き出し、一番距離が近かったヒイロとミイナが止めを刺すために武器を繰り出す。


「烈火剣!!」
「てりゃっ」
「ギャアアアアッ!?」


二人の攻撃によって狼男は更に身体が燃やされ、首元を切り裂かれる。狼男は地面に倒れ込み、その様子を見届けたナイ達は今度こそ死んだのを確認すると、安堵の息を吐いた――
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