貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
671 / 1,110
王都の異変

第660話 狼男《ワーウルフ》

しおりを挟む
「グルルルッ……!!」
「ガアアッ!!」
「ビャク、落ち着け……大丈夫だから」
「……何だろう、このコボルト亜種。雰囲気が少し変だよ?」
「こいつは……!?」


ナイ達の前に現れたコボルト亜種に対してビャクは唸り声をあげ、それをナイが落ち着かせる。しかし、リーナはコボルト亜種を一目見ただけで様子がおかしい事に気付き、この時にアルトは驚愕の表情を浮かべた。

観察眼を発動させたナイもコボルト亜種を一目見た時から違和感を感じ、全身が黒色の毛皮で覆われたコボルト亜種だが、何故かこれまでに遭遇した個体とは異なる点がある。

コボルト亜種と思われる魔獣は月の光を浴びた途端に身体が徐々に膨れ上がり、やがて4メートルを超える体躯へと変身を果たす。その姿を見てナイ達は驚き、通常のコボルト亜種にこのような能力はない。


「グオオオッ!!」
「な、何こいつ!?」
「まずい、そいつはコボルト亜種なんかじゃない!!魔人族の狼男《ワーウルフ》だ!!」
「狼男……!?」


アルトの言葉を聞いた時、ナイは一瞬だけ彼に視線を向けてしまう。その隙を逃さずに狼男はコボルト亜種を上回る速度でナイの元へ近づき、腕を振り下ろす。


「ガアアッ!!」
「ナイ君、危ない!?」
「くぅっ!?」


咄嗟にナイは旋斧を構えて狼男の攻撃を防ぐが、想像以上に重い一撃に耐性を崩しかける。昼間に遭遇したサイクロプスの攻撃にも勝るとも劣らず、更にサイクロプス以上の素早さで狼男はナイに目掛けて攻撃を繰り出す。


「ウガァッ!!」
「うわっ!?」
「させないっ!!」


刃物のように鋭い爪をナイに突き刺そうとしてきた狼男に対し、彼を助けるためにリーナは蒼月を繰り出す。狼男は身体を反らしてリーナの攻撃を回避し、巨体でありながら身軽な動作で距離を取る。

空中で身体を回転させながら狼男は岩石の上に降り立つと、両腕を広げて徐々に牙と四肢の爪を伸ばしていく。その光景を見てナイ達は冷や汗を流し、即座にアルトが狼男の生態を告げた。


「そいつはコボルトの上位種、狼男《ワーウルフ》だ!!月光、特に満月の光の場合は肉体が活性化して信じられない力を引き出す!!」
「コボルト上位種!?」
「来るよ、みんな気を付けて!!」
「ウガァッ!!」


アルトの言葉を聞いてナイは初めてコボルトにも上位種が存在する事を知り、狼男はナイ達に目掛けて飛び込み、両腕を振り下ろす。咄嗟にナイとリーナは距離を取るが、二人の傍に存在した岩石を狼男の爪は切り裂く。


「嘘っ!?」
「何て切れ味……まるでミスリル、いやそれ以上だよ!?」
「グゥウウッ……!!」
「ウォオオンッ!!」


岩石を容易く切り裂く狼男の爪の切れ味にナイ達は焦りを抱き、通常種のコボルトや亜種よりも戦闘力が高い。ここまでの強さだとミノタウロスやサイクロプスにも匹敵し、下手をしたらそれ以上の存在かもしれない。

ビャクは狼男と向かい合い、互いに狼の魔獣種同士なので敵意を剥き出しにして睨み合う。しかし、ここで満月の光が大きな雲に閉ざされ、狼男に異変が生じる。


「グオオッ……!?」
「えっ……ち、小さくなった?」
「そうか、思い出した!!狼男は満月の光を浴びている間は肉体が強化される!!だけど、光が届かない場所に移動すれば元に戻るんだ!!」
「ウォンッ!!」


満月の光が消えた事で膨れ上がった狼男の肉体は縮まり、爪も牙も元の大きさに戻っていく。その様子を確認してビャクは前脚を繰り出し、狼男を吹き飛ばす。


「ガアアッ!!」
「ギャインッ!?」
「や、やった!!」
「流石はビャクちゃん!!」
「ぷるぷるっ!!」


ビャクの一撃を受けた狼男は派手に吹き飛び、地面に倒れ込む。その様子を見て他の者達は倒したかと思ったが、ビャクの一撃を受けても狼男は胸元の部分に血が滲む程度であり、すぐに起き上がると距離を取る。


「グゥウッ……!!」
「死んでいない!?今の一撃を受けて!?」
「弱っていたとしても上位種だ!!そう簡単に倒せる敵じゃないよ!!」
「くっ……なら、やっぱり僕達が倒すしかないよ!!」


満月を雲が遮っている内に狼男を倒すしかなく、ナイとリーナは魔剣を構える。この状況下でまともに戦えるのは二人だけかと思われたが、ここでミイナが手斧型の魔斧を取り出す。


「二人とも、援護する!!」
「えっ……うわっ!?」
「わあっ!?」
「ウガァッ……!?」


ミイナはかつて飛行船を襲撃した空賊が所持していた「輪斧」と呼ばれる魔斧を取り出し、それを狼男に向けて投擲する。この輪斧は空中に投げると所有者の意思に従って自由に軌道を変更させる事ができるため、敵を追跡しながら攻撃する事が出来る。

輪斧はナイとリーナの間を潜り抜け、まっすぐに狼男へと向かう。仮に狼男が逃げようとしても輪斧は軌道を変更させて追撃できるため避ける事はできない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...