貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
666 / 1,110
王都の異変

第655話 一つ目の巨人

しおりを挟む
「ギュロォッ!?」
「えっ!?」
「ど、どうしたんですか!?」
「これはいったい……!?」


口の中に果実を含んだ瞬間、サイクロプスは目を激しく咳き込む。その様子を見てナイは驚くが、冒険者が衝撃の事実を告げた。


「そ、その果実は駄目だ!!見た目は美味しそうな果実だが、齧るとめちゃくちゃ辛いんだ!!香辛料の素材に使われるぐらいに!!」
「ええっ!?」
「どうしてそんな物が混じっている事に気付かなかったんですか!?」
「い、いや……多分、誰かが果物と間違えて入れたんだと思う」


冒険者の言葉にナイ達は驚愕し、その一方で激辛の果実を口にしたサイクロプスは口元を抑え込み、耐え切れずに川の中に飛び込む。


「ギュロロッ!?」
「あっ!?」


自ら川の中に飛び込んだサイクロプスを見てナイは声を上げるが、そのままサイクロプスは派手に水飛沫を上げて潜り込み、しばらくの間は浮かばなかった。

心配した様子でナイ達は川の様子を伺うと、やがて水面に大きな影が映し出され、激怒したサイクロプスが姿を現す。その手には水底に沈んでいた岩石を掲げており、怒りの表情を浮かべてナイに振り返る。


「ギュロロロッ!!」
「えっ、ちょっ……まずい!?」
「危ない、ナイ君!!」


ナイは既に橋の上から移動しており、それをみたサイクロプスは岩石を振りかざす。慌てて他の者達が助けに向かおうとしたが、ナイは手にしていた籠を放り投げ、背中の岩砕剣に手を伸ばす。


「ギュロォッ!!」
「このぉっ!!」
「嘘だろ、おい!?」
「き、斬った!?いや、砕いたのか!?」


放り込まれた岩石に対してナイは咄嗟に岩砕剣を構えると、剛力を発動させて岩砕剣で岩石を破壊する。名前の通りに岩砕剣は岩をも破壊する程の硬度を誇り、その光景を見た他の冒険者達は驚く。

どうにか岩砕剣で投げ込まれた岩石を破壊する事には成功したナイだったが、その光景を確認したサイクロプスは水面から抜け出すと、改めてナイと向き合う。


「ギュロロロッ……!!」
「もしかして……凄く怒っている?」
「ナイ君がわざとまずい果物を食べさせたと勘違いしているのか?」
「……こうなったらやるしかない」
「ナイさん、助太刀します!!」


ミイナとヒイロは武器を構え、ナイの元へ近づこうとした。だが、この時にナイはサイクロプスの様子を伺い、他の者に手を出さない様に注意した。


「いや、大丈夫……ここれは僕一人で何とかするよ」
「えっ!?」
「ナ、ナイ君!?無茶だよ、相手は魔人族だよ!?」
「いいから任せて……うわっ!?」
「ギュロッ!!」


サイクロプスは拳を大きく振りかざすと、ナイに向けて放つ。その攻撃に対してナイは反射的に反魔の盾を装備した右腕を構えると、反魔の盾と拳が衝突して衝撃波が発生する。

反魔の盾は外部から魔法攻撃や衝撃を受けた場合は跳ね返す性質を誇るが、今回の場合はサイクロプスの攻撃が重くてナイも後方に後退る。その一方で衝撃波を受けたサイクロプスは体勢を崩し、再び川に落ちそうになるのを踏み止まる。


「ギュロロッ!?」
「くぅっ……なんて怪力だ」


以前にミノタウロスと戦った事があるナイだからこそ分かるが、サイクロプスの腕力はミノタウロスに匹敵するか、あるいはそれ以上の力を誇るかもしれない。ミノタウロス程の素早さこそないが、単純な腕力ならばサイクロプスが上回る。

態勢を整えたサイクロプスはナイに視線を向け、彼が装備した反魔の盾の存在が厄介だと判断し、サイクロプスは川に視線を向けると両手で水を救い上げる。その行為に他の者達は何をしているのかと思ったが、次の瞬間にサイクロプスは思いがけない行動を取った。


「ギュロォッ!!」
「うわっ!?」
「わあっ!?」
「め、目潰しか!?」


水を救い上げたサイクロプスはナイに目掛けて水を放ち、それを浴びたナイは目に水が入って瞼を閉じてしまう。その光景を見たアルトは驚きの声を上げ、その隙にサイクロプスは前脚を振りかざす。


「ギュロロッ!!」
「くぅっ!?」


咄嗟にナイは心眼を発動させて対処した結果、どうにかサイクロプスの突き出した前蹴りを躱す事に成功した。しかし、今度はサイクロプスは拳を振りかざし、倒れ込んだナイに目掛けて拳を振り下ろす。


「ギュロロッ!!」
「だ、駄目ぇっ!!」
「ナイ君、危ない!!」
「うわっ!?」


倒れたナイに目掛けてリーナとモモが突っ込み、二人は同時にナイに抱きついてそのまま転がり込む。サイクロプスの攻撃を躱す事には成功したが、三人は派手に転がり込む。


「いたたっ……ナ、ナイ君大丈夫?」
「むぐぐっ……!?」
「ひゃうっ!?だ、駄目ぇっ……そこは僕のお尻だよ」


転がった拍子にナイはモモの胸に顔を埋め、リーナのお尻を鷲摑みにしてしまう。こんな状況でなければ役得だったのかもしれないが、怒ったサイクロプスが迫っていた。




※サイクロプス「リア充、死すべし!!(#^ω^)ピキピキ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

処理中です...