貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
653 / 1,110
王都の異変

第642話 緊急任務

しおりを挟む
――場所は王城へ戻り、クノに勝利したナイにリンは今度は自分が戦おうとした。


「クノまで倒したか……面白い、なら次の対戦相手は……」
「俺の出番か」
「うわっ!?」


何時の間にかシノビが姿を現し、彼は妖刀「風魔」を腰に差した状態で現れる。シノビは試合場に登ると他の団員は緊張感を抱き、ナイさえもシノビを前にして冷や汗を流す。

シノビとは共に戦った事はあるが、対戦した事は一度もない。しかし、実力は妹であるクノを上回るはずであり、ナイは木剣を握りしめるとシノビは首を振る。


「武器を変えろ、そんな玩具では相手にもならないだろう」
「えっ……」
「なるほど、本気で戦いたいという事か……いいだろう、誰かナイの武器を持ってきてやれ」
「は、はい!!」


リンの言葉に慌てて団員達がナイの旋斧と岩砕剣を数人がかりで運び込み、試合場に立つナイの元へ送り届ける。ナイは木剣を手放し、渡された旋斧と岩砕剣を両手で受け取ると、シノビと向かい合う。

シノビはいつもの短刀ではなく、今回は風魔だけを扱うつもりなのか短刀は身に付けていない。ナイは風魔を扱うイゾウとの戦闘を思い出し、あの妖刀の恐ろしさはよく知っている。


「手加減は抜きだ、全力で行くぞ」
「……はいっ!!」
「よし、準備はいいな?では……始めっ!!」


ナイは両手の大剣を構え、シノビが風魔を抜こうとした瞬間、ここで訓練場に兵士が駆けつけてきた。その兵士は酷く慌てた様子であり、リンの名前を叫ぶ。


「リン副団長!!こちらにおりますか!?」
「……何だ、こんな時に。訓練中だぞ?」


折角のナイとシノビの試合を見れると思っただけにリンは駆けつけてきた兵士に対して不満そうな表情を浮かべ、試合場に立っていた二人も動きを止めた。全員が何事かと兵士に顔を向けると、彼は慌てた様子で告げる。


「き、緊急任務です!!銀狼騎士団の管理する工場区にて闘技場に移送中の魔物が脱走したそうです!!」
「何だと!?」
「工場区では現在、非常警戒態勢が敷かれております!!すぐに銀狼騎士団を出動させ、魔物の退治を……!!」
「……仕方ない、訓練はここまでだ!!これより、工場区に向かうぞ!!」


兵士の言葉を聞いてリンは表情を一変させ、他の団員も即座に行動に移る。ナイも慌てて他の者に続き、街に出る準備を行う――





――工場区に存在する闘技場には毎日魔物が送り込まれ、先日のミノタウロスの一件を反省して闘技場に魔物を送り込む際は、腕利きの冒険者を同行する事が義務付けられていた。

しかし、今回は闘技場に魔物を運搬する際、思わぬ事故が発生した。魔物を運搬中に得体の知れない仮面を付けた集団が唐突に現れ、いきなり襲撃を仕掛けてきた。冒険者達は襲撃者に対応したが、隙を突かれて魔物を捕まえた檻を運び込む荷車を破壊され、魔物が街中に脱走してしまう。


「馬車で運搬されていた魔物はコボルトが五匹、その内の一匹は亜種です!!襲撃者に関しては馬車を襲った後に行方を眩ませ、現在も捜索中との事です!!」
「ちっ……同行していた冒険者は何をしていた!?」
「それが襲撃者の手によって重傷を負わされ、現在は治療中との事です。全員が銀級冒険者で中には白銀級冒険者に昇格間近の者も居たそうですが……」
「ふんっ、何処の馬の骨ともわからぬ輩にやられるようでは王都の冒険者も質が落ちたな!!」


移動の際中に部下らの報告を聞いたリンは不機嫌さを隠さず、よりによって自分が担当を任されている地区で問題を起こした輩に彼女は憤る。必ずや魔物を見つけ出して討伐した後は一人残らず襲撃者を見つけ出す事を誓う。


「シノビ、クノ!!お前達は襲撃者の調査を行えっ!!正体が判明次第、私達に知らせろ!!」
「承知!!」
「了解した」
「よし、残りの者達は手分けして逃げ出した魔物の討伐を行え!!相手はコボルトだだと言っても油断するな!!住民にこれ以上に被害を及ぼす前に始末しろ!!」
『はっ!!』


リンの言葉を受けてシノビとクノは襲撃者が仕掛けてきた現場へと向かい、他の者は逃げ出したコボルトの捜索のために分かれる。この時にナイはビャクと行動を共にしており、ビャクの嗅覚でコボルトの位置を探す。


「ビャク、コボルトの臭いは分かるよね?あいつらの臭いを感じたらすぐに知らせるんだぞ」
「ウォンッ!!」
「なるほど、白狼種の嗅覚を頼りに捜索するのか。よし、そういう事なら私も一緒に行かせてもらうぞ」
「え?あ、はい……分かりました」
「何だ、その反応は……私と一緒に行動するのが不満なのか?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど……」


ビャクの嗅覚を頼りにナイはコボルトの捜索を開始しようとすると、リンが同行する事を告げる。ナイとしてはビャクと自分だけの方が動きやすいのだが、今は上官であるリンの命令に逆らう事はできず、街中を移動してコボルトの捜索を行う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

処理中です...