貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
648 / 1,110
王都の異変

第637話 魔力回復薬改

しおりを挟む
――超大型の魔樹と昆虫種の殲滅に成功したナイ達は無事に樹石を回収し、どうにか王都に帰還を果たす。リーナ達とは冒険者ギルドで別れた後、エルマ達は直接に王城へ向かう。

研究室のイリアの元に辿り着くと、彼女は既に調合の準備は終えており、ナイ達が採取した星華と樹石、更には保存していた聖水を利用してまずは薬草の育成を行う。

樹石を砕いて肥料代わりに腐葉土と混ぜると、それに星華を植えて聖水を与える。すると急速的に星華は成長を果たし、それを利用してイリアは調合を行う。そこで出来上がったのが「魔力回復薬改」であった。


「よし、完成しましたよ!!これが私の自信作、魔力回復薬改です!!」
「改……?」
「まだ試作段階ですので正式名称は後回しです。ですが、これを飲めばマホ魔導士も回復するはずですよ!!」
「ほ、本当ですか?」
「怪しい色合いをしている気がするが……」


イリアが作り出した魔力回復薬改は通常の魔力回復薬改よりも色合いが濃く、それを見たエルマ達は不安を抱くが、他に手段はないのでマホの元へ持っていく。そこには医師のイシが彼女の看病を行い、ナイ達が薬を盛ってくると彼は怒鳴りつける。


「遅いぞ、やっとできたのか!?」
「こっちも急いで作ったんですけどね……ほら、後は任せますよ」
「うおおっ!?な、投げるんじゃねえっ!!」


イシに向けてイリアは魔力回復薬改を放り込むと、彼は珍しく慌てた様子で受け取り、意識を失っているマホの口元に近付かせる。しかし、完全に意識を失っているマホに魔力回復薬改を流し込もうとしても彼女はむせて飲み込まない。


「げほっ……!!」
「うわっ……くそ、駄目かっ!!上手く飲み込まない……!!」
「大丈夫です、こいつを使いましょう」
「それ、注射器!?」
「普通の魔力回復薬と違って魔力回復薬改は体内に注入すれば効果が現れるんです。さあ、打ってください!!」
「お、おう……」


言われるがままにイシは注射器に魔力回復薬改を入れると、マホの腕の血管に突き刺し、中身を流し込む。本当に大丈夫なのかとナイ達は不安な表情を浮かべるが、徐々にマホの身体に変化が起きた。

魔力回復薬改を注入した途端に息が整い、顔色も良くなると瞼がゆっくりと開かれた。彼女は自分がベッドに横たわっている事に気付いて戸惑う。


「こ、ここは……」
「老師!!無事ですか!?」
「良かった……目が覚めたのか」
「お主等……そうか、儂は眠っておったのか」
「やりましたね、大成功ですよ!!」
「う、うん……」


マホは身体を起き上げ、自分が意識を失っていた事に気付き、ナイ達を見て彼等が救ってくれた事を悟る。この時に外から誰かが駆けつける音が鳴り響き、部屋の扉が荒々しく開かれた。


「おい、老師はここか!?」
「ちょ、ちょっと!!待ちなさい、君!!」
「勝手に出歩かれたら困るんだよ!!」


聞き覚えのある声が響き、ナイ達は振り返るとそこにはガロの姿が存在した。彼の後に何人もの兵士が続き、どうやらガロは城に乗り込んできたらしい。ガロは兵士に肩を掴まれながらも部屋の中にいるマホを見て死んでいない事を知り、安堵の息を吐く。


「な、何だよ……倒れたって聞いていたのに、元気そうじゃねえか」
「おおっ……ガロ、久しぶりじゃな」
「ガロ、お前何をしていた!?」
「連絡は送ったはずでしょう!!」
「い、いや……俺も戻って来たばかりで、初めて聞いたんだよ」


マホが倒れた事を伝える様にエルマとゴンザレスは冒険者ギルドのギルドマスターにも伝えていたが、ガロは仕事を引き受けていたので冒険者ギルドに戻ったのは今日だった。ギルドマスターから話を聞いたガロは居ても立っても居られずに城に乗り込み、マホの元へ訪れた。

意識を失ったマホの話を聞いて彼は不安を抱いたが、実際に会ってみると元気そうな彼女を見て安心し、そしてナイ達も居る事に気付くと気まずい表情を浮かべる。だが、そんな彼にマホは微笑む。


「来てくれて嬉しいぞ……ガロ」
「老師……お、俺は……」
「さあ、こっちに来て顔を良く見せてくれ」
「くっ……」


マホの優しい言葉にガロは顔を伏せ、勝手に出て行った自分がどんな顔をして話せばいいのか分からず、彼の頬に涙が流れる。その様子を見てナイ達は今はガロとマホを二人きりにした方が良いと判断し、部屋を出て行った――





――こうしてマホは一命を取り止め、更にイリアは新しい薬を作り出す事に成功した。しかし、今回の魔力回復薬改の製作には貴重な素材が多すぎるため、上級回復薬とは異なり、大量生産は不可能だった。

現時点では量産化は難しい代物だが、それでも魔力を瞬時に回復させるという点では普通の魔力回復薬よりも価値の高い代物である事に間違いない。またもや新しい薬品を作り出したイリアを国王は褒め称え、彼女に勲章を贈ったのは別の話である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

処理中です...