貧弱の英雄

カタナヅキ

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王都の異変

第634話 時間稼ぎ

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「凍りつけ!!」
『ジュラアアアッ……!?』


蒼月を利用してリーナが蔓を切り裂いた瞬間、切られた蔓は凍り付き、他の蔓も動きが鈍くなった。その様子を見てナイは確信を抱き、魔樹も植物である以上は冷気には弱い事が判明する。

リーナが槍を振り回すと周囲を取り囲んでいた植物の蔓は嫌がるように離れ、その間に他の者達は蔓を引きちぎり、魔樹の元へ近づく。ナイはこの時に旋斧に視線を向け、残り少ない火竜の魔力を利用して攻撃を行う。


(多分、これが最後の攻撃になる……やるしかない!!)


旋斧に残された火竜の魔力をこの戦闘で全て使い切る覚悟でナイは構えると、ありったけの風属性の魔力を送り込み、広範囲に火炎を放つ。


「うおおおっ!!」
『ジュラアアアアッ!?』
『ギエエエエッ!?』
『ぬおっ……魔法剣!?そんな物まで使えたのか!!』


ナイが旋斧から火炎放射の如く蔓と巨大蜂を焼き払い、進路上に存在した邪魔者を一掃した。しかし、危機を察知した魔樹は予想外の行動に出た。


『ジュラアアッ!!』
「なっ!?まさか……」
「いかん、俺達を押し潰す気か!?」


魔樹は自らの枝を手足の如く利用し、圧倒的な質量差でナイ達を押し潰そうと巨枝を振り下ろす。その攻撃に対してナイ達は身構えるが、即座にマリンとエルマとリーナが動く。


「っ……!!」
「はああっ!!」
「やああっ!!」
『ジュラァッ!?』


マリンは杖を掲げて複数の火球を放ち、爆発を生じさせる。この時に同時にエルマも矢を撃ち込み、風属性の魔力を含んだ矢が爆炎に飲み込まれた瞬間に規模が増す。最後にリーナが蒼月を振りかざし、氷の刃を形成して地面に突き刺す。蒼月が突き刺された箇所が凍り付き、魔樹の元にまで冷気が届くと魔樹は悲鳴を上げる。


『ジュラァアアア!?』
『よし、今だ!!俺は力を貯める事に集中する、その間はどうにか守ってくれ!!』
「分かりました!!」
『合図をしたら私もゴウカに魔法を放つ。だからこっちも援護は出来ない』
「はい!!ナイ君、ゴンザレス君!!頑張ろう!!」
「おうっ!!」


ゴウカは次の攻撃で仕留めるために力を溜める事に専念し、その間にマリンの方も魔法の準備を行う。今から30秒間はこの二人の援護は期待できず、ナイとゴンザレスとリーナの三人は分かれて三方向から迫りくる敵を薙ぎ払う。


「キィイイッ!!」
「近づけさせんぞ!!」
「てりゃあっ!!」
「はああっ!!」


ゴンザレスは巨大罰を殴りつけ、リーナは氷の刃を纏った蒼月を振り回し、ナイは旋斧から火炎を放ちながら周囲から迫る敵を倒す。一方でマリンは精神を集中させるために瞼を閉じて杖を握りしめ、ゴウカの方も黙ったまま動かない。

しかし、ここで一人だけ離れて援護を行っていたエルマの元に巨大蜂と蔓が集中して襲い掛かってきた。彼女は矢を撃つ暇もなく、周囲から迫りくる蔓と巨大蜂から逃れるために駆け抜ける。


「キイイッ!!」
『ジュラァッ!!』
「くぅっ……!?」
「エルマ!!」
「駄目、ゴンザレス君!?君が離れたら二人が……」


エルマの窮地に気付いたゴンザレスは助けに向かおうとするが、慌ててリーナが注意した。もしも彼が離れたらゴウカとマリンを守り切れない。


「私の事なら大丈夫です、地力で何とかします!!ゴンザレス、貴方は自分の役目を果たしなさい!!」
「し、しかし……」
「マホ老師を救うと言ったでしょう!!頼みましたよ、ゴンザレス!!」
「くぅっ……うおおっ!!」
「ギチィッ!?」


接近してきた巨大蜂に対してゴンザレスは拳を叩き込み、彼はエルマが死ぬつもりだと悟る。エルマはそんな彼を見て笑みを浮かべ、もう自分の命は数秒もない事を悟る。

残された矢は一本しか存在せず、彼女は蔓を回避しながら迫りくる巨大蜂に視線を向けた。相当な数を倒したと思われたが、蜂の巣から次々と巨大蜂の群れが出現し、やがて一際巨大な蜂が出現した。



――ギィエエエッ!!



他の蜂と比べても3倍ほどの大きさを誇る超巨大な蜂が出現し、恐らくは「女王蜂」と思われる巨大蜂が出現してナイ達の元へ迫る。どうやら蜂たちと魔樹は共生関係らしく、魔樹が倒されると蜂達も都合が悪いらしい。


(いけない!!あんな蜂に襲われたら……)


エルマは最後の一本の矢を弓に番え、女王蜂に狙いを定めた。彼女は最後の魔力を振り絞って矢を放つ。放たれた矢は真っ直ぐに女王蜂の顔面に向かい、突き刺さろうとした。しかし、直撃する寸前に他の蜂が女王蜂を守るために犠牲になった。


「ギアアッ!?」
『ギィエエエッ!!』
「そんなっ……!?」


最後の矢が女王蜂に届かなかった姿にエルマは絶望し、女王蜂はナイ達に向けて降下する。このままでは彼等が危ないと思ったエルマは矢筒に手を伸ばすが、もう矢は残っていない事を忘れていた。
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