貧弱の英雄

カタナヅキ

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王都の異変

第626話 助太刀

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『プギィイイッ……!!』
「こ、こいつらっ!!」
「気を付けて!!ただのオークではありません!?」
「ぐううっ……離れろっ!!」
「ウォンッ!!」


ゴンザレスとビャクは自分達に喰らいついたオークを引き剥がそうとするが、既にビャクの身体から血が滲み、ゴンザレスに至っては皮膚の一部が食いちぎられてしまう。

オークたちは口元に血を垂らし、食いちぎった肉を粗食しながらも視線を反らさない。血走った目で唸り声を漏らし、その様子を見てナイ達は冷や汗を流す。


「こいつら最初から俺達を喰らうつもりで襲ってきたのか!?」
「そのようですね。食欲に支配され、死をも恐れない存在と化しています。油断すればこちらが喰われます」
「グルルルッ……!!」
「……死をも恐れない、か」


ナイはエルマの言葉を聞いてオークたちに視線を向け、確かに現在のオークたちは食欲に従って自分達がいくら傷つこうと構わずに襲い掛かる覚悟を抱いていた。しかし、彼等がどれだけ暴走しようと、生き物である事に変わりはない。

旋斧にナイは視線を向けてオークたちの戦意を削ぐ方法を考える。実を言えば確実にオークに恐れを抱かせる方法はあるが、この手段を使うとナイ達の身にも危険が及ぶ。


(このまま戦ってもこっちも無傷じゃ済まない……それなら、やるしかないのか)


魔法腕輪に視線を向け、ナイは闇属性の魔石から魔力を引き出そうとした。闇属性の魔力は生物に大きな影響を与えるため、発動させれば今の食欲に理性を奪われたオーク達にも影響を与えられるだろう。

闇属性の魔力を間近に感じとるだけで体力を奪われ、イゾウとの戦闘ではナイも追い込まれてしまう。しかし、この状況下ではオークを追い払うにはこれしか方法はない。


(やるしかない、皆を守るためには……)


遂に覚悟を決めたナイが闇属性の魔力を旋斧に送り込もうとした時、ここで何かが駆けつける音が聞こえてきた。最初に異変に気付いたのはエルマであり、彼女はナイが気づくよりも先に馬の足音を確認した。


「この足音は……後ろから馬に乗った誰かが近付いています!!」
「えっ!?」
「何!?」
「ウォンッ?」


エルマの言葉を聞いてナイ達は振り返ると、そこには白馬に跨ったリーナの姿が存在した。更に彼女の背中には魔術師と思われる女性が乗り込んでおり、その後方には馬鹿でかい牛に乗り込んだ甲冑の巨人族が存在した。


「行くよ、ハク!!」
「ヒヒンッ!!」
「…………(必死にリーナに抱きつく)」
『ふはははっ!!大量のオークだな!!今日の晩飯にしてやろう!!』
「ブモォオオオッ!!」


突如として現れたリーナは蒼月を振りかざし、その彼女の背中には黄金冒険者であるマリンが抱きつき、巨大な牛に乗り込んだ鋼の剣聖の異名を誇る「ゴウカ」が漆黒の大剣を振りかざす。

いきなり現れた黄金冒険者三名に対してナイ達は驚愕するが、彼等以上に驚いたのはオークたちであり、最初に仕掛けたのはハクという名前の白馬に跨ったリーナであった。


「ナイ君、頭を伏せて!!」
「うわぁっ!?」


蒼月を掲げたリーナは刃先に魔力を集中させると、氷の刃を作り出してオークの群れに切りかかる。咄嗟にナイは頭を下げると彼女の振り抜いた刃が通過し、背後からナイに近付いていたオークの首を切り裂く。


「プフゥッ……!?」
「マリンさん、援護をお願い!!」
「っ……!!」


リーナの身体を掴み、激しく動き回るハクの背中から振り落とされない様にしがみついたマリンは手を伸ばすと、彼女は杖を取り出して上空へと掲げる。その瞬間、杖先から魔法陣が誕生し、複数の火球が誕生すると周囲に飛び散ったオークへと襲い掛かる。


『プギィイイッ!?』
「うおっ!?」
「この魔法は……!?」
「キャインッ!?」


火球の一つ一つは大した大きさではないが、オークの身体に触れた途端に火炎が燃え広がり、全身を覆いつくす。その火力はすさまじく、払いのけようとしても触れた瞬間に拡散して全身を燃やし尽くす。

瞬く間に殆どのオークがリーナとマリンによって打ち倒され、残されたのは一匹だけおなった。ゴウカは巨大な牛から下りると、大剣を手にしてオークと向かい合う。


『残るはお前だけか……さあ、掛かってこい!!』
「プギィイイッ……!?」


オークは自分よりも遥かに大きいゴウカを前にして身体を震わせ、先ほどまでは飢餓で理性を失っていたが、今はゴウカの気迫を受けて身体を震わせる。まるで大型の猛獣と遭遇した小動物のような感覚を抱く。

怯え切ったオークの姿を見てナイは動揺し、先ほどはビャクの咆哮を受けても一瞬怯んだだけですぐに襲い掛かったオークだが、今は恐怖で動けない光景を見て衝撃を受ける。食欲に理性を失い、自分達よりも圧倒的に強いはずのナイに躊躇なく襲い掛かったオークがゴウカを前にして怯えて戦う事も出来ず、そんなオークにゴウカはつまらなそうな声を上げた。
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