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王都の異変
第618.5話 悪徳商人の末路
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――黒猫酒場がイゾウによって破壊された後、商売敵が居なくなった事で向かいの酒場は客足が増えていた。しかし、それも最初だけで白猫亭が復帰すると、一気に客は減ってしまう。
「くそう、あの忌々しい女め!!」
「ご主人様、飲み過ぎでございます!!どうか落ち着いて下さい!!」
「これが落ち着いてなどいられるか!!」
酒場を経営も行っていた商人は屋敷にて苛立ちを抑えきれずに何本も酒を飲むが、いくら飲んでも酔う事は出来ない。やっと商売敵の黒猫酒場が潰れたと思ったら、今度は白猫亭なる酒場に商売敵の店主が地下に酒場を開いたと聞いて彼は憤る。
黒猫酒場は立地がいいため、最初の頃は商人は店ごと買い取って自分の物にしようとした。しかし、黒猫亭の女主人であるクロネに断られ、彼は手段を変えて黒猫酒場を潰すためにこれ見よがしに向かい側の建物を買い取って酒場に建て替えた。
最初の頃は黒猫酒場と比べて料理の質も落ちるので客足は伸び悩んだが、商人は裏で手をまわして黒猫酒場が食料を輸入していた商会から、酒場に食料を売らない様に注意する。仮に売りに出すとしても粗悪品の食料を売る様に指示を出す。
その後は黒猫酒場で働く従業員を懐柔し、仕事を辞めさせて自分の所の酒場で働かせたりなどを行い、遂には黒猫酒場を閉店寸前まで追い詰めた。極めつけに黒猫酒場が勝手に建物が崩壊したという話を聞いて商人は歓喜した。
「何なのだ!!どいつもこいつも……そんなに聖女騎士団が怖いのか!!」
「それは……当たり前では?」
「や、やかましい!!」
しかし、商人にとっては景気の良い話は黒猫酒場が潰れた事だけであり、白猫亭にて黒猫酒場の女主人が働いているという話を聞いた客は彼女の身を案じて酒場に通う客が激増した。
元々黒猫酒場は酒よりもクロネが作る料理が目当ての客が多く、現在の白猫亭には彼女の料理が目当ての客が殺到している。最近は碌に食料も輸入できず、まともな料理を出す事も出来なかったので客足は途絶えていたが、白猫亭の地下酒場では今まで通りに食事が食べられるようになった。これはヒナの手腕であり、彼女は脅しなどに屈しないちゃんとした商会と契約を結び、食料品を確保する。
「おのれ、何なのだあのガキは……儂の計画を見越したかのように邪魔をしおって!!」
最初の内は商人は白猫亭も潰そうとしたが、白猫亭を表向きの経営者はあの聖女騎士団の団長を務めるテンである。テンは国王からの信頼も厚く、公爵家のアッシュとも親しい間柄であり、彼女が率いる聖女騎士団の団員も曲者揃いである。
下手に白猫亭に嫌がらせを行えば聖女騎士団の連中から報復を受ける可能性もあり、しかもヒナはこれまで黒猫酒場が受けた被害をまとめ上げ、商人を訴えると申し出てきた。そのせいで商人は逆に追い込まれ、彼の酒場は今月中に閉店するかもしれない。
「ああ、どうしてこんな事に……」
「た、大変です!!ご主人様!!」
「何だ、こんな時に!?」
勝手に部屋の中に入ってきた使用人に商人は怒鳴りつけるが、その使用人は顔色を青くさせ、窓の外を指差す。その行動に商人は疑問を抱くと、使用人は震えた声で告げる。
「そ、外を見てください……聖女騎士団が屋敷の前まで押し寄せています!!」
「な、何ぃいいっ!?」
商人は知らなかった。これから彼は更なる地獄が待ち受けている事を――
――第一王子であるバッシュは自室にて座っていると、突如として窓が開け開かれ、何者かが音も立てずに入り込む。それに対してバッシュは特に警戒した様子もなく、入ってきた男を出迎えた。
「……シノビか」
「はっ……お呼びでしょうか」
バッシュの前に現れたのはリノ王女の側近であるシノビであり、彼は王子を前にすると跪く。その様子を見てバッシュは無表情のまま彼に告げる。
「必要以上に俺に気を遣うな。お前の主人は妹だろう」
「しかし……」
「俺は気にするなと言ったはずだ」
「……では、お言葉に甘えます」
主人以外の人間に膝を着くなどシノビとしても思う所はあり、バッシュの許可を得ると彼は立ち上がる。その様子を見てバッシュは頷き、彼の報告を受けた。
「それで、この俺が仮病までした以上は成果はあったのだろうな」
「はっ……こちらでございます」
バッシュは今日は風邪を患い、本日の業務を休んでいた。しかし、それは仮病であり実際の彼は風邪どころか病気すら掛かっていない。それでも仮病まで彼が部屋に休んだのには理由がある。
先日にバッシュは王都の戦力が飛行船でイチノに向かう間、ある人物が不審な行動を取っていた事を知る。バッシュの配下には優秀な部下が多く、その中には暗殺者も含まれていた。
暗殺者といえば言葉は物騒だが、別に彼等の仕事は暗殺を行うだけではなく、情報収集などの役割を持つ。時には間者として他国に出向き、情報を集める事もあるが、今回の場合は調査の対象は他の国ではなく、自国の人間になる。
将来はこの国を継ぐ者としてバッシュは内部の人間関係も把握しておく必要があり、彼はリノが連れてきたシノビと裏で通じて彼に王都内の人材の内部調査を行わせた。
「バッシュ王子の読み通り、やはりあの御方はどうやら裏の人間と接触しているそうです」
「……そうか」
シノビは巻物を取り出すと、この数日の間に調べ上げた裏社会の人間と関わりを持つ家臣の名前を書き連ねた報告書を差し出す。巻物を渡されたバッシュは眉をしかめるが、別に内容を確認出来るのならば問題はない。
「やはり、あの男が裏で繋がっていたか」
「王子……この者はリノの王女を疎ましく思っております。なので私はこれより王女の護衛に集中致します」
「ふっ……それは忠誠心からか?それとも……惚れた男の弱みか?」
「……失礼します」
バッシュの言葉にシノビは何も言い返さず、音を立てずに消え去る。外を出る時はご丁寧に窓まで閉めていくが、この時に少々荒っぽく窓は閉じて帰る。
内容を確認したバッシュは暖炉に巻物を放り込み、証拠を残さぬように燃やす。そして彼は窓の外に視線を向け、目つきを鋭くさせた。
「……この俺を舐めるなよ」
暖炉で燃えていく巻物の名前には彼が生まれる前からこの国に仕える重要な人物の名前が記されていた――
――イチノから帰還した後、マホは王城の医療室にて寝たきりの生活を送っていた。彼女はゴブリキングとの戦闘で広域魔法を使用し、その後遺症で王都に帰還してから医療室で治療を受けていた。
「はあっ……はっ……くぅうっ……」
「くそっ……こいつはもう駄目かもしれねえ。俺の手に負える状態じゃねえ」
「そ、そんなっ……」
「それが医者の言葉か!?」
今までマホの治療を行っていたのは王城に勤務する専属医師のイシであり、ベッドの横たわるマホの容体を確認し、彼は首を振る。そんなイシの言葉にマホの弟子であるエルマとゴンザレスは激昂する。
「医者だからって何でもできるわけじゃねえっ!!今のこの人は魔力を消耗し過ぎて意識さえも保つ事が出来ないんだ!!だが、その肝心の魔力を回復させる手段がない!!」
「薬で何とかならないのか!?」
「無駄だ、魔力回復薬の類は魔力を回復する機能を強化させるだけにしか過ぎねえ……だけど、この人の場合はその機能が殆ど損なわれてるんだ!!背中のこいつのせいでな!!」
「うっ……!!」
イシはマホを仰向けにさせ、彼女の服をはだくと背中には見るもおぞましい光景が広がっていた。それを見たエルマとゴンザレスはマホの悲惨な姿に目を背ける事しか出来ず、イシでさえも頭を抱える。
「こいつのせいでこの人は自力で魔力を回復させる事も出来ねえ……今まではどうにか薬で誤魔化してきたが、もう無理だ」
「そんな……」
「助ける手段があるとすれば……イリアが作っている薬を完成させる事だ。あれを使えばこの人の魔力も元に戻せるかもしれねえ」
「イリア魔導士の……!?」
「そうだ、あいつは今新しい薬を作っている。なんでもそいつを飲めば市販の魔力回復薬なんかとは比べ物にならない効果を発揮するらしい。まあ、詳しいはあいつから聞き出せ」
「それは本当か!?」
「ゴンザレス!!すぐに行きますよ!!」
エルマとゴンザレスはイシの言葉を聞いて駆け出し、研究室にいるはずのイリアの元へ向かう。残されたイシは机の上に置かれた大量の空の薬瓶に視線を向け、舌打ちを行う。
これまでイシもマホを回復させるために手段を尽くしたが、もう彼女の身体は限界だった。仮に魔力を回復させたとしてもマホはもう長生きは出来ない事は確実だった。
「くそっ……何が呪いだ。ふざけやがって!!」
空の薬瓶をイシは握りしめ、壁に向けて叩きつける。彼はマホの背中に視線を向け、忌まわしい物を見るような視線を向けていた。
――マホの背中には人面のような痣が存在し、その痣のせいで彼女は魔術師として一番大切な器官が麻痺している状態だった。
「くそう、あの忌々しい女め!!」
「ご主人様、飲み過ぎでございます!!どうか落ち着いて下さい!!」
「これが落ち着いてなどいられるか!!」
酒場を経営も行っていた商人は屋敷にて苛立ちを抑えきれずに何本も酒を飲むが、いくら飲んでも酔う事は出来ない。やっと商売敵の黒猫酒場が潰れたと思ったら、今度は白猫亭なる酒場に商売敵の店主が地下に酒場を開いたと聞いて彼は憤る。
黒猫酒場は立地がいいため、最初の頃は商人は店ごと買い取って自分の物にしようとした。しかし、黒猫亭の女主人であるクロネに断られ、彼は手段を変えて黒猫酒場を潰すためにこれ見よがしに向かい側の建物を買い取って酒場に建て替えた。
最初の頃は黒猫酒場と比べて料理の質も落ちるので客足は伸び悩んだが、商人は裏で手をまわして黒猫酒場が食料を輸入していた商会から、酒場に食料を売らない様に注意する。仮に売りに出すとしても粗悪品の食料を売る様に指示を出す。
その後は黒猫酒場で働く従業員を懐柔し、仕事を辞めさせて自分の所の酒場で働かせたりなどを行い、遂には黒猫酒場を閉店寸前まで追い詰めた。極めつけに黒猫酒場が勝手に建物が崩壊したという話を聞いて商人は歓喜した。
「何なのだ!!どいつもこいつも……そんなに聖女騎士団が怖いのか!!」
「それは……当たり前では?」
「や、やかましい!!」
しかし、商人にとっては景気の良い話は黒猫酒場が潰れた事だけであり、白猫亭にて黒猫酒場の女主人が働いているという話を聞いた客は彼女の身を案じて酒場に通う客が激増した。
元々黒猫酒場は酒よりもクロネが作る料理が目当ての客が多く、現在の白猫亭には彼女の料理が目当ての客が殺到している。最近は碌に食料も輸入できず、まともな料理を出す事も出来なかったので客足は途絶えていたが、白猫亭の地下酒場では今まで通りに食事が食べられるようになった。これはヒナの手腕であり、彼女は脅しなどに屈しないちゃんとした商会と契約を結び、食料品を確保する。
「おのれ、何なのだあのガキは……儂の計画を見越したかのように邪魔をしおって!!」
最初の内は商人は白猫亭も潰そうとしたが、白猫亭を表向きの経営者はあの聖女騎士団の団長を務めるテンである。テンは国王からの信頼も厚く、公爵家のアッシュとも親しい間柄であり、彼女が率いる聖女騎士団の団員も曲者揃いである。
下手に白猫亭に嫌がらせを行えば聖女騎士団の連中から報復を受ける可能性もあり、しかもヒナはこれまで黒猫酒場が受けた被害をまとめ上げ、商人を訴えると申し出てきた。そのせいで商人は逆に追い込まれ、彼の酒場は今月中に閉店するかもしれない。
「ああ、どうしてこんな事に……」
「た、大変です!!ご主人様!!」
「何だ、こんな時に!?」
勝手に部屋の中に入ってきた使用人に商人は怒鳴りつけるが、その使用人は顔色を青くさせ、窓の外を指差す。その行動に商人は疑問を抱くと、使用人は震えた声で告げる。
「そ、外を見てください……聖女騎士団が屋敷の前まで押し寄せています!!」
「な、何ぃいいっ!?」
商人は知らなかった。これから彼は更なる地獄が待ち受けている事を――
――第一王子であるバッシュは自室にて座っていると、突如として窓が開け開かれ、何者かが音も立てずに入り込む。それに対してバッシュは特に警戒した様子もなく、入ってきた男を出迎えた。
「……シノビか」
「はっ……お呼びでしょうか」
バッシュの前に現れたのはリノ王女の側近であるシノビであり、彼は王子を前にすると跪く。その様子を見てバッシュは無表情のまま彼に告げる。
「必要以上に俺に気を遣うな。お前の主人は妹だろう」
「しかし……」
「俺は気にするなと言ったはずだ」
「……では、お言葉に甘えます」
主人以外の人間に膝を着くなどシノビとしても思う所はあり、バッシュの許可を得ると彼は立ち上がる。その様子を見てバッシュは頷き、彼の報告を受けた。
「それで、この俺が仮病までした以上は成果はあったのだろうな」
「はっ……こちらでございます」
バッシュは今日は風邪を患い、本日の業務を休んでいた。しかし、それは仮病であり実際の彼は風邪どころか病気すら掛かっていない。それでも仮病まで彼が部屋に休んだのには理由がある。
先日にバッシュは王都の戦力が飛行船でイチノに向かう間、ある人物が不審な行動を取っていた事を知る。バッシュの配下には優秀な部下が多く、その中には暗殺者も含まれていた。
暗殺者といえば言葉は物騒だが、別に彼等の仕事は暗殺を行うだけではなく、情報収集などの役割を持つ。時には間者として他国に出向き、情報を集める事もあるが、今回の場合は調査の対象は他の国ではなく、自国の人間になる。
将来はこの国を継ぐ者としてバッシュは内部の人間関係も把握しておく必要があり、彼はリノが連れてきたシノビと裏で通じて彼に王都内の人材の内部調査を行わせた。
「バッシュ王子の読み通り、やはりあの御方はどうやら裏の人間と接触しているそうです」
「……そうか」
シノビは巻物を取り出すと、この数日の間に調べ上げた裏社会の人間と関わりを持つ家臣の名前を書き連ねた報告書を差し出す。巻物を渡されたバッシュは眉をしかめるが、別に内容を確認出来るのならば問題はない。
「やはり、あの男が裏で繋がっていたか」
「王子……この者はリノの王女を疎ましく思っております。なので私はこれより王女の護衛に集中致します」
「ふっ……それは忠誠心からか?それとも……惚れた男の弱みか?」
「……失礼します」
バッシュの言葉にシノビは何も言い返さず、音を立てずに消え去る。外を出る時はご丁寧に窓まで閉めていくが、この時に少々荒っぽく窓は閉じて帰る。
内容を確認したバッシュは暖炉に巻物を放り込み、証拠を残さぬように燃やす。そして彼は窓の外に視線を向け、目つきを鋭くさせた。
「……この俺を舐めるなよ」
暖炉で燃えていく巻物の名前には彼が生まれる前からこの国に仕える重要な人物の名前が記されていた――
――イチノから帰還した後、マホは王城の医療室にて寝たきりの生活を送っていた。彼女はゴブリキングとの戦闘で広域魔法を使用し、その後遺症で王都に帰還してから医療室で治療を受けていた。
「はあっ……はっ……くぅうっ……」
「くそっ……こいつはもう駄目かもしれねえ。俺の手に負える状態じゃねえ」
「そ、そんなっ……」
「それが医者の言葉か!?」
今までマホの治療を行っていたのは王城に勤務する専属医師のイシであり、ベッドの横たわるマホの容体を確認し、彼は首を振る。そんなイシの言葉にマホの弟子であるエルマとゴンザレスは激昂する。
「医者だからって何でもできるわけじゃねえっ!!今のこの人は魔力を消耗し過ぎて意識さえも保つ事が出来ないんだ!!だが、その肝心の魔力を回復させる手段がない!!」
「薬で何とかならないのか!?」
「無駄だ、魔力回復薬の類は魔力を回復する機能を強化させるだけにしか過ぎねえ……だけど、この人の場合はその機能が殆ど損なわれてるんだ!!背中のこいつのせいでな!!」
「うっ……!!」
イシはマホを仰向けにさせ、彼女の服をはだくと背中には見るもおぞましい光景が広がっていた。それを見たエルマとゴンザレスはマホの悲惨な姿に目を背ける事しか出来ず、イシでさえも頭を抱える。
「こいつのせいでこの人は自力で魔力を回復させる事も出来ねえ……今まではどうにか薬で誤魔化してきたが、もう無理だ」
「そんな……」
「助ける手段があるとすれば……イリアが作っている薬を完成させる事だ。あれを使えばこの人の魔力も元に戻せるかもしれねえ」
「イリア魔導士の……!?」
「そうだ、あいつは今新しい薬を作っている。なんでもそいつを飲めば市販の魔力回復薬なんかとは比べ物にならない効果を発揮するらしい。まあ、詳しいはあいつから聞き出せ」
「それは本当か!?」
「ゴンザレス!!すぐに行きますよ!!」
エルマとゴンザレスはイシの言葉を聞いて駆け出し、研究室にいるはずのイリアの元へ向かう。残されたイシは机の上に置かれた大量の空の薬瓶に視線を向け、舌打ちを行う。
これまでイシもマホを回復させるために手段を尽くしたが、もう彼女の身体は限界だった。仮に魔力を回復させたとしてもマホはもう長生きは出来ない事は確実だった。
「くそっ……何が呪いだ。ふざけやがって!!」
空の薬瓶をイシは握りしめ、壁に向けて叩きつける。彼はマホの背中に視線を向け、忌まわしい物を見るような視線を向けていた。
――マホの背中には人面のような痣が存在し、その痣のせいで彼女は魔術師として一番大切な器官が麻痺している状態だった。
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