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王都の異変
第614話 獣人国と王国の薬草の質
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王城には何度も出入りしており、最近は黒狼騎士団の団員としても出入りしていたため、城内の兵士達はナイの顔を見ただけで慌てて敬礼を行う。
「あ、ナイさん!!」
「ご苦労様です!!」
「ど、どうも……そんなにかしこまらなくていいですよ」
顔を合わせただけで敬礼を行う兵士達に対してナイは気を遣う必要はないと告げるが、兵士からすればナイは既に有名な存在であり、彼が通り過ぎた後に囁く。
「おい、見たか……あれが巨鬼殺しだぞ」
「ああ……ゴーレムキングやゴブリンキングに止めを刺した剣士だろ、この城の中で知らない人間なんていねえよ」
「後でサイン貰おうかな……」
ナイが通り過ぎるだけで兵士達は噂話を行い、その反応にナイはため息を吐き出す。自分の知らない所で噂をされるのはあまりいい気分ではないが、注意してもきっと自分がいない所で噂される事に変わりはないため、足早にアルトが普段いる研究室に向かう。
アルトは王子ではあるが魔道具職人を目指しており、彼は研究室で新しい魔道具の開発実験を行っている。最近ではナイのために新しい魔道具を作ると言っていたため、どんな魔道具なのか気になったナイはアルトの元へ訪れた。
「アルト?部屋にいる?」
『その声は……ナイさんですか?どうぞ、中に入って下さい』
「あれ、その声は……イルアさん?」
『イリアですよ!!アルト王子と名前がごっちゃまぜになってますよ!!』
研究室に聞こえてきた声はアルトではなく、イリアだと気付いたナイは部屋に入ると、彼女は薬の調合中だったのか様々な研究器材が机の上に置かれていた。
「どうも、お久しぶりですね。アルト王子は今はいませんよ、屋敷の方に戻っています」
「あ、そうなんだ……じゃあ、失礼しますね」
「ちょっとちょっと、そんな逃げる様に行かなくていいじゃないですか。少し、お話ししましょうよ」
「あ、はい……」
ナイはイリアに引き留められ、彼女が用意した椅子に座らされる。改めてイリアの格好を見ると、実験中は普段以上に怪しい恰好をしており、いったい何の薬の研究をしていたのかを尋ねる。
「イリアさんは何を作っていたんですか?」
「今は回復薬ですよ。といっても、ただの回復薬じゃありませんよ。王国中の領地から採取した薬草を利用して配合を行っています」
「え?どうしてそんな事を……」
「世間ではあまり知られていませんけど、実は北の地方で取れる薬草よりも南の地方で取れる薬草の方が効果が高いんですよ」
「ええっ!?初めて知りました!!」
イリアの言葉にナイは驚き、彼女によると以前にイチノで飛行船に移動した時、ついでに薬草の採取を行っていたという。ナイは知らなかったが定期的に立ち寄った飛行船の停泊地でも薬草の採取を行っていたらしい。
机の上には薬草の束が置かれており、棚の方には回復薬が並べられていた。そしてナイは全ての回復薬の色合いが微妙に違う事に気付き、イリアによると薬草の色が濃い代物が南の地方で取れた薬草から調合した薬であり、色が薄い物は北の地方で取れた薬草から作り出した代物だと説明する。
「回復薬も魔力回復薬も色合いが濃い方が回復効果が高いんですよ。だから獣人国で採取できる薬草よりも王国で採取できる薬草の方が上質という事ですね」
「へ、へえっ……」
「私が作り出した上級回復薬の製作には王国の薬草じゃないと駄目なんです。だから他の国の薬草では作れないんですけど、それでちょっと問題が起きましてね」
「問題?」
「ほら、リノ王女が正体を晒したでしょう?それでちょっと獣人国と揉めているんですよ」
「えっ……」
イチノから帰還した後、リノは正式に自分が王子ではなく、王女である事を宣言した。これは国王も認めた事であり、これからは彼女は男性ではなく、女性として生きていくことを誓う。しかし、イリアによるとこのリノの宣言で獣人国との関係が問題になっているという。
――イリアはナイにかつてリノ王女が生まれた時に起きた問題を話す。その内容というのが当時の獣人国の国王の子供が生まれると知り、その子供が娘の場合は自分の息子との縁談を申し込んできた。
そして生まれてきた子供が娘である事が判明し、国王は思い悩む。相手の獣人国の王子は30才であり、しかも娘は獣人国へ暮らす様に勧めてきた。仮にリノが成人年齢を迎えた場合は15才であり、その時は王子は45才を迎える。しかも娘を獣人国に送り込むという事は人質に等しい。
悩んだ末に国王はリノの事を王子として世間に報告し、獣人国との縁談は中止になった。その後、先代の国王は死去し、王子が国王に即位する。この王子はリノと結婚するはずの王子ではなく、別の王子だった。
新しい国王は温厚な性格で即位後に王国とも友好的な関係を築く。王国の国王はリノが女性である事を宣言しても彼ならば理解してくれると判断し、使者を送ってリノが王子ではなく王女である事を伝えた。しかし、国王の予想に反し、獣人国の国王は激怒し、使者を送り返してきた。
「あ、ナイさん!!」
「ご苦労様です!!」
「ど、どうも……そんなにかしこまらなくていいですよ」
顔を合わせただけで敬礼を行う兵士達に対してナイは気を遣う必要はないと告げるが、兵士からすればナイは既に有名な存在であり、彼が通り過ぎた後に囁く。
「おい、見たか……あれが巨鬼殺しだぞ」
「ああ……ゴーレムキングやゴブリンキングに止めを刺した剣士だろ、この城の中で知らない人間なんていねえよ」
「後でサイン貰おうかな……」
ナイが通り過ぎるだけで兵士達は噂話を行い、その反応にナイはため息を吐き出す。自分の知らない所で噂をされるのはあまりいい気分ではないが、注意してもきっと自分がいない所で噂される事に変わりはないため、足早にアルトが普段いる研究室に向かう。
アルトは王子ではあるが魔道具職人を目指しており、彼は研究室で新しい魔道具の開発実験を行っている。最近ではナイのために新しい魔道具を作ると言っていたため、どんな魔道具なのか気になったナイはアルトの元へ訪れた。
「アルト?部屋にいる?」
『その声は……ナイさんですか?どうぞ、中に入って下さい』
「あれ、その声は……イルアさん?」
『イリアですよ!!アルト王子と名前がごっちゃまぜになってますよ!!』
研究室に聞こえてきた声はアルトではなく、イリアだと気付いたナイは部屋に入ると、彼女は薬の調合中だったのか様々な研究器材が机の上に置かれていた。
「どうも、お久しぶりですね。アルト王子は今はいませんよ、屋敷の方に戻っています」
「あ、そうなんだ……じゃあ、失礼しますね」
「ちょっとちょっと、そんな逃げる様に行かなくていいじゃないですか。少し、お話ししましょうよ」
「あ、はい……」
ナイはイリアに引き留められ、彼女が用意した椅子に座らされる。改めてイリアの格好を見ると、実験中は普段以上に怪しい恰好をしており、いったい何の薬の研究をしていたのかを尋ねる。
「イリアさんは何を作っていたんですか?」
「今は回復薬ですよ。といっても、ただの回復薬じゃありませんよ。王国中の領地から採取した薬草を利用して配合を行っています」
「え?どうしてそんな事を……」
「世間ではあまり知られていませんけど、実は北の地方で取れる薬草よりも南の地方で取れる薬草の方が効果が高いんですよ」
「ええっ!?初めて知りました!!」
イリアの言葉にナイは驚き、彼女によると以前にイチノで飛行船に移動した時、ついでに薬草の採取を行っていたという。ナイは知らなかったが定期的に立ち寄った飛行船の停泊地でも薬草の採取を行っていたらしい。
机の上には薬草の束が置かれており、棚の方には回復薬が並べられていた。そしてナイは全ての回復薬の色合いが微妙に違う事に気付き、イリアによると薬草の色が濃い代物が南の地方で取れた薬草から調合した薬であり、色が薄い物は北の地方で取れた薬草から作り出した代物だと説明する。
「回復薬も魔力回復薬も色合いが濃い方が回復効果が高いんですよ。だから獣人国で採取できる薬草よりも王国で採取できる薬草の方が上質という事ですね」
「へ、へえっ……」
「私が作り出した上級回復薬の製作には王国の薬草じゃないと駄目なんです。だから他の国の薬草では作れないんですけど、それでちょっと問題が起きましてね」
「問題?」
「ほら、リノ王女が正体を晒したでしょう?それでちょっと獣人国と揉めているんですよ」
「えっ……」
イチノから帰還した後、リノは正式に自分が王子ではなく、王女である事を宣言した。これは国王も認めた事であり、これからは彼女は男性ではなく、女性として生きていくことを誓う。しかし、イリアによるとこのリノの宣言で獣人国との関係が問題になっているという。
――イリアはナイにかつてリノ王女が生まれた時に起きた問題を話す。その内容というのが当時の獣人国の国王の子供が生まれると知り、その子供が娘の場合は自分の息子との縁談を申し込んできた。
そして生まれてきた子供が娘である事が判明し、国王は思い悩む。相手の獣人国の王子は30才であり、しかも娘は獣人国へ暮らす様に勧めてきた。仮にリノが成人年齢を迎えた場合は15才であり、その時は王子は45才を迎える。しかも娘を獣人国に送り込むという事は人質に等しい。
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