貧弱の英雄

カタナヅキ

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王都の異変

第611話 ドリスとの試合

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「いててっ……やっぱり、強いですね。今日も勝てなかったや」
「いいえ、ナイさんは大剣使い……使い慣れていない木刀で十分に戦いましたわ」


尻餅をついたナイにドリスは手を伸ばし、彼を立ち上がらせる。今日までナイは結局は一度もドリスに勝てなかったが、ここまでの組手でナイは使用した武器は訓練用の木剣だけである。

普段のナイが使用しているのは大剣であるが、生憎と木剣の中にナイが普段から扱うような大きさの武器はなく、今日まで頑張ってきたがやはり普通の木剣ではナイは本気を出して戦う事ができなかった。それでも数日の訓練でナイは確かに腕を磨いており、ドリスはそんな彼を見て惜しいと思う。


「……私がナイさんの指導を任せられているのは今日まででしたわね。なら、これが最後の訓練になりますわ」
「あ、そうでしたね。結局は一本も取れなかったな……」


明日はナイの黒狼騎士団の仮入団の最終日であり、最後の一日はバッシュ王子の元で指導を受ける予定だった。そこでドリスは考え込み、ナイに試合を申し込む。


「ナイさん、もう一戦ですわ。今度は魔剣を使っても構いません」
「えっ?いいんですか?」
「なっ!?団長、それは……」
「責任は私が取りますわ。だから貴方達は黙っていなさい」


ドリスの言葉に他の団員は衝撃の表情を浮かべ、彼女は自分の魔槍「真紅」を持ち上げるとナイに構える。


「遠慮は無用ですわ、全力で掛かってきてください!!」
「わ、分かりました」


ナイはドリスの気迫を感じ取り、彼女が本気で戦おうとしている事を察すると、自分も旋斧と岩砕剣を装備する。相手は騎士団の副団長であり、国内でも指折りの実力者である事を間違いない。

かつてナイは銀狼騎士団のリンに挑み、敗北を喫した。しかもリンの場合は殺すならばナイをいつでも殺す事が出来た。しかし、リンの敗北後にナイは格段に成長しており、彼女と同等の力を持つドリスに挑む事で自分が何処まで強くなれたのかを確かめる事にした。


「行きますよ!!」
「ええ、かかってきなさい……私も本気で行きますわ!!」


ドリスはナイの言葉を聞いて戦闘態勢に入ると、試合の合図を待たずに彼女は真紅に魔力を送り込み、この際に真紅の柄の部分に装着させた火属性の魔石が光り輝く。それを見た他の団員が本気でドリスが戦うつもりだと知り、慌てて距離を取る。


「ま、まずい!!皆、離れろ!!」
「爆発に巻き込まれるぞ!!」
「え、えっと……し、試合開始!!」


団員が離れると、審判役の人間も試合開始の合図を行うと急いで離れる。ドリスはナイから一旦距離を開くと、彼女は真紅を構えて狙いを定め、火属性の魔力を噴出させ、まるでロケット噴射のように後方に火属性の魔力を放ちながら加速する。


「爆槍!!」
「くっ!?」


魔力の放出を利用して加速したドリスはナイとの距離を一気に詰め、真紅を突き出す。名前の通りに真紅の色合いをしたランスが近付く光景を見て咄嗟にナイは二つの大剣を重ね合わせて防御の体勢を取った。

しかし、ナイの行動は悪手であり、ドリスは笑みを浮かべると真紅を突き出す際に刃にも魔力を送り込み、この時に柄の部分から放出された火属性の魔力が掻き消えると、真紅の刃先が掻き消えた瞬間に爆発が生じた。


「爆裂!!」
「うわぁっ!?」
「ひいっ!?」
「ふ、副団長!!やり過ぎですよ!?」


二つの大剣で攻撃を受け止めようとしたナイだったが、ドリスの攻撃が触れた瞬間に爆発が発生し、後方へと吹き飛ぶ。その光景を見ていた団員達は悲鳴を上げ、ナイの安否を心配するが、攻撃を仕掛けたドリスは違和感を抱く。


「今の爆発は……!?」
「くっ……し、死ぬかと思った」
「うわ、立ち上がった!?」
「あ、あんな攻撃を受けて……!?」


ドリスは攻撃を仕掛けた際、いつもよりも爆発の規模が小さい事に気付き、一方で吹き飛ばされたナイはすぐに立ち上がる。この際にナイの旋斧には何時の間にか炎が纏っており、それを見たドリスは気づく。


「まさか、私の攻撃を吸収したんですの!?」
「ぎりぎりでしたけどね……」


真紅の攻撃を受けた際にナイは火属性の魔力を旋斧を利用して奪い、完全に吸収する事はできなかったが、威力を大きく弱める事に成功した。もしも本来の威力ならばナイは耐え切れずに派手に吹き飛ばされ、試合は終わっていたかもしれない。

火属性の魔力を喰らった事で旋斧は炎を纏うが、ここでナイは以前程に火力が引き出せない事に気付く。少し前にハマーンからナイの旋斧の火竜の魔力が失いかけているという話を思い出す。
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