610 / 1,110
王都の異変
第601話 立て籠もり
しおりを挟む
「おい、あんたら……この宿の人間か?」
「え?ええ、そうですけど……どちら様ですか?」
「えっと、もしかしてお客さん?ごめんなさい、まだ店は開いてないから……」
「待って、二人とも……あの、顔色が悪いようですけど大丈夫ですか?」
三人に話しかけてきたのは若い男性であり、恐らくは冒険者だと思われた。獣人族の若者は顔色が悪く、若干興奮した様子で三人に話しかけてきた。
彼の様子を見てクロネは疑問を抱き、ヒナとモモも男性が普通の状態ではないように見えた。その一方で男性の方は三人が宿屋の人間だと確認すると、首筋に手を伸ばす。
「そうか、ならお前等が噂の……」
「えっ?あの、それってどういう……」
「モモちゃん、離れて!!」
「わっ!?」
男性の言葉にヒナはどういう意味なのかと尋ねようとした時、クロネはいち早く男性が何かを仕出かそうとしている事に気付き、咄嗟にモモを庇う。しかし、男性はクロネの腕を掴んで強制的に引き寄せる。
「動くな!!動けばこいつを殺すぞ!!」
「ひっ!?」
「ク、クロネさん!?」
「や、止めてよ!!どうしてそんな酷い事するの!?」
獣人族の男性はクロネを抱き寄せて首筋に短剣を構え、それを見たヒナとモモは咄嗟にクロネを救おうとした。しかし、相手が素人ならばともかく、戦い慣れしている冒険者だった事が災いし、男性は二人をあしらう。
「近寄るなと言っただろうが!!こいつがどうなってもいいのか!?」
「きゃああっ!?」
「な、何だ!?強盗か!?」
「ひいっ!?あ、あいつ何してんだ!?」
「おい、警備兵を呼べっ!!」
街道を歩いていた通行人たちも異変に気付き、悲鳴を上げて立ち去る。大騒ぎと化した街道にてヒナは歯を食いしばり、ここに聖女騎士団の人間を連れてこなかったのが仇になった。
(今日は店の確認だけだから護衛なんて必要ないと思ったのに……)
クロネを人質にされたヒナとモモは男に逆らう事は出来ず、他の人間に助けを求めようにも近くには警備兵もいない。男はクロネを人質に捉え、自分に逆らわない様に指示を出す。
「いいか、お前等は俺の言う通りに従え……言っておくが、逆らえばこいつの命はないからな!!」
「に、逃げて……二人とも」
「ま、待ちなさい!!分かった、分かったからその人に手を出さないで!!」
「こ、降参だよ~……」
ヒナとモモは両手を上げて男の指示に従う事を示すと、男は白猫亭の中に入るように促し、こうして三人は人質として捕まった――
――それからしばらくの時間が経過すると、屋敷の前にナイ達と警備兵が駆けつける。既に事情は把握しており、犯人は白猫亭に立て籠もっていた。
「うちの娘達はどうしたんだい!?無事なんだろうね!!」
「お、落ち着いて下さい!!私達も今ここに辿り着いたばかりで……状況が把握できていないんです!!」
「ふざけるんじゃないよ!!もしもあの子達の身に何か起きたら、あんたらも容赦しないからね!!」
「落ち着け、テン!!その人たちに怒っても仕方ないだろう!?」
テンは興奮した様子で警備兵に突っかかるが、他の者が引き剥がして落ち着かせる。その一方でナイは警備兵の中にリンダが含まれている事を知り、彼女に話しかける。
「リンダさん!!」
「ナイ様……大変な事になりましたね。現在、犯人は三人の人質と共に建物に閉じこもっています。全ての扉と窓は閉め切り、外部から侵入出来ない様に対処しています」
「そんな……」
現在の状況をリンダに報告されたナイは顔色を青ざめ、白猫亭を確認する。何処の窓も出入口扉も締め切られ、中の様子はうかがえない。
既に三人が捕まってから30分は経過しており、もしも強盗の正体が吸血鬼に操られている存在ならばあと30分で正気を取り戻すはずだった。しかし、ここで犯人の男が窓から顔を出す。
「おい、お前等!!今すぐに金と馬車を用意しろ!!金貨100枚、今すぐに用意しろ!!」
「あんた!!うちの娘と親友はどうした!?無事なんだろうね!!」
「ああ、まだ生きている……だが、逆らえばどうなるか分かっているな!?」
「ううっ……」
「ご、ごめんなさいテンさん……」
男はヒナとモモを連れ出すと、二人とも弱り切っており、それを見たテンは怒りのあまりに身体中の血管が浮き上がる。だが、ここで不用意に突っ込めば二人の命が危険に晒されてしまう。
「いいか、今から20分以内に金貨100枚と馬車を用意しろ!!俺はそれに乗って王都を出る、こいつらは外に出る時に解放してやる!!」
「20分以内って……」
「馬鹿言うんじゃないよ、そんな簡単にそれだけの金が用意できるかい!!」
「お前等があの第三王子と関りがある事は知っているんだ!!その程度の金ぐらい用意できるだろ!?さあ、離している間にも時間は過ぎているぞ!!」
「ちっ……!!」
どうやら犯人の男はナイ達がアルトとかかわりを持っている事を知っているらしく、その情報も吸血鬼に事前に知らされたかどうかは分からないが、金貨も馬車も用意しろなど無茶な要求だった。
「え?ええ、そうですけど……どちら様ですか?」
「えっと、もしかしてお客さん?ごめんなさい、まだ店は開いてないから……」
「待って、二人とも……あの、顔色が悪いようですけど大丈夫ですか?」
三人に話しかけてきたのは若い男性であり、恐らくは冒険者だと思われた。獣人族の若者は顔色が悪く、若干興奮した様子で三人に話しかけてきた。
彼の様子を見てクロネは疑問を抱き、ヒナとモモも男性が普通の状態ではないように見えた。その一方で男性の方は三人が宿屋の人間だと確認すると、首筋に手を伸ばす。
「そうか、ならお前等が噂の……」
「えっ?あの、それってどういう……」
「モモちゃん、離れて!!」
「わっ!?」
男性の言葉にヒナはどういう意味なのかと尋ねようとした時、クロネはいち早く男性が何かを仕出かそうとしている事に気付き、咄嗟にモモを庇う。しかし、男性はクロネの腕を掴んで強制的に引き寄せる。
「動くな!!動けばこいつを殺すぞ!!」
「ひっ!?」
「ク、クロネさん!?」
「や、止めてよ!!どうしてそんな酷い事するの!?」
獣人族の男性はクロネを抱き寄せて首筋に短剣を構え、それを見たヒナとモモは咄嗟にクロネを救おうとした。しかし、相手が素人ならばともかく、戦い慣れしている冒険者だった事が災いし、男性は二人をあしらう。
「近寄るなと言っただろうが!!こいつがどうなってもいいのか!?」
「きゃああっ!?」
「な、何だ!?強盗か!?」
「ひいっ!?あ、あいつ何してんだ!?」
「おい、警備兵を呼べっ!!」
街道を歩いていた通行人たちも異変に気付き、悲鳴を上げて立ち去る。大騒ぎと化した街道にてヒナは歯を食いしばり、ここに聖女騎士団の人間を連れてこなかったのが仇になった。
(今日は店の確認だけだから護衛なんて必要ないと思ったのに……)
クロネを人質にされたヒナとモモは男に逆らう事は出来ず、他の人間に助けを求めようにも近くには警備兵もいない。男はクロネを人質に捉え、自分に逆らわない様に指示を出す。
「いいか、お前等は俺の言う通りに従え……言っておくが、逆らえばこいつの命はないからな!!」
「に、逃げて……二人とも」
「ま、待ちなさい!!分かった、分かったからその人に手を出さないで!!」
「こ、降参だよ~……」
ヒナとモモは両手を上げて男の指示に従う事を示すと、男は白猫亭の中に入るように促し、こうして三人は人質として捕まった――
――それからしばらくの時間が経過すると、屋敷の前にナイ達と警備兵が駆けつける。既に事情は把握しており、犯人は白猫亭に立て籠もっていた。
「うちの娘達はどうしたんだい!?無事なんだろうね!!」
「お、落ち着いて下さい!!私達も今ここに辿り着いたばかりで……状況が把握できていないんです!!」
「ふざけるんじゃないよ!!もしもあの子達の身に何か起きたら、あんたらも容赦しないからね!!」
「落ち着け、テン!!その人たちに怒っても仕方ないだろう!?」
テンは興奮した様子で警備兵に突っかかるが、他の者が引き剥がして落ち着かせる。その一方でナイは警備兵の中にリンダが含まれている事を知り、彼女に話しかける。
「リンダさん!!」
「ナイ様……大変な事になりましたね。現在、犯人は三人の人質と共に建物に閉じこもっています。全ての扉と窓は閉め切り、外部から侵入出来ない様に対処しています」
「そんな……」
現在の状況をリンダに報告されたナイは顔色を青ざめ、白猫亭を確認する。何処の窓も出入口扉も締め切られ、中の様子はうかがえない。
既に三人が捕まってから30分は経過しており、もしも強盗の正体が吸血鬼に操られている存在ならばあと30分で正気を取り戻すはずだった。しかし、ここで犯人の男が窓から顔を出す。
「おい、お前等!!今すぐに金と馬車を用意しろ!!金貨100枚、今すぐに用意しろ!!」
「あんた!!うちの娘と親友はどうした!?無事なんだろうね!!」
「ああ、まだ生きている……だが、逆らえばどうなるか分かっているな!?」
「ううっ……」
「ご、ごめんなさいテンさん……」
男はヒナとモモを連れ出すと、二人とも弱り切っており、それを見たテンは怒りのあまりに身体中の血管が浮き上がる。だが、ここで不用意に突っ込めば二人の命が危険に晒されてしまう。
「いいか、今から20分以内に金貨100枚と馬車を用意しろ!!俺はそれに乗って王都を出る、こいつらは外に出る時に解放してやる!!」
「20分以内って……」
「馬鹿言うんじゃないよ、そんな簡単にそれだけの金が用意できるかい!!」
「お前等があの第三王子と関りがある事は知っているんだ!!その程度の金ぐらい用意できるだろ!?さあ、離している間にも時間は過ぎているぞ!!」
「ちっ……!!」
どうやら犯人の男はナイ達がアルトとかかわりを持っている事を知っているらしく、その情報も吸血鬼に事前に知らされたかどうかは分からないが、金貨も馬車も用意しろなど無茶な要求だった。
10
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ステータス画面がバグったのでとりあえず叩きます!!
カタナヅキ
ファンタジー
ステータ画面は防御魔法?あらゆる攻撃を画面で防ぐ異色の魔術師の物語!!
祖父の遺言で魔女が暮らす森に訪れた少年「ナオ」は一冊の魔導書を渡される。その魔導書はかつて異界から訪れたという人間が書き記した代物であり、ナオは魔導書を読み解くと視界に「ステータス画面」なる物が現れた。だが、何故か画面に表示されている文字は無茶苦茶な羅列で解読ができず、折角覚えた魔法なのに使い道に悩んだナオはある方法を思いつく。
「よし、とりあえず叩いてみよう!!」
ステータス画面を掴んでナオは悪党や魔物を相手に叩き付け、時には攻撃を防ぐ防具として利用する。世界でただ一人の「ステータス画面」の誤った使い方で彼は成り上がる。
※ステータスウィンドウで殴る、防ぐ、空を飛ぶ異色のファンタジー!!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる