貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
606 / 1,110
王都の異変

第597話 強盗

しおりを挟む
地上へと降りたナイは白猫亭へと向かう途中、街道の人の流れが変化した事に気付く。何故か焦った表情の一般人が進行方向から駆けつけ、不思議に思ったナイは足を止めて様子を伺う。


「ひいいっ!?」
「に、逃げろ!!」
「強盗だ!!こっちに来るぞ!!」
「……強盗?」


駆け抜ける人々の声を聞いてナイは疑問を抱き、逃げ出す人々の反対方向を確認する。すると、そこには見覚えのあるメイド服姿をした女性が三人と、一般人と思われる少女を抱えた男性が立っていた。


「う、動くんじゃねえっ!!動いたらこのガキを殺すぞ!?」
「ひいいっ!?は、離してぇっ……お母さぁんっ!!」
「黙れ!!暴れるな、静かにしないと本当にぶっ殺すぞ!?」
「止めなさい!!」


メイド服の女性の中で一番身長が高い人物が男性を注意する。この時にナイはその女性の正体が以前にも会った事がある人物だと知り、黒狼騎士団副団長のドリスの親衛隊である「リンダ」という名前の女性で間違いなかった。

リンダはドリスの親衛隊の隊長を務めており、普段はメイドとしての業務を行っているが、その実力は高くて並の王国騎士でも相手にならない一流の格闘家でもある。しかし、現在は男に子供を人質に取られて迂闊に動けず、男の指示に従う。


「ち、近づくんじゃねえぞっ!!一歩でも近づいたらこのガキを本当に殺すからな!!」
「隊長……」
「言う通りにしなさい……お嬢さん、大丈夫ですからね」
「ううっ、ぐすっ……」


男に捕まっている少女を安心させるようにリンダは微笑み、男の言う通りに従う。ナイは放ってはおけず、どうにか強盗を捕まえるために自分ができる事を考える。


(隠密でこっそり近付く?それとも投擲で男の武器を弾くか……いや、投擲は駄目だ)


以前にナイは暗殺者に対して刺剣を放り込んだ時、予想以上の威力で暗殺者の身体に大怪我を負わせた事を思い出す。強くなり過ぎたせいで手加減するのも難しく、未だに大怪我を負わせた暗殺者の顔を思い出してしまう。

隠密を発動させて存在感を消し去り、無音歩行の技能で足音を消せば強盗に気付かれずに近づける。しかし、男は興奮していて今にも子供に手を出しかねない雰囲気だった。


「近づくんじゃねえっ!!お、お前等が悪いんだ……大人しく金を渡していれば良かったのに!!」
「止めなさい、その子は関係ないでしょう!!」
「うるせえっ!!俺に指図するなっ!!」
「うわああんっ!!」
「泣くな、うるせえだろ!!」


男は正気ではなく、精神的に追い込まれ過ぎて冷静さを失っていた。人質である子供を失えば自分も無事では済まないと考える余裕もなく、男は短剣を振りかざす。


「も、もういい!!全員、ぶっ殺してやる!!」
「止めっ……!?」


短剣を男は振りかざすと、まずは自分が人質にしている少女に対して突き刺そうとした。それを見たナイは我慢できず、今から走っても間に合わないと判断して刺剣に手を伸ばす。


(武器を狙えっ!!)


男の身体に当たれば大怪我を負わせるかもしれず、ナイは狙いを男の持っている短剣に定め、この際に「命中」の技能を発動させて放つ。

ナイの手元から離れた刺剣は男が少女を突き刺す前に短剣に的中し、金属音が鳴り響く。男は悲鳴を上げ、少女を手放してしまう。


「うぎゃぁあああっ!?」
「きゃあっ!?」
「危ないっ!!」


リンダは咄嗟に男が手放した少女を抱き上げ、即座に他のメイド二人が倒れた男を拘束する。短剣を弾かれた際に男は柄を握っていた指が折れたらしく、呻き声を漏らしながらも抑えつけられる。


「いでぇ、いでぇよぉっ……!!」
「大人しくしろ!!」
「リンダ様、確保しました!!」
「分かりました……もう大丈夫ですからね」
「ううっ……ぐすっ」


男が捕らえられたのを確認すると、リンダは抱きかかえた子供を安心させるように微笑み、その様子を見ていたナイは安堵する。リンダはすぐにナイがいる方向へ振り返り、彼の顔を確認すると驚く。


「貴方は……前にドリス様の誕生会でお会いしましたよね」
「あ、はい……ナイです」
「ええ、覚えております。貴方があの男の武器を弾いてくれたのですね、感謝します」
「いでぇっ……いでぇよおっ……!!」


メイドに抑えつけられた強盗は折れた指の痛みで泣き叫び、その様子を見てナイは表情を歪める。そんな彼を見てリンダは不思議に思うが、置いている刺剣を拾い上げてナイへと渡す。


「ご助力、感謝します。貴方のお陰でこの子は助かりました」
「あ、いや……気にしないでください」
「ひっくっ……あ、ありがとう、お姉ちゃん」
「貴女を助けたのはこのお兄ちゃんですよ」


助けられた子供はリンダに抱きつきながらお礼を言うが、彼女は優しく頭を撫でながらナイに礼を言うように促す。助かった子供を見てナイは少し安心し、自分が間違った事はしていないのだと思う。

それでも怪我をした男を見てナイは無視する事は出来ず、倒れている男に近付いてせめて怪我を治そうと回復魔法を施そうとしたが、他のメイド二人が止めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ステータス画面がバグったのでとりあえず叩きます!!

カタナヅキ
ファンタジー
ステータ画面は防御魔法?あらゆる攻撃を画面で防ぐ異色の魔術師の物語!! 祖父の遺言で魔女が暮らす森に訪れた少年「ナオ」は一冊の魔導書を渡される。その魔導書はかつて異界から訪れたという人間が書き記した代物であり、ナオは魔導書を読み解くと視界に「ステータス画面」なる物が現れた。だが、何故か画面に表示されている文字は無茶苦茶な羅列で解読ができず、折角覚えた魔法なのに使い道に悩んだナオはある方法を思いつく。 「よし、とりあえず叩いてみよう!!」 ステータス画面を掴んでナオは悪党や魔物を相手に叩き付け、時には攻撃を防ぐ防具として利用する。世界でただ一人の「ステータス画面」の誤った使い方で彼は成り上がる。 ※ステータスウィンドウで殴る、防ぐ、空を飛ぶ異色のファンタジー!!

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

処理中です...