貧弱の英雄

カタナヅキ

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王都の異変

過去編 王妃ジャンヌ

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――王国最強の騎士団と呼ばれ、民衆から最も人気が高かった「聖女騎士団」その団長を務めるのが王妃であり、彼女こそが最強の王国騎士だと言われていた。


「うふふっ……テンちゃん、もう疲れたのかしら?」
「はあっ、はあっ……な、何で姐さんに勝てないんだ……」


王城の訓練場にて木剣を構えた女性と少女が存在し、この少女こそが若かりし頃のテンであった。彼女はまだ14才の時であり、当時のテンは聖女騎士団の中でも一番若く、可愛い盛りだった。

当時のテンは可愛らしい容姿をしており、男性の兵士からも人気があった。しかし、実力の方はこの時から騎士団内でも五本指には入り、巷では「少女騎士」という異名が付けられていた。

まだ成人してもいないのに彼女は聖女騎士団の正式な団員として認められている事からそのような異名が付けられたが、本人はあまり気に入ってはいない。


「さあ、休憩はそこまでにしましょう。組手を再開しましょう」
「このっ……今日こそ一本は取ってやる!!」
「その台詞も、今日だけで五回目ね……」


テンが相手にするジャンヌは痩せているが身長はかなり高く、美しい顔立ちをしていた。もう既にテンとは何十回も組手を行っているが、汗だくのテンに対してジャンヌは涼し気な表情を浮かべ、汗一つ流していない。


「うらうらうらぁっ!!」
「もう、また力任せに剣を振って……そんなんじゃ私に勝てないわよ?」
「くっ……それなら、これでどうだ!?」


テンは大きな木剣を振り回すのに対し、ジャンヌは両手に木剣を構えて軽く彼女の攻撃を捌く。このままでは埒が明かないと判断したテンは距離を取ると、彼女は地面の砂を握りしめてジャンヌに放つ。


「うりゃあっ!!」
「きゃっ……」
「貰った!!」


土砂を利用して目潰しを決行したテンはジャンヌは目を閉じるのを確認すると、彼女に突進する。しかし、それに対してジャンヌは笑みを浮かべ、目を閉じた状態で身体を反らしてテンの突進を躱すと、彼女の後頭部に木剣を叩き込む。


「甘いっ!!」
「はぐぅっ!?」


容赦なく後頭部に木剣を叩き込まれたテンはそのまま倒れ込み、脳震盪を起こして視界が歪む。気絶だけはどうにか免れたが身体は思うように動かせず、そんな彼女にジャンヌは笑みを浮かべた。


「目潰しは悪くはなかったけど……生憎と私にそれは通用しないわ」
「な、何で……?」
「さあ、それは私にも分からないわ。でも、こうして目を閉じてもテンちゃんが何をしているのか分かるし、の」
「……意味、分かんねえ」


テンはジャンヌの話を聞いても理解が追いつかず、遂には気絶したのか動かなくなってしまう。少しやり過ぎたかとジャンヌは思うが、安易に目潰しなどという行為に走ったテンにお仕置きは必要だった。

騎士同士の決闘ならばテンの行為は恥ずべきことだが、実際の実戦の場合は卑怯などという言葉はなく、ジャンヌはテンの行動を間違っているとは言わない。しかし、安易に目潰しが成功したと思い込んで不用意に突っ込んだ事は悪手だ考え、お仕置きを行う。


「テンちゃん……強くなりなさい。貴方はいずれ私の代わりに聖女騎士団を率いるのよ」
「…………」
「もう、返事ぐらいしなさいっ」


最後の言葉は既に意識を失っているテンに聞こえてはいなかったが、彼女は優しくテンの頭を撫でた――





――それからしばらく経った後、聖女騎士団によって王都の裏社会でも一番勢力を誇った闇ギルドが壊滅に追い込まれ、ギルドの長は隠れ家にて震えていた。彼は聖女騎士団の力を侮り、追い詰められてしまう。


「くそぉっ……あの女め、まさかあれほどの化物とは……これからどうすればいいのだ」


配下は殆ど捕まってしまい、捕まった人間の中には幹部も含まれていた。闇ギルドの長が隠れているこの場所も安全とは言い切れず、いつ聖女騎士団が乗り込んでくるか分からない。

これから自分はどうなるのかと長は怯えていると、ある違和感を抱く。それは自分の警護を行っていた人間達の姿が消えていた。


「んっ!?おい、どうした!?誰かいないのか?」
『……あいつらなら逃げだしたぞ。あんたを置いてな』
「なっ!?き、貴様は……!?」


長は声を聞いた途端に驚愕の表情を浮かべ、暗闇の中から「シャドウ」が現れる。この時代から長はシャドウと面識があり、唐突に彼の前に現れては情報を伝える。


『俺の忠告を無視したな、あの女には迂闊に手を出すなと言ったはずだぞ』
「き、貴様のような得体の知れない奴の言う事など……」
『信じなかった結果がこの様だ。もう間もなく、王都のは闇ギルドは駆逐されるだろう?』
「ぐうっ……!?」


シャドウの言葉に長は言い返せず、実は数日程前にシャドウは長の前に現れた。彼は長がエリザを利用してジャンヌを呼び出し、捕縛を計画した事を知っていた。

数日前の時点ではジャンヌの捕縛の情報を知っているのはエリザと闇ギルドの幹部だけのはずだが、何故かシャドウはその情報を把握して警告を行う。長は彼の言う事を無視して計画を実行したが、その結果がこの様であった。


『俺の言う事を少しは聞く耳を持ったか?』
「……ど、どうすればいいのだ。このままでは王都から逃げるしか……」
『あんた、王都の外に出て生き延びられると思っているのか?』


シャドウの言葉に長は言い返せず、味方も誰もいない状況で一人だけで生き残る自信などなかった。既に長は顔を見られており、国中に指名手配されて捕まるのが目に見えていた。


『あんたが生き残る方法はただ一つ……あの厄介な聖女騎士団を始末するしかない』
「なっ!?そんな事が出来るはずがないだろう!!」
『不可能ではない、あの騎士団の要は王妃だ。王妃さえ消せば騎士団は解体するだろう』
「馬鹿なっ!!お前はあの王妃の事を何も知らないからそんな事を……!!」
『よく知っているさ、あの女の事はな……だからこそ殺す事ができる』
「な、何!?」


ジャンヌに勝てると断言するシャドウに対して長は冷や汗を流し、この男とは最近知り合ったばかりだが、決して冗談の類を口にするような男ではない。


「本当に殺せるのか、あの女を……」
『……金貨500枚だ。それだけ払えば俺と相棒がしっかりと始末してやる。それぐらいの金はあるだろう?』
「うっ……!!」


闇ギルドの長はシャドウの提示した金額に心当たりがあり、彼はギルドに万が一の場合に備えて逃走資金として隠し財産を持っていた。その金額が丁度金貨500枚であり、シャドウはそれを見越して要求する。


「わ、分かった……本当にお前があの女を殺す事ができたなら支払ってやろう……」
『契約成立だな。なら、数日は他の奴等に見つからない様に隠れていろ。それぐらいは出来るだろう?』
「わ、分かった……」


こうして闇ギルドの長とシャドウの関係は始まり、まさかこれから10年以上も長はシャドウに頭が上がらない関係性になるとは思いもしなかった――
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