貧弱の英雄

カタナヅキ

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王都の異変

第592話 サンドワームの異変

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「ギュルルルッ……!!」
「お前はあの時の……どうしたんだ、落ち着け!!」
「ウォオンッ!!」
「ぷるるんっ(←威嚇するように身体を震わせる)」


突如として地中から出現したサンドワームは身体をくねらせ、明らかに普通の状態ではなかった。それを見たナイは落ち着かせようとするが、ビャクとスライムは警戒態勢を取る。

サンドワームは何かに苦しむように身体を動かし、やがて口元から胃液を吐き出す。サンドワームの胃液は強酸性であり、近くにあった岩は胃液に触れた途端に溶けてしまう。


「うわっ、まずい!?ビャク、離れろ!!」
「ウォンッ!!」
「ぷるんっ!?」


ビャクはナイの言葉に従い、即座にスライムを咥えて移動を行う。スライムはビャクの口内に収まり、安全な距離まで移動すると口から出してもらう。


「よし、この距離なら大丈夫かな……それにしてもどうしたんだろう、あいつ」
「クゥ~ンッ……」
「ぷるぷるっ……」


サンドワームは苦しみもがくように暴れており、最初に地上から飛び出した時もナイ達に攻撃を仕掛けたわけではなく、胃液をあちこちに吐き出す。

周囲に胃液を吐き散らすサンドワームを見てナイは心配するが、やがてサンドワームの身体の一部が膨れ上がり、内部から刃物のような物が飛び出す。切り裂かれた箇所から血が噴き出し、内部から赤色の皮膚に染まったゴブリンが出現した。


「グギャアアアッ!!」
「ギュロロロッ……!?」
「なっ!?」
「ウォンッ!?」
「ぷるぷるっ……!!」


ゴブリンがサンドワームの腹部から抜け出すと、サンドワームは事切れたのか地面に倒れ込み、動かなくなってしまう。その一方でサンドワームの腹部から抜け出したゴブリンは全身にこびり付いた血液と吐しゃ物を振り払い、刃物の如く伸ばした爪を元に戻す。


「グギギッ……!!」
「こいつは……!?」


ナイはゴブリンを見た瞬間にビャクの背中から飛び降りると、旋斧と岩砕剣を構えた。彼の視界に現れたゴブリンは先日にゴブリンの要塞から運び込まれたゴブリンと同じく、全身に体毛を纏っていた。

しかし、以前に会った時よりも体格が大きくなっており、現在はホブゴブリンと同等の大きさを誇る。更に爪を自由に伸ばしてしかも刃物のように鋭利に研ぎ澄ます事も出来るらしく、その力を利用してサンドワームの肉体を切り裂いたのだ。


(こいつ、サンドワームの身体の中に入って内側から傷つけたのか!?)


サンドワームの体内にゴブリンは入り込み、岩をも溶かす胃液を物ともせずに内側からサンドワーム肉体を切り開いて出てきたゴブリンにナイは戦慄した。ビャクもスライムも警戒した様子で伺い、その一方でゴブリンの方はナイ達に視線を向けると、目つきを鋭くさせる。


(まずい、こいつを放っておくのは危険だ!!倒さないと!!)


サンドワームを倒したゴブリンに対してナイは旋斧を構え、確実に仕留めるために魔法剣を発動させようとした。だが、それを確認したゴブリンは警戒したように四つん這いになり、まるで魔獣の如く駆け出す。


「ギアアッ!!」
「なっ!?」
「ぷるんっ!?」


ゴブリンは四つん這いになった途端に凄まじい速度で移動を行い、その動きの速さは狼型の魔獣を想像させ、一瞬にして距離を詰める。ナイは咄嗟に旋斧を構えようとするが、その前にビャクが前脚を動かしてゴブリンに叩きつけようとした。


「ガアアッ!!」
「ギャウッ!?」
「やったか!?」


ビャクの攻撃によってゴブリンは吹き飛ばされ、それを見たナイは倒したかと思ったが、ゴブリンは空中で身体を回転させて着地を行う。

どうやらビャクの攻撃は当たってはおらず、ゴブリンは攻撃を受けたふりをして回避すると、両手の爪を伸ばす。その爪を見た瞬間、ナイはビャクとスライムに警告した。


「離れろっ!!」
「ギアアッ!!」
「ぷるんっ!?」
「ギャインッ!?」


ゴブリンは跳躍を行うのと同時に身体を回転させ、刃物の如く鋭い切れ味に爪を振り回しながら突っ込む。咄嗟にナイとスライムは回避に成功したが、ビャクは避け切れずに攻撃を受けてしまう。

爪で切りつけられたビャクが地面に倒れたのを確認すると、ナイは彼の身を心配しながらも今はゴブリンを倒す事に集中する。怒りを込めてナイは両手の剣を振りかざし、ゴブリンへと放つ。


「このぉっ!!」
「ギアッ!!」
「ぷるるんっ!?」


しかし、怒り任せに剣を振るったナイの攻撃をゴブリンは跳躍して回避すると、この時にゴブリンは足の爪をナイの顔面に放つ。咄嗟にナイは避けようとしたが、完全には避け切れずに額を切られてしまい、血が両目に流れ込む。
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