593 / 1,110
王都の異変
第589話 とある噂
しおりを挟む
「お主の話によると旋斧と岩砕剣はあのフクツが作り出したという話だったな……流石は伝説の鍛冶師……いったいどうやってこんな代物を作り出したのじゃ」
「ハマーンさんはそのフクツという人の事を知っているですか?」
「当たり前じゃ!!この王国で鍛冶師を志す者ならば必ずフクツの存在を知らん者はおらん!!」
「そんなに凄い人なんですね……でも、どうしてそんなに凄い人が作った武器なのに旋斧と岩砕剣は全然有名じゃないんでしょうか」
「ふむ、その点は儂も気になっておった」
アルの弟であるエルによれば旋斧と岩砕剣は伝説の鍛冶師とまで称されたフクツが作り上げた魔剣だが、この二つの魔剣の存在は世間には全くと言っていいほどに知られていない。そもそもフクツは魔剣を作り出したという話自体もハマーンは初耳だった。
だが、岩砕剣はともかく、旋斧に関しては普通の魔剣とは明らかに異なる能力を持ち合わせており、敵を倒す度に生命力を奪い、成長して形状を変化させる魔剣など聞いた事もなく、ハマーンでさえも製作できない。
「これほどの魔剣ならばもっと有名になっていてもおかしくはないが……そういえば気になるのは旋斧を渡したという剣士は何者じゃ?」
「それが良く分からないんですよね、爺ちゃんの先祖だとは思うんですけど、それが誰かなのかはエルさんも知らないらしくて……」
「そうか……それは残念じゃ」
ハマーンはナイに旋斧を返却すると、ついでに彼の他の装備品の点検も行い、この時に彼は魔法腕輪の魔石を確認してある事に気付く。
「ん?水属性の魔石だけ嵌めていないではないか。それに他の魔石も大分魔力が減って色合いが薄れているな……おや、聖属性の煌魔石の方は魔力が有り余っておるな」
「あ、定期的にモモが魔力を注入してくれるので……」
「なるほど、あの娘か……」
モモが渡した煌魔石は魔力を切れかける度に彼女が魔力を送ってくれるため、今の所は魔力が切れる様子はない。しかし、他の魔石に関しては飛行船でイチノへ向かった時から交換もしておらず、殆ど魔力が尽きかけていた。
「ふむ、魔石の交換が必要のようじゃな……金さえ払うならここで交換してもいいが、どうする?」
「いいんですか?」
「うむ、お主もあれだけ活躍したのだから報酬はたんまりと貰っておるんだろう?」
「え?いや、特にそういうのは……」
「なぬ!?」
ハマーンはイチノでナイが活躍したのを見ていたため、彼には相応の報酬が王国側から支払われていると思っていた。しかし、実際の所はナイは表彰式の際に勲章を授かったぐらいで他に報酬は受け取っていない。
理由としてはナイが本来与えられる「特別報酬」の権利をシノビに譲ったのが原因であり、しかも現在の王国は飛行船を動かすのに大量の魔石を消費した事で財政難に陥っている。だからこそナイは金銭の類の報酬は受け取っておらず、手持ちの金はいくらかあるが魔法腕輪の魔石を交換する程の金はなかった。
「待て待て、それでも少しぐらいは金を持っておるんじゃろう?第一にお主はアルト王子のお気に入りではないか!!」
「いや、アルトから借りるのは申し訳ないし、アルトも最近は余裕がないそうで……」
この国の第三王子であるアルトの元に世話になっているナイではあるが、別にナイはアルトの配下でもなく、白狼騎士団に所属しているわけではないので給金も受け取っていない。今までは成り行きで王国のために貢献していたが、別にナイは王国のために頑張ったつもりはない。
飛行船でイチノに向かった際もナイは王命を受けた形になるが、別に国王の命令がなくともドルトン達が暮らすイチノを放置できず、どちらにしろナイはイチノに向かっていた。先日のルナにしろ、イゾウに狙われた件にしろ、そちらの方は世話になっているテンが困っていたので力を貸しただけに過ぎなかった。
「お主、あれだけ苦労しておるのに魔石を買う金すらもないのか……」
「いや、でも魔石も結構高いんですよね」
「まあ、最近は確かに魔石の消費量が増えて値段も高騰化しているがな」
飛行船を動かす際に大量の風属性と火属性の魔石を消費し、現在の王都ではこの二つの魔石の価値が高まっている。この二種類以外の魔石も価格が上昇しているらしく、この時期に聖属性以外の魔石を取り換える場合はそれなりの値段が掛かる。
「う~む、これだけの数の魔石を交換するとなると金貨が10枚ぐらい必要だが、それだけの金はあるのか?」
「いや、流石にそんなには……」
「仕方あるまい、それならばまた儂の仕事を代行してくれるか?」
「仕事?」
「うむ、実は戻って早々に面倒な依頼を受けてな……これなんじゃが」
ハマーンは一枚の羊皮紙を取り出し、それをナイに手渡す。その内容は王都周辺の草原に現れた得体の知れないゴブリンの討伐と記されていた――
「ハマーンさんはそのフクツという人の事を知っているですか?」
「当たり前じゃ!!この王国で鍛冶師を志す者ならば必ずフクツの存在を知らん者はおらん!!」
「そんなに凄い人なんですね……でも、どうしてそんなに凄い人が作った武器なのに旋斧と岩砕剣は全然有名じゃないんでしょうか」
「ふむ、その点は儂も気になっておった」
アルの弟であるエルによれば旋斧と岩砕剣は伝説の鍛冶師とまで称されたフクツが作り上げた魔剣だが、この二つの魔剣の存在は世間には全くと言っていいほどに知られていない。そもそもフクツは魔剣を作り出したという話自体もハマーンは初耳だった。
だが、岩砕剣はともかく、旋斧に関しては普通の魔剣とは明らかに異なる能力を持ち合わせており、敵を倒す度に生命力を奪い、成長して形状を変化させる魔剣など聞いた事もなく、ハマーンでさえも製作できない。
「これほどの魔剣ならばもっと有名になっていてもおかしくはないが……そういえば気になるのは旋斧を渡したという剣士は何者じゃ?」
「それが良く分からないんですよね、爺ちゃんの先祖だとは思うんですけど、それが誰かなのかはエルさんも知らないらしくて……」
「そうか……それは残念じゃ」
ハマーンはナイに旋斧を返却すると、ついでに彼の他の装備品の点検も行い、この時に彼は魔法腕輪の魔石を確認してある事に気付く。
「ん?水属性の魔石だけ嵌めていないではないか。それに他の魔石も大分魔力が減って色合いが薄れているな……おや、聖属性の煌魔石の方は魔力が有り余っておるな」
「あ、定期的にモモが魔力を注入してくれるので……」
「なるほど、あの娘か……」
モモが渡した煌魔石は魔力を切れかける度に彼女が魔力を送ってくれるため、今の所は魔力が切れる様子はない。しかし、他の魔石に関しては飛行船でイチノへ向かった時から交換もしておらず、殆ど魔力が尽きかけていた。
「ふむ、魔石の交換が必要のようじゃな……金さえ払うならここで交換してもいいが、どうする?」
「いいんですか?」
「うむ、お主もあれだけ活躍したのだから報酬はたんまりと貰っておるんだろう?」
「え?いや、特にそういうのは……」
「なぬ!?」
ハマーンはイチノでナイが活躍したのを見ていたため、彼には相応の報酬が王国側から支払われていると思っていた。しかし、実際の所はナイは表彰式の際に勲章を授かったぐらいで他に報酬は受け取っていない。
理由としてはナイが本来与えられる「特別報酬」の権利をシノビに譲ったのが原因であり、しかも現在の王国は飛行船を動かすのに大量の魔石を消費した事で財政難に陥っている。だからこそナイは金銭の類の報酬は受け取っておらず、手持ちの金はいくらかあるが魔法腕輪の魔石を交換する程の金はなかった。
「待て待て、それでも少しぐらいは金を持っておるんじゃろう?第一にお主はアルト王子のお気に入りではないか!!」
「いや、アルトから借りるのは申し訳ないし、アルトも最近は余裕がないそうで……」
この国の第三王子であるアルトの元に世話になっているナイではあるが、別にナイはアルトの配下でもなく、白狼騎士団に所属しているわけではないので給金も受け取っていない。今までは成り行きで王国のために貢献していたが、別にナイは王国のために頑張ったつもりはない。
飛行船でイチノに向かった際もナイは王命を受けた形になるが、別に国王の命令がなくともドルトン達が暮らすイチノを放置できず、どちらにしろナイはイチノに向かっていた。先日のルナにしろ、イゾウに狙われた件にしろ、そちらの方は世話になっているテンが困っていたので力を貸しただけに過ぎなかった。
「お主、あれだけ苦労しておるのに魔石を買う金すらもないのか……」
「いや、でも魔石も結構高いんですよね」
「まあ、最近は確かに魔石の消費量が増えて値段も高騰化しているがな」
飛行船を動かす際に大量の風属性と火属性の魔石を消費し、現在の王都ではこの二つの魔石の価値が高まっている。この二種類以外の魔石も価格が上昇しているらしく、この時期に聖属性以外の魔石を取り換える場合はそれなりの値段が掛かる。
「う~む、これだけの数の魔石を交換するとなると金貨が10枚ぐらい必要だが、それだけの金はあるのか?」
「いや、流石にそんなには……」
「仕方あるまい、それならばまた儂の仕事を代行してくれるか?」
「仕事?」
「うむ、実は戻って早々に面倒な依頼を受けてな……これなんじゃが」
ハマーンは一枚の羊皮紙を取り出し、それをナイに手渡す。その内容は王都周辺の草原に現れた得体の知れないゴブリンの討伐と記されていた――
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?
mio
ファンタジー
特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。
神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。
そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。
日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。
神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?
他サイトでも投稿しております。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる