貧弱の英雄

カタナヅキ

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王都の異変

第588話 シノビ一族の妖刀「風魔」

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『――死んだか、イゾウ』


とある建物の地下にてイゾウのであるシャドウは彼の死を感じ取った。イゾウの体内に埋め込んだ死霊石が感じられず、彼はイゾウの死を悟る。

シャドウの正体は死霊使いであり、彼はイゾウを死霊人形へと変貌させた。里を抜け出してシノビ一族の追手から怯える日々を送っていた彼の元にシャドウは現れ、自分に従う事を条件に彼はイゾウに死霊石を埋め込む。


『また一つ、優秀な駒を失ったな……』


イゾウが死んだ事に対してシャドウは特に動揺もなく、彼の死を悲しむ事も喜ぶこともない。シャドウはイゾウの事を相棒と称し、実際によく働いてくれた。


『また新しい駒を探さないとな……そういえば、あいつの荷物も一応は貰っておくか』


この場所はイゾウがよく塒にしている事を思い出し、彼の私物が置かれている。イゾウがなくなった今、彼に遠慮する必要はなくなったシャドウは彼の荷物を漁ると、ある物を見つけ出す。


『ん?これは……巻物、とかいう奴か?』


イゾウの荷物の中には巻物が入っており、シャドウは中身を開いて確認するが、それは何処かの国のが記されていた。その内容は和国の文字で記されているのでシャドウでも読み取れない。

地図と和国の文字が記された巻物を見てシャドウは疑問を抱き、ここで彼はある事を思い出す。先日、和国のシノビが国王に直談判した際、数十本の妖刀が和国の領地に未だに封じられているという話を聞いた。


『こいつはまさか……か?あいつめ、面白い物を隠し持っていたな』


シャドウは笑みを浮かべ、彼はイゾウが里を抜け出す際にシノビ一族の秘伝の書の写しを描いて盗んでいたのかと考える。イゾウは抜け目のない男であり、彼は巻物を握りしめる。


『最高の置き土産だ……あんたもそう思うだろう?』
「――――」


暗闇の中にはシャドウの他にもう一人座り込んでおり、彼に対してシャドウは笑みを浮かべ、巻物を放り込む。


『そいつはあんたにくれてやる。俺はもう行くぞ、闇ギルドの連中もそろそろ痺れを切らす所だろうからな』


シャドウは暗黒空間の中に姿を消し、残された人物は巻物に視線を向け、亡きイゾウのために一言だけ呟く。


「大儀であった」


巻物を手にしたは立ち上がり、部屋を抜け出す――






――王都内でも最強の暗殺者と謳われた「イゾウ」は死亡し、彼がシノビ一族から盗み出した妖刀「風魔」は現在の長であるシノビの元に戻った。風魔は風属性の魔力を吸収し、所有者の自由に吸収した魔力を放出する力を持つ妖刀である。

この妖刀はリンの「暴風」と異なる点は魔法剣を発動させる場合、刃に魔力を纏わせるのではなく、最初に魔力を刃に吸収させなければならない。リンの場合は直接に刃に魔力を送り込み、魔法剣を瞬時に発動できる。しかし、風魔の場合は刃に魔力を吸収した後、刃から魔力を放出させて魔力を纏うという手順を踏まなければならない。

暴風の場合は瞬時に魔法剣を発動できるのに対して風魔は手順が一つ多いため、魔法剣の発動に時間が掛かる。だが、風魔の利点は事前に魔力を封じ込めて置けば使用者が魔力切れを起こしていたとしても魔法剣を発動できる。

また、風魔の最大の利点は相手の風属性の攻撃さえも吸収して自分の力に変える事ができる点だった。つまり、リンの暴風から繰り出された魔法剣の攻撃だろうと風属性得意とする魔術師の魔法攻撃であろうと、風魔は攻撃を吸収して無効化できる。そういう意味では暴風よりも優れているように思われるが、その反面に弱点もあった。


「うっ……くぅうっ……」
「兄者、大丈夫でござるか!?」
「ああっ……だが、こいつを使いこなすには時間が掛かりそうだ」


風魔を手にしたシノビは黒狼騎士団の専用訓練場にて風魔を握りしめた状態で汗を流し、この数日はシノビは風魔を使いこなすための訓練を行っていた。風魔は触れているだけで勝手に魔力を吸い上げ、油断するとシノビは魔力切れを起こして意識を失いそうになる。

触れているだけで風魔は所有者の魔力を吸収するという弱点が存在し、この風魔を使いこなすには戦闘時以外でも魔力を奪われない様に注意しないといけない。また、戦闘の時も余分な魔力を奪われない様に常に気を配り、必要な魔力だけを分け与えなければならない。

風魔を扱うには魔力を操作する技術である「魔操術」を習得しておかなければならず、使いこなすには相当な訓練と時間が必要だと考えられた。


「全く、その様子だとその妖刀とやらを使いこなすにはまだ先のようだな」
「あ、リン副団長……」
「……問題ない、すぐに使いこなして見せる」
「強がるな、顔を見ただけで無理をしているのが分かるようではまだまだだな」
「くっ……!!」


訓練場にはリンも存在し、彼女はシノビが風魔を使いこなすのに手こずっている事を知り、彼に発破をかけてやる。


「リノ王女も心配していたぞ、私にお前の様子を見に行くように頼むぐらいだからな。その調子ではリノ王女に報告して休暇を取らせるか……」
「なっ……心配無用だと言っているだろう!!」
「あ、兄者?」


リノの名前を出すとシノビは起き上がり、風魔を握りしめて訓練を再開する。その様子を見てリンは笑みを浮かべる。

シノビはリノにだけは心配かけたくないと思い、風魔を使いこなすために集中する。しかし、この様子ではしばらくの間は使いこなせるまでに時間が掛かると思われた。その一方でリンはクノに視線を向け、彼女に質問した。


「そういえばクノ、お前は最近は兄の訓練に付き合っているようだが、冒険者稼業はどうした?本格的に黄金冒険者を目指すのだろう?」
「あ、そうでござった!!今日中に終わらせなければいけない依頼もあったでござる!!」
「クノ、俺の事は気にするな……この程度の魔剣、俺一人で使いこなせる……お前は自分の役割を果たせ」
「承知したでござる。では、御免!!」
「うわっ!?ふ、普通に帰れっ!!」


忍者らしく煙玉を利用してクノは煙を放つのと同時に立ち去ると、リンの文句が訓練場に響き渡る――





――同時刻、ナイはハマーンの鍛冶屋に訪れていた。先日の死霊人形と化したイゾウとの戦闘後、旋斧に変化が起きていた。火竜の魔力を吸い上げてから旋斧は刃の色が赤く変色したが、現在は色合いが薄まってきたのでハマーンに調べてもらう。


「ふむ……どうやら旋斧の内部に蓄積されていた火竜の魔力が失いかけておるな」
「えっ!?そうなんですか!?」
「最も別にそれは悪い事とは言い切れん。そもそも今の状態が異常事態みたいなもんだからのう。だいたい敵を倒して生命力を奪い、成長する魔剣など聞いた事もないからな」


旋斧は元々は魔力を吸い上げる機能を持った旋斧だが、火竜との戦闘を経て膨大な火属性の魔力を吸収した。その影響で刀身が赤色に変化したのだが、その魔力が失われかけており、元の状態に戻りかけているだけだとハマーンは推察する。

最も王都一番の鍛冶師を自称するハマーンでさえも旋斧は色々と謎が多い魔剣らしく、このような魔剣を今までに見た事も聞いた事もない。仮に同じ魔剣を作り出せと言われたとしても、今のハマーンの技術では製作はできない。
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