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王都の異変
第587話 退魔刀の能力
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『――退魔刀?』
『ええ、そうよ。貴女にぴったりの武器だと思うの』
聖女騎士団にてまだテンが副団長に昇格する前、ジャンヌは彼女に「退魔刀」を渡す。それを受け取ったテンは不思議に思い、どうして自分にこの武器を渡すのかと戸惑う。
『これ、魔剣ですよね?』
『ええ、前に偶然手に入れた物よ。きっと、貴女なら使いこなせるわ』
『いや、でも……魔剣って、貴重な物なんでしょ?それをあたしなんかに渡すなんて……』
『大丈夫、貴女なら平気よ』
当時のテンはただの一団員に過ぎず、騎士団の中で魔剣を所持しているのはジャンヌ以外に数名しか存在しなかった。年齢も若く、腕も未熟なテンに魔剣を与えるなど普通ならばあり得ない。
『なんで王妃様はあたしにこの剣を……他にも強い人はいっぱいいるじゃないですか』
『そうね、貴女より強い人はいっぱいいるわね。でもね、誰でも魔剣を扱えるわけじゃないの。その魔剣は私でさえも扱えない……けど、貴女なら使いこなせるようになるわ』
『だからどうしてそんな事が言い切れるんですか!?』
テンはいきなり退魔刀を渡されて困り果てるが、ジャンヌは少し考えた末に笑顔を浮かべながら答えた。
『勘、かしら?何となくだけど、貴女なら使いこなせそうな気がしただけなの』
この時のジャンヌの言葉と表情はテンは一生忘れられず、自分は本当にとんでもない人に仕えたのだなと思った――
(――たくっ、毎回こいつの能力《ちから》を使う度にあの時の事を思い出すね)
針を抜き取り、回復魔法によって怪我を治して貰ったテンは退魔刀を握りしめる。まだ完全には痺れは抜けてはいないが、それでも最初の頃よりは大分身体を動かせるようになった。
「助かったよ、あんたらの薬のお陰で楽になれたよ」
「気にしないでいいでござる」
「シノビ一族に伝わる秘伝の解毒薬だ。こいつが使用した痺れ薬も元々はシノビ一族が作り出した物だからな」
テン達はシノビが持参していた特製の解毒薬で身体が動けるようになり、テンは改めて倒れているイゾウを見下ろす。彼は未だにナイを睨みつけ、恨みの籠った瞳を向ける。
その一方でナイは自分を睨みつけるイゾウを見て表情を暗くさせ、ここまで明確に人間に殺意を抱かれる事は初めてだった。今までにナイは盗賊などを倒した事はあったが、今のイゾウ程の敵意や殺気を向けられた事はない。
(余程、ナイに見逃されそうになったのが悔しかったんだろうね……けど、同情はしないよ)
完全に痺れが抜けきるのを待ってからテンは退魔刀を手にすると、改めてイゾウと向き合う。彼はナイから視線を逸らしてテンに顔を向けると、その退魔刀を見て目を見開く。
『ソレ、ハッ……!?』
「さっきはよくもやってくれたね……今から楽にしてやるよ!!」
退魔刀を振りかざすと、テンは勢いよくイゾウの背中に目掛けて突き刺す。その直後、地面に亀裂が走り、イゾウを纏っていた闇属性の魔力が瞬時に消えていく。
――退魔刀は魔剣の中でも特異な武器であり、この武器は魔法剣の類が一切使用できない。理由としては退魔刀の素材が魔法を跳ね返す特殊な金属で構成されており、全ての属性の魔力を弾いてしまう。
反魔の盾は魔法を跳ね返すが、退魔刀の場合は魔法というよりも魔力を断ち切る事ができるため、この剣にはあらゆる魔法攻撃が通じない。使い方によっては魔法その物を切り裂く事も出来る。
闇属性の魔力に覆われていたイゾウは退魔刀によって体内の魔力が乱され、心臓部付近に埋め込まれていた魔石に退魔刀が届き、破壊される。その結果、闇属性の魔力が消散し、イゾウは徐々に意識を失う。
『ガハァッ……!?』
「もう、楽になりな……」
テンは退魔刀を引き抜くと、そこには無残な状態のイゾウの死骸だけが残り、彼の魂は完全に解放された。そして退魔刀の刃先には黒色の魔石が嵌まっていたが、やがて魔石は色を失い、消え去ってしまう。
この際にテンは退魔刀に刺さっていた魔石に「髑髏」のような魔術痕が刻まれている事に気付き、イゾウをこんな姿に変えた人間の正体を見抜く。
「こいつは煌魔石……いや、死霊石だね」
「死霊石?」
「死霊使いが利用する魔石さ。こいつを体内に埋め込まれた人間は死んだ後、死霊石に魂を囚われる。そして死霊人形と化すのさ」
「死霊人形……」
「こいつは死んだ人間の魂を繋ぎとめる最悪の魔道具さ。そしてこんな物を作り出せるのは……死霊魔術師《ネクロマンサー》だけさ」
テンの言葉に全員が冷や汗を流し、この場に存在する人間全員が死霊魔術師の名前は知っていた。辺境の地の山村生まれで世間の常識には疎いナイでさえも知っており、昔話の絵本でも悪役として必ず登場する恐ろしい闇属性の魔術師の通称である。
死霊魔術師は死霊を使役し、時には死体に魂を吹き込んで蘇らせる事が出来る能力を持ち、それは人間だけには及ばず、魔物も蘇らせて操る力を持つという。そしてイゾウを蘇らせた存在は間違いなく、彼の相棒の「シャドウ」だと確定していた――
『ええ、そうよ。貴女にぴったりの武器だと思うの』
聖女騎士団にてまだテンが副団長に昇格する前、ジャンヌは彼女に「退魔刀」を渡す。それを受け取ったテンは不思議に思い、どうして自分にこの武器を渡すのかと戸惑う。
『これ、魔剣ですよね?』
『ええ、前に偶然手に入れた物よ。きっと、貴女なら使いこなせるわ』
『いや、でも……魔剣って、貴重な物なんでしょ?それをあたしなんかに渡すなんて……』
『大丈夫、貴女なら平気よ』
当時のテンはただの一団員に過ぎず、騎士団の中で魔剣を所持しているのはジャンヌ以外に数名しか存在しなかった。年齢も若く、腕も未熟なテンに魔剣を与えるなど普通ならばあり得ない。
『なんで王妃様はあたしにこの剣を……他にも強い人はいっぱいいるじゃないですか』
『そうね、貴女より強い人はいっぱいいるわね。でもね、誰でも魔剣を扱えるわけじゃないの。その魔剣は私でさえも扱えない……けど、貴女なら使いこなせるようになるわ』
『だからどうしてそんな事が言い切れるんですか!?』
テンはいきなり退魔刀を渡されて困り果てるが、ジャンヌは少し考えた末に笑顔を浮かべながら答えた。
『勘、かしら?何となくだけど、貴女なら使いこなせそうな気がしただけなの』
この時のジャンヌの言葉と表情はテンは一生忘れられず、自分は本当にとんでもない人に仕えたのだなと思った――
(――たくっ、毎回こいつの能力《ちから》を使う度にあの時の事を思い出すね)
針を抜き取り、回復魔法によって怪我を治して貰ったテンは退魔刀を握りしめる。まだ完全には痺れは抜けてはいないが、それでも最初の頃よりは大分身体を動かせるようになった。
「助かったよ、あんたらの薬のお陰で楽になれたよ」
「気にしないでいいでござる」
「シノビ一族に伝わる秘伝の解毒薬だ。こいつが使用した痺れ薬も元々はシノビ一族が作り出した物だからな」
テン達はシノビが持参していた特製の解毒薬で身体が動けるようになり、テンは改めて倒れているイゾウを見下ろす。彼は未だにナイを睨みつけ、恨みの籠った瞳を向ける。
その一方でナイは自分を睨みつけるイゾウを見て表情を暗くさせ、ここまで明確に人間に殺意を抱かれる事は初めてだった。今までにナイは盗賊などを倒した事はあったが、今のイゾウ程の敵意や殺気を向けられた事はない。
(余程、ナイに見逃されそうになったのが悔しかったんだろうね……けど、同情はしないよ)
完全に痺れが抜けきるのを待ってからテンは退魔刀を手にすると、改めてイゾウと向き合う。彼はナイから視線を逸らしてテンに顔を向けると、その退魔刀を見て目を見開く。
『ソレ、ハッ……!?』
「さっきはよくもやってくれたね……今から楽にしてやるよ!!」
退魔刀を振りかざすと、テンは勢いよくイゾウの背中に目掛けて突き刺す。その直後、地面に亀裂が走り、イゾウを纏っていた闇属性の魔力が瞬時に消えていく。
――退魔刀は魔剣の中でも特異な武器であり、この武器は魔法剣の類が一切使用できない。理由としては退魔刀の素材が魔法を跳ね返す特殊な金属で構成されており、全ての属性の魔力を弾いてしまう。
反魔の盾は魔法を跳ね返すが、退魔刀の場合は魔法というよりも魔力を断ち切る事ができるため、この剣にはあらゆる魔法攻撃が通じない。使い方によっては魔法その物を切り裂く事も出来る。
闇属性の魔力に覆われていたイゾウは退魔刀によって体内の魔力が乱され、心臓部付近に埋め込まれていた魔石に退魔刀が届き、破壊される。その結果、闇属性の魔力が消散し、イゾウは徐々に意識を失う。
『ガハァッ……!?』
「もう、楽になりな……」
テンは退魔刀を引き抜くと、そこには無残な状態のイゾウの死骸だけが残り、彼の魂は完全に解放された。そして退魔刀の刃先には黒色の魔石が嵌まっていたが、やがて魔石は色を失い、消え去ってしまう。
この際にテンは退魔刀に刺さっていた魔石に「髑髏」のような魔術痕が刻まれている事に気付き、イゾウをこんな姿に変えた人間の正体を見抜く。
「こいつは煌魔石……いや、死霊石だね」
「死霊石?」
「死霊使いが利用する魔石さ。こいつを体内に埋め込まれた人間は死んだ後、死霊石に魂を囚われる。そして死霊人形と化すのさ」
「死霊人形……」
「こいつは死んだ人間の魂を繋ぎとめる最悪の魔道具さ。そしてこんな物を作り出せるのは……死霊魔術師《ネクロマンサー》だけさ」
テンの言葉に全員が冷や汗を流し、この場に存在する人間全員が死霊魔術師の名前は知っていた。辺境の地の山村生まれで世間の常識には疎いナイでさえも知っており、昔話の絵本でも悪役として必ず登場する恐ろしい闇属性の魔術師の通称である。
死霊魔術師は死霊を使役し、時には死体に魂を吹き込んで蘇らせる事が出来る能力を持ち、それは人間だけには及ばず、魔物も蘇らせて操る力を持つという。そしてイゾウを蘇らせた存在は間違いなく、彼の相棒の「シャドウ」だと確定していた――
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