貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
586 / 1,110
王都の異変

第582話 魔剣の相性

しおりを挟む
「風鞭!!」
「なっ!?」


刀身に渦巻いていた風の魔力が突如として鞭のように変化すると、イゾウは風魔を振り抜いた瞬間、風の鞭が周囲へと襲い掛かる。それに対してナイは反魔の盾を構えるが、鞭は盾に当たる直前で軌道を変化させ、ナイの背後へと回り込む。


「無駄だ!!」
「ぐはっ!?」
「ナイ殿……うわっ!?」
「ギャインッ!?」


反魔の盾を避けた風の鞭はナイの背中に衝突し、廃墟の壁に叩きつけられる。それを見てクノは助けに向かおうとしたが、彼女の足元にも風の鞭が通過し、ビャクも近づけなかった。

壁に叩き込まれたナイは眉をしかめるが、背中を痛めた程度で傷はない。しかし、イゾウは風魔から生み出している風の鞭を振りかざし、ナイに何度も叩きつけた。


「くたばれ!!」
「うぐっ!?」
「ナ、ナイ!!くそっ……!!」
「馬鹿、無茶をするんじゃないよ……そんな状態で動いたら死ぬよ!?」


何度も風の鞭を叩きつけられるナイを見てテンは助けに向かおうとするが、今の彼女は薬のせいで身体が麻痺しており、しかも両手と両足は針で突き射されて碌に動けない。そんなテンを見てネズミが引き留めようとするが、クノはナイの様子を見て違和感を抱く。


(これは……!?)


傍目から見るとナイが一方的にやられているように見えるが、風の鞭に対してナイは旋斧を盾代わりに身を隠して攻撃を防いでいる。その様子を見てイゾウは執拗に攻撃を繰り返し、怒鳴りつける。


「先ほどまでの威勢はどうした!?所詮、この程度かっ!!」
「……っ!!」


イゾウの言葉を聞いてナイは目を閉じると、ここで心眼を発動させて風の鞭の軌道を正確に捉える。そして旋斧を構えると、強く念じながら刃を振り抜く。


!!」
「なぁっ……!?」
「風を……斬った!?」


旋斧の刃が風魔から放たれる「風鞭」に届いた瞬間、風の魔力が吸収され、まるで風の鞭が切り裂かれた様に消えてしまう。イゾウはその光景を見て驚愕の表情を浮かべ、一方で風の魔力を吸い上げた旋斧の刀身に炎が宿る。

魔剣「旋斧」は外部から魔力を吸収する能力を持ち合わせ、しかも現在は火竜の膨大な火属性の魔力を宿しており、火属性と相性が良い風属性の魔力を吸い上げると炎を宿す。刃に火炎を纏った旋斧を構えたナイはイゾウへ向けて振り下ろす。


「放てっ!!」
「うおおおおっ!?」
「やったでござる!!」
「ウォンッ!!」


旋斧が振り下ろされた瞬間に刃に纏っていた火炎が放出され、イゾウへと迫る。風属性の魔力を吸い上げると火炎放射のように放出できるため、炎に包まれるイゾウを見てクノとビャクは勝利を確信した。

だが、イゾウは迫りくる炎に対して反射的に風魔を構え、風属性の魔力を放出させる。竜巻の如く刃から魔力を放ち、彼は旋斧が放つ火炎を防ごうとした。


「ぐぅうっ……まだだ!!」
「くっ……!?」
「し、しぶとい奴だね……!!」
「当り前さ、腐ってもそいつは最強の暗殺者なんだよ!!」


イゾウがナイの火炎を防ぐ光景を見てテンは焦り、ネズミは警告する。竜巻と火炎がせめぎ合い、相性的にはナイの旋斧が有利のはずだが、イゾウの風魔には風属性の魔石一つ分の魔力が宿されている。

竜巻の力でどうにかイゾウは火炎を抑え込み、懐に手を伸ばして瓶を取り出す。それは先に使用した身体を麻痺させる煙を噴き出す物ではなく、ほんの少しでも煙を吸い込めば相手を確実に始末できる猛毒が仕込まれた小瓶だった。


「くたばれ!!」
「なっ!?」


猛毒が入った小瓶をイゾウは放り込むと、風魔から発生した竜巻に小瓶は飲み込まれ、緑色の煙が噴き出す。そして煙は竜巻に巻き込まれると、ナイの元へと迫る。ナイは毒耐性の技能を身に着けているが、イゾウが持ち出した猛毒は毒耐性の技能を身に着けていても耐えられる代物ではない。

毒の煙を巻き上げた竜巻がナイへと迫り、もう駄目かと思われた時、ここでクノはクナイを取り出す。彼女はナイに意識を集中させているイゾウに向けて放つ。


「投っ!!」
「ちっ、邪魔をするな!!」


クノがクナイを放つと、咄嗟にイゾウはクナイを弾き返そうとした。だが、彼は針がもうない事を忘れており、反射的に風魔でクナイを弾く。


「しまっ……!?」
「うおおおっ!!」


一瞬だけクノに意識を反らしたせいでイゾウは隙を作ってしまい、それを逃さずにナイは魔法腕輪から風属性の魔力を引き出すと、刀身に送り込んで火炎を更に拡大化させる。

毒煙を巻き込んだ竜巻を火炎が飲み込み、そのままイゾウの元へ迫る。ここでイゾウにとっては運が悪かったのは、先に吸収させた風属性の魔石の魔力が切れてしまい、刀身から生み出していた竜巻が消えてしまう。


「はぁあああっ!!」
「がぁああああっ!?」


火炎と毒煙にイゾウは巻き込まれ、彼は全身を焼かれながら倒れ込む。それを確認したナイは旋斧に魔力を送り込むのを辞めると、刃に纏っていた炎が消え去り、残されたのは毒を吸い込んで炎に包まれたイゾウのもがき苦しむ姿だけだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)

排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日 冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる 強いスキルを望むケインであったが、 スキル適性値はG オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物 友人からも家族からも馬鹿にされ、 尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン そんなある日、 『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。 その効果とは、 同じスキルを2つ以上持つ事ができ、 同系統の効果のスキルは効果が重複するという 恐ろしい物であった。 このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。      HOTランキング 1位!(2023年2月21日) ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...