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王都の異変
第577話 親の心、子知らず
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「あたしと離れた後、あんたはお優しい王妃様に拾われて良かったね。あんた達の噂はよく聞いていたよ、聖女騎士団の副団長にまで上り詰めて剣鬼とまで恐れられたんだろう?それに比べてあたしは情報屋としてこそこそ小金を稼いで生きていくのが精いっぱい……一緒に眠ってあげないと夜泣きがうるさかったがきんちょが立派になったね」
「赤ん坊の頃の話を出すんじゃないよ!!だいたい、あたしの事を知っていたならどうして連絡の一つは寄越さなかったんだい!?」
「連絡?馬鹿言うんじゃないよ、あたしは指名手配されている犯罪者だよ。王国騎士のあんたに連絡なんて出来るはずがないだろうが……あんただってあたしの事を放っておいたのかい?」
「うっ……」
ネズミの言葉にテンは言い返す事ができず、聖女騎士団は王国騎士団の一つのため、治安維持のために犯罪者を取り締まる立場である。そんなテンにネズミが連絡でもすれば仮に彼女が捕まえようとしなくても、他の団員が勘付いた場合は彼女を放っておくはずがない。
テンのために犯罪者になったとはいえ、刑務所送りにされるのを避けるためにネズミは連絡を取らなかった。しかし、彼女が連絡を取ろうとしない理由は他にもテンのためでもある。
「それに犯罪者のあたしがあんたと繋がりがある事を知られたらまずいだろう?よりにもよって聖女騎士団の義理の母親が指名手配犯なんて、他の人間に知られたらどうなる?」
「それは……まずいでござるな」
「まずいどころじゃないよ。下手をしたらあんたは聖女騎士団を辞めさせられていたかもしれないんだ。そうなればあんたの人生は終わりだろう?」
「……勝手に人の人生を語るんじゃないよ」
「けど、あの時のあんたにとって聖女騎士団は唯一の居場所だった。違うのかい?」
「…………」
ネズミの言葉にテンは言い返せず、確かに若かりし頃のテンにとっては聖女騎士団は彼女の全てだと言えた。しかし、その聖女騎士団の要であったジャンヌが死亡し、自暴自棄を起こしたテンは騎士団を解散させてしまう。
結局はテンは昔からの知り合いの白猫亭の宿屋の主人に救われ、新しい居場所を手に入れた。だが、騎士団を辞めた後のテンならばネズミが連絡を取る事はできるはずだった。
「なら、どうしてあたしが騎士を辞めた時にあんたは連絡をしなかったんだい?」
「笑わせるんじゃないよ。騎士を辞めた時はあんたはもう立派な大人になっていただろうが……子供というのはね、大人になったら自然と親から離れるんだよ。親離れしたガキに未練たらしく連絡を送るなんて恥ずかしい真似、あたしにできるはずないだろうが」
「では……ネズミ殿はテン殿の事を思って今まで連絡を取らなかったのでござるか?」
「はあっ?そんなわけはないだろう、あたしがそいつの事を本当に大切に思っているのなら手元にずっと置いていたさ。要はあたしがそいつに愛想が尽きて捨てた所を王妃に拾われた、それだけの話さ」
「あんたね……!!」
この期に及んで自分の事を何とも思っていない風に振舞うネズミにテンは眉をしかめるが、久しぶりに話をして彼女の本心が聞けただけでもテンは嬉しかった。
自分を捨てたと言い張るネズミだが、本当は彼女なりに自分の将来を案じて姿を消したと知れて安心する。心の底では本当に捨てられたのかと不安を抱いていたテンだったが、ネズミから話を聞いて彼女も自分の事を曲がりなりにも愛してくれていた事を知って安堵する。
「さあ、昔話はここまででいいだろう。それで、あたしに何の用事があるんだい?」
「……そうだね、今のあんたはただの情報屋でそして犯罪者だ。だけど、まだあたしも正式な王国騎士に戻ったわけじゃないからね、今回は見逃してやるよ」
「言うじゃないかい……言っておくけど、こっちだってあんたが騎士に戻ったら二度と情報は回さないよ」
「あんたの世話になるのはこれっきりさ。安心したかい?」
「そりゃいいね、やっと面倒ばかりを起こすガキとはおさらばできるわけかい。あっはっはっは!!」
「はっはっはっ!!」
「二人とも……何だか楽しそうでござるな?」
「「そんなわけあるか!!」」
口に出す言葉とは裏腹にネズミとテンはすっきりした表情を浮かべ、20年近くも抱えていた心の不安《モヤモヤ》が消えたような気がした。ちなみに聖女騎士団は正式にまだ復活したわけではなく、団長であるテンも王国騎士の座に戻ったわけではない。
騎士団の団員がもう少し集まれば再結成が認められ、本格的に活動できる。だが、それまでは騎士団の団員達はまだ正式には王国騎士として認められない。そのため、テンは今だけは犯罪者であるネズミを捕まえる事はできなかった。最も権限を与えられていたとしてもテンがネズミを本当に捕まえるかどうかは本人次第である。
「さあ、ここからは仕事の話だよ。情報屋の腕前、見せて貰おうじゃないかい」
「……ああ、そうだね。それで何が聞きたいんだい?」
「やっと本題に入れるでござるな」
改めてテンとクノはネズミに情報を聞くため、彼女と向かい合う形で座り込む。単刀直入にテンはヒナを襲った「イゾウ」の居場所を尋ねた。
「赤ん坊の頃の話を出すんじゃないよ!!だいたい、あたしの事を知っていたならどうして連絡の一つは寄越さなかったんだい!?」
「連絡?馬鹿言うんじゃないよ、あたしは指名手配されている犯罪者だよ。王国騎士のあんたに連絡なんて出来るはずがないだろうが……あんただってあたしの事を放っておいたのかい?」
「うっ……」
ネズミの言葉にテンは言い返す事ができず、聖女騎士団は王国騎士団の一つのため、治安維持のために犯罪者を取り締まる立場である。そんなテンにネズミが連絡でもすれば仮に彼女が捕まえようとしなくても、他の団員が勘付いた場合は彼女を放っておくはずがない。
テンのために犯罪者になったとはいえ、刑務所送りにされるのを避けるためにネズミは連絡を取らなかった。しかし、彼女が連絡を取ろうとしない理由は他にもテンのためでもある。
「それに犯罪者のあたしがあんたと繋がりがある事を知られたらまずいだろう?よりにもよって聖女騎士団の義理の母親が指名手配犯なんて、他の人間に知られたらどうなる?」
「それは……まずいでござるな」
「まずいどころじゃないよ。下手をしたらあんたは聖女騎士団を辞めさせられていたかもしれないんだ。そうなればあんたの人生は終わりだろう?」
「……勝手に人の人生を語るんじゃないよ」
「けど、あの時のあんたにとって聖女騎士団は唯一の居場所だった。違うのかい?」
「…………」
ネズミの言葉にテンは言い返せず、確かに若かりし頃のテンにとっては聖女騎士団は彼女の全てだと言えた。しかし、その聖女騎士団の要であったジャンヌが死亡し、自暴自棄を起こしたテンは騎士団を解散させてしまう。
結局はテンは昔からの知り合いの白猫亭の宿屋の主人に救われ、新しい居場所を手に入れた。だが、騎士団を辞めた後のテンならばネズミが連絡を取る事はできるはずだった。
「なら、どうしてあたしが騎士を辞めた時にあんたは連絡をしなかったんだい?」
「笑わせるんじゃないよ。騎士を辞めた時はあんたはもう立派な大人になっていただろうが……子供というのはね、大人になったら自然と親から離れるんだよ。親離れしたガキに未練たらしく連絡を送るなんて恥ずかしい真似、あたしにできるはずないだろうが」
「では……ネズミ殿はテン殿の事を思って今まで連絡を取らなかったのでござるか?」
「はあっ?そんなわけはないだろう、あたしがそいつの事を本当に大切に思っているのなら手元にずっと置いていたさ。要はあたしがそいつに愛想が尽きて捨てた所を王妃に拾われた、それだけの話さ」
「あんたね……!!」
この期に及んで自分の事を何とも思っていない風に振舞うネズミにテンは眉をしかめるが、久しぶりに話をして彼女の本心が聞けただけでもテンは嬉しかった。
自分を捨てたと言い張るネズミだが、本当は彼女なりに自分の将来を案じて姿を消したと知れて安心する。心の底では本当に捨てられたのかと不安を抱いていたテンだったが、ネズミから話を聞いて彼女も自分の事を曲がりなりにも愛してくれていた事を知って安堵する。
「さあ、昔話はここまででいいだろう。それで、あたしに何の用事があるんだい?」
「……そうだね、今のあんたはただの情報屋でそして犯罪者だ。だけど、まだあたしも正式な王国騎士に戻ったわけじゃないからね、今回は見逃してやるよ」
「言うじゃないかい……言っておくけど、こっちだってあんたが騎士に戻ったら二度と情報は回さないよ」
「あんたの世話になるのはこれっきりさ。安心したかい?」
「そりゃいいね、やっと面倒ばかりを起こすガキとはおさらばできるわけかい。あっはっはっは!!」
「はっはっはっ!!」
「二人とも……何だか楽しそうでござるな?」
「「そんなわけあるか!!」」
口に出す言葉とは裏腹にネズミとテンはすっきりした表情を浮かべ、20年近くも抱えていた心の不安《モヤモヤ》が消えたような気がした。ちなみに聖女騎士団は正式にまだ復活したわけではなく、団長であるテンも王国騎士の座に戻ったわけではない。
騎士団の団員がもう少し集まれば再結成が認められ、本格的に活動できる。だが、それまでは騎士団の団員達はまだ正式には王国騎士として認められない。そのため、テンは今だけは犯罪者であるネズミを捕まえる事はできなかった。最も権限を与えられていたとしてもテンがネズミを本当に捕まえるかどうかは本人次第である。
「さあ、ここからは仕事の話だよ。情報屋の腕前、見せて貰おうじゃないかい」
「……ああ、そうだね。それで何が聞きたいんだい?」
「やっと本題に入れるでござるな」
改めてテンとクノはネズミに情報を聞くため、彼女と向かい合う形で座り込む。単刀直入にテンはヒナを襲った「イゾウ」の居場所を尋ねた。
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