貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
581 / 1,110
王都の異変

第577話 親の心、子知らず

しおりを挟む
「あたしと離れた後、あんたはお優しい王妃様に拾われて良かったね。あんた達の噂はよく聞いていたよ、聖女騎士団の副団長にまで上り詰めて剣鬼とまで恐れられたんだろう?それに比べてあたしは情報屋としてこそこそ小金を稼いで生きていくのが精いっぱい……一緒に眠ってあげないと夜泣きがうるさかったがきんちょが立派になったね」
「赤ん坊の頃の話を出すんじゃないよ!!だいたい、あたしの事を知っていたならどうして連絡の一つは寄越さなかったんだい!?」
「連絡?馬鹿言うんじゃないよ、あたしは指名手配されている犯罪者だよ。王国騎士のあんたに連絡なんて出来るはずがないだろうが……あんただってあたしの事を放っておいたのかい?」
「うっ……」


ネズミの言葉にテンは言い返す事ができず、聖女騎士団は王国騎士団の一つのため、治安維持のために犯罪者を取り締まる立場である。そんなテンにネズミが連絡でもすれば仮に彼女が捕まえようとしなくても、他の団員が勘付いた場合は彼女を放っておくはずがない。

テンのために犯罪者になったとはいえ、刑務所送りにされるのを避けるためにネズミは連絡を取らなかった。しかし、彼女が連絡を取ろうとしない理由は他にもテンのためでもある。


「それに犯罪者のあたしがあんたと繋がりがある事を知られたらまずいだろう?よりにもよって聖女騎士団の義理の母親が指名手配犯なんて、他の人間に知られたらどうなる?」
「それは……まずいでござるな」
「まずいどころじゃないよ。下手をしたらあんたは聖女騎士団を辞めさせられていたかもしれないんだ。そうなればあんたの人生は終わりだろう?」
「……勝手に人の人生を語るんじゃないよ」
「けど、あの時のあんたにとって聖女騎士団は唯一の居場所だった。違うのかい?」
「…………」


ネズミの言葉にテンは言い返せず、確かに若かりし頃のテンにとっては聖女騎士団は彼女の全てだと言えた。しかし、その聖女騎士団の要であったジャンヌが死亡し、自暴自棄を起こしたテンは騎士団を解散させてしまう。

結局はテンは昔からの知り合いの白猫亭の宿屋の主人に救われ、新しい居場所を手に入れた。だが、騎士団を辞めた後のテンならばネズミが連絡を取る事はできるはずだった。


「なら、どうしてあたしが騎士を辞めた時にあんたは連絡をしなかったんだい?」
「笑わせるんじゃないよ。騎士を辞めた時はあんたはもう立派な大人になっていただろうが……子供というのはね、大人になったら自然と親から離れるんだよ。親離れしたガキに未練たらしく連絡を送るなんて恥ずかしい真似、あたしにできるはずないだろうが」
「では……ネズミ殿はテン殿の事を思って今まで連絡を取らなかったのでござるか?」
「はあっ?そんなわけはないだろう、あたしがそいつの事を本当に大切に思っているのなら手元にずっと置いていたさ。要はあたしがそいつに愛想が尽きて捨てた所を王妃に拾われた、それだけの話さ」
「あんたね……!!」


この期に及んで自分の事を何とも思っていない風に振舞うネズミにテンは眉をしかめるが、久しぶりに話をして彼女の本心が聞けただけでもテンは嬉しかった。

自分を捨てたと言い張るネズミだが、本当は彼女なりに自分の将来を案じて姿を消したと知れて安心する。心の底では本当に捨てられたのかと不安を抱いていたテンだったが、ネズミから話を聞いて彼女も自分の事を曲がりなりにも愛してくれていた事を知って安堵する。


「さあ、昔話はここまででいいだろう。それで、あたしに何の用事があるんだい?」
「……そうだね、今のあんたはただの情報屋でそして犯罪者だ。だけど、まだあたしも正式な王国騎士に戻ったわけじゃないからね、今回は見逃してやるよ」
「言うじゃないかい……言っておくけど、こっちだってあんたが騎士に戻ったら二度と情報は回さないよ」
「あんたの世話になるのはこれっきりさ。安心したかい?」
「そりゃいいね、やっと面倒ばかりを起こすガキとはおさらばできるわけかい。あっはっはっは!!」
「はっはっはっ!!」
「二人とも……何だか楽しそうでござるな?」
「「そんなわけあるか!!」」


口に出す言葉とは裏腹にネズミとテンはすっきりした表情を浮かべ、20年近くも抱えていた心の不安《モヤモヤ》が消えたような気がした。ちなみに聖女騎士団は正式にまだ復活したわけではなく、団長であるテンも王国騎士の座に戻ったわけではない。

騎士団の団員がもう少し集まれば再結成が認められ、本格的に活動できる。だが、それまでは騎士団の団員達はまだ正式には王国騎士として認められない。そのため、テンは今だけは犯罪者であるネズミを捕まえる事はできなかった。最も権限を与えられていたとしてもテンがネズミを本当に捕まえるかどうかは本人次第である。


「さあ、ここからは仕事の話だよ。情報屋の腕前、見せて貰おうじゃないかい」
「……ああ、そうだね。それで何が聞きたいんだい?」
「やっと本題に入れるでござるな」


改めてテンとクノはネズミに情報を聞くため、彼女と向かい合う形で座り込む。単刀直入にテンはヒナを襲った「イゾウ」の居場所を尋ねた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

氷弾の魔術師

カタナヅキ
ファンタジー
――上級魔法なんか必要ない、下級魔法一つだけで魔導士を目指す少年の物語―― 平民でありながら魔法が扱う才能がある事が判明した少年「コオリ」は魔法学園に入学する事が決まった。彼の国では魔法の適性がある人間は魔法学園に入学する決まりがあり、急遽コオリは魔法学園が存在する王都へ向かう事になった。しかし、王都に辿り着く前に彼は自分と同世代の魔術師と比べて圧倒的に魔力量が少ない事が発覚した。 しかし、魔力が少ないからこそ利点がある事を知ったコオリは決意した。他の者は一日でも早く上級魔法の習得に励む中、コオリは自分が扱える下級魔法だけを極め、一流の魔術師の証である「魔導士」の称号を得る事を誓う。そして他の魔術師は少年が強くなる事で気づかされていく。魔力が少ないというのは欠点とは限らず、むしろ優れた才能になり得る事を―― ※旧作「下級魔導士と呼ばれた少年」のリメイクとなりますが、設定と物語の内容が大きく変わります。

処理中です...