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王都の異変
第557話 最優の魔術師「マリン」
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――王国最強の剣士が「ゴウカ」である事は間違いないが、その彼を双璧を為す冒険者は「マリン」と呼ばれる女性だった。彼女は常に仮面で顔を隠しており、森人族のような金髪をしているが、耳元は人間のように小さい。
マリンは元々は王国ではなく、別の国から訪れた冒険者であり、三年ほど前から王都で活動している。ここへ来た時から彼女は白銀級冒険者であり、ゴウカとほぼ同じ時期に黄金級冒険者へ昇格を果たす。
彼女は常日頃から仮面を身に着けて他の人間とは話をせず、本人によると話す事ができないという。だから彼女が他の人間と会話を行う時は筆記で話を行う。
どんな時も仮面を身に着け、決して素顔を晒さず、筆談でのみ会話を行う。正直に言えば初対面の人間の殆どは彼女の印象をあまり快くは思わない。だが、彼女の実力を知ると大抵の人間は態度を変える。
マリンは優秀な魔術師であり、その実力は王国の魔導士にも匹敵すると言われている。実力は確かで彼女は広域魔法さえも扱え、かつて百を超えるオークの群れをただ一人で一掃した事もある。
魔術師の冒険者というだけで重宝され、彼女と組みたがる冒険者は非常に多い。実際にマリンは何度か他の冒険者と組んで活動した事もあり、黄金級冒険者に昇格された今でも他の人間と組む機会は多い。マリンとしては喋れない人間よりも他の冒険者が依頼人の相手をしてくれて助かっている面もあった。
『マリンさん!!どうかうちの冒険者集団《パーティ》に入って下さいよ!!』
『銅級冒険者がでしゃばるな!!マリンさん、うちは銀級冒険者もいるんですよ!!足手まといにはなりませんから、正式に入って下さいよ!!』
『…………』
『あ、あの……聞いてます?』
マリンを正式に冒険者集団に迎えようとする人間は多いが、大抵マリンの場合は特定の冒険者と組んで活動する事はなく、依頼を引き受ける度に別々の冒険者と組んで活動する事が主だった。
冒険者としてはマリンが行動を共にするだけで心強いので文句はないが、優秀過ぎる彼女が側にいるだけで依存してしまい、彼女を必死に仲間にしたい人間は多い。
『ちょっと、あんた調子に乗ってんじゃないわよ。最優の魔術師だか何だか知らないけどね、私はあんたの事を認めないわよ』
『あんたみたいな薄気味悪い奴、俺は信用しないぞ』
『…………』
しかし、一方で彼女を敵視する人間は多く、特に同じ魔術師の冒険者からはマリンは距離を置かれていた。彼等はマリンと自分達を比べられる事に嫌気を差し、彼女を嫌っていた。
『マリン、これでお前は晴れて黄金級冒険者だ。おめでとう』
『…………』
『その仮面だと、喜んでいるのかどうかも分からないな』
ギルドマスターのギガンでさえも正体を隠しながら活動を行うマリンに対して不信感を抱いている節があり、どうして彼女が頑なに顔を隠すのか、他人と話さないのかは誰も理由を知らない。
マリンの素顔は実は酷い火傷を負っているとか、あるいは不細工なので顔を人に見られたくはないために隠しているとか、もしくはマリンは人間ではなく人に擬態した魔物などと噂れている。噂の出所は彼女を嫌う魔術師たちであり、そんな噂を聞いてもマリンは正体を明かそうとはしない。
結局、黄金級冒険者に昇格した後もマリンは誰とも正体を現さず、今回の遠征もゴウカと組んで共に仕事に出かけていたに過ぎなかった――
『やっと帰ってこれたな!!いや、本当に大変だったぞ!!』
「…………」
ゴウカとマリンが戻ってくると冒険者ギルド内の人間達は二人に視線を向け、どのように反応すればいいのか分からなかった。だが、この時に一人の冒険者が前にでた。
「よう、お前等……やっと戻って来たのか」
『ん!?お前は……』
「っ……」
二人の前に現れたのは同じく黄金級冒険者のガオウであり、彼は腕を組んで二人と向き合う。そんな彼にゴウカとマリンは立ち止まるが、ここで二人とも首を傾げる。
『誰だお前は?』
「……?」
「ガオウだ!!人の顔を忘れてんじゃねえぞっ!!」
同時に首を傾げる二人に対してガオウは苛立ちの様子を浮かべて怒鳴り散らし、この様子を見ていた他の冒険者の何人かは噴き出す。
実は前にもガオウはこの二人に顔を忘れられていた事があり、彼が名乗り上げると流石に思い出したのかゴウカは笑い声を上げる。
『ああ、思い出したぞ!!ガオウか、悪いなすっかり忘れていたわ!!がはははっ!!』
「何がおかしいんだ!!ぶっ殺すぞ!!」
『ごめんなさい』
「うおっ……お前も相変わらずだな、何処からそんな物を取り出した?」
笑い声を上げるゴウカに大してガオウは突っかかろうとするが、その前にマリンが立ちはだかると、彼女は陽光教会が取り扱う水晶板のような道具を取り出し、指を動かす。
水晶製の板に彼女が指を書き込むと光の文章が表示され、彼女の伝えたい言葉が表示された。こちらはマリンが筆談用のためにハマーンに作って貰った特性の水晶板であり、これを通じて彼女は他の人間と筆談で対話が行える。
マリンは元々は王国ではなく、別の国から訪れた冒険者であり、三年ほど前から王都で活動している。ここへ来た時から彼女は白銀級冒険者であり、ゴウカとほぼ同じ時期に黄金級冒険者へ昇格を果たす。
彼女は常日頃から仮面を身に着けて他の人間とは話をせず、本人によると話す事ができないという。だから彼女が他の人間と会話を行う時は筆記で話を行う。
どんな時も仮面を身に着け、決して素顔を晒さず、筆談でのみ会話を行う。正直に言えば初対面の人間の殆どは彼女の印象をあまり快くは思わない。だが、彼女の実力を知ると大抵の人間は態度を変える。
マリンは優秀な魔術師であり、その実力は王国の魔導士にも匹敵すると言われている。実力は確かで彼女は広域魔法さえも扱え、かつて百を超えるオークの群れをただ一人で一掃した事もある。
魔術師の冒険者というだけで重宝され、彼女と組みたがる冒険者は非常に多い。実際にマリンは何度か他の冒険者と組んで活動した事もあり、黄金級冒険者に昇格された今でも他の人間と組む機会は多い。マリンとしては喋れない人間よりも他の冒険者が依頼人の相手をしてくれて助かっている面もあった。
『マリンさん!!どうかうちの冒険者集団《パーティ》に入って下さいよ!!』
『銅級冒険者がでしゃばるな!!マリンさん、うちは銀級冒険者もいるんですよ!!足手まといにはなりませんから、正式に入って下さいよ!!』
『…………』
『あ、あの……聞いてます?』
マリンを正式に冒険者集団に迎えようとする人間は多いが、大抵マリンの場合は特定の冒険者と組んで活動する事はなく、依頼を引き受ける度に別々の冒険者と組んで活動する事が主だった。
冒険者としてはマリンが行動を共にするだけで心強いので文句はないが、優秀過ぎる彼女が側にいるだけで依存してしまい、彼女を必死に仲間にしたい人間は多い。
『ちょっと、あんた調子に乗ってんじゃないわよ。最優の魔術師だか何だか知らないけどね、私はあんたの事を認めないわよ』
『あんたみたいな薄気味悪い奴、俺は信用しないぞ』
『…………』
しかし、一方で彼女を敵視する人間は多く、特に同じ魔術師の冒険者からはマリンは距離を置かれていた。彼等はマリンと自分達を比べられる事に嫌気を差し、彼女を嫌っていた。
『マリン、これでお前は晴れて黄金級冒険者だ。おめでとう』
『…………』
『その仮面だと、喜んでいるのかどうかも分からないな』
ギルドマスターのギガンでさえも正体を隠しながら活動を行うマリンに対して不信感を抱いている節があり、どうして彼女が頑なに顔を隠すのか、他人と話さないのかは誰も理由を知らない。
マリンの素顔は実は酷い火傷を負っているとか、あるいは不細工なので顔を人に見られたくはないために隠しているとか、もしくはマリンは人間ではなく人に擬態した魔物などと噂れている。噂の出所は彼女を嫌う魔術師たちであり、そんな噂を聞いてもマリンは正体を明かそうとはしない。
結局、黄金級冒険者に昇格した後もマリンは誰とも正体を現さず、今回の遠征もゴウカと組んで共に仕事に出かけていたに過ぎなかった――
『やっと帰ってこれたな!!いや、本当に大変だったぞ!!』
「…………」
ゴウカとマリンが戻ってくると冒険者ギルド内の人間達は二人に視線を向け、どのように反応すればいいのか分からなかった。だが、この時に一人の冒険者が前にでた。
「よう、お前等……やっと戻って来たのか」
『ん!?お前は……』
「っ……」
二人の前に現れたのは同じく黄金級冒険者のガオウであり、彼は腕を組んで二人と向き合う。そんな彼にゴウカとマリンは立ち止まるが、ここで二人とも首を傾げる。
『誰だお前は?』
「……?」
「ガオウだ!!人の顔を忘れてんじゃねえぞっ!!」
同時に首を傾げる二人に対してガオウは苛立ちの様子を浮かべて怒鳴り散らし、この様子を見ていた他の冒険者の何人かは噴き出す。
実は前にもガオウはこの二人に顔を忘れられていた事があり、彼が名乗り上げると流石に思い出したのかゴウカは笑い声を上げる。
『ああ、思い出したぞ!!ガオウか、悪いなすっかり忘れていたわ!!がはははっ!!』
「何がおかしいんだ!!ぶっ殺すぞ!!」
『ごめんなさい』
「うおっ……お前も相変わらずだな、何処からそんな物を取り出した?」
笑い声を上げるゴウカに大してガオウは突っかかろうとするが、その前にマリンが立ちはだかると、彼女は陽光教会が取り扱う水晶板のような道具を取り出し、指を動かす。
水晶製の板に彼女が指を書き込むと光の文章が表示され、彼女の伝えたい言葉が表示された。こちらはマリンが筆談用のためにハマーンに作って貰った特性の水晶板であり、これを通じて彼女は他の人間と筆談で対話が行える。
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