貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
571 / 1,110
王都の異変

第557話 最優の魔術師「マリン」

しおりを挟む
――王国最強の剣士が「ゴウカ」である事は間違いないが、その彼を双璧を為す冒険者は「マリン」と呼ばれる女性だった。彼女は常に仮面で顔を隠しており、森人族のような金髪をしているが、耳元は人間のように小さい。

マリンは元々は王国ではなく、別の国から訪れた冒険者であり、三年ほど前から王都で活動している。ここへ来た時から彼女は白銀級冒険者であり、ゴウカとほぼ同じ時期に黄金級冒険者へ昇格を果たす。

彼女は常日頃から仮面を身に着けて他の人間とは話をせず、本人によると話す事ができないという。だから彼女が他の人間と会話を行う時は筆記で話を行う。

どんな時も仮面を身に着け、決して素顔を晒さず、筆談でのみ会話を行う。正直に言えば初対面の人間の殆どは彼女の印象をあまり快くは思わない。だが、彼女の実力を知ると大抵の人間は態度を変える。

マリンは優秀な魔術師であり、その実力は王国の魔導士にも匹敵すると言われている。実力は確かで彼女は広域魔法さえも扱え、かつて百を超えるオークの群れをただ一人で一掃した事もある。

魔術師の冒険者というだけで重宝され、彼女と組みたがる冒険者は非常に多い。実際にマリンは何度か他の冒険者と組んで活動した事もあり、黄金級冒険者に昇格された今でも他の人間と組む機会は多い。マリンとしては喋れない人間よりも他の冒険者が依頼人の相手をしてくれて助かっている面もあった。


『マリンさん!!どうかうちの冒険者集団《パーティ》に入って下さいよ!!』
『銅級冒険者がでしゃばるな!!マリンさん、うちは銀級冒険者もいるんですよ!!足手まといにはなりませんから、正式に入って下さいよ!!』
『…………』
『あ、あの……聞いてます?』


マリンを正式に冒険者集団に迎えようとする人間は多いが、大抵マリンの場合は特定の冒険者と組んで活動する事はなく、依頼を引き受ける度に別々の冒険者と組んで活動する事が主だった。

冒険者としてはマリンが行動を共にするだけで心強いので文句はないが、優秀過ぎる彼女が側にいるだけで依存してしまい、彼女を必死に仲間にしたい人間は多い。


『ちょっと、あんた調子に乗ってんじゃないわよ。最優の魔術師だか何だか知らないけどね、私はあんたの事を認めないわよ』
『あんたみたいな薄気味悪い奴、俺は信用しないぞ』
『…………』


しかし、一方で彼女を敵視する人間は多く、特に同じ魔術師の冒険者からはマリンは距離を置かれていた。彼等はマリンと自分達を比べられる事に嫌気を差し、彼女を嫌っていた。


『マリン、これでお前は晴れて黄金級冒険者だ。おめでとう』
『…………』
『その仮面だと、喜んでいるのかどうかも分からないな』


ギルドマスターのギガンでさえも正体を隠しながら活動を行うマリンに対して不信感を抱いている節があり、どうして彼女が頑なに顔を隠すのか、他人と話さないのかは誰も理由を知らない。

マリンの素顔は実は酷い火傷を負っているとか、あるいは不細工なので顔を人に見られたくはないために隠しているとか、もしくはマリンは人間ではなく人に擬態した魔物などと噂れている。噂の出所は彼女を嫌う魔術師たちであり、そんな噂を聞いてもマリンは正体を明かそうとはしない。

結局、黄金級冒険者に昇格した後もマリンは誰とも正体を現さず、今回の遠征もゴウカと組んで共に仕事に出かけていたに過ぎなかった――



『やっと帰ってこれたな!!いや、本当に大変だったぞ!!』
「…………」


ゴウカとマリンが戻ってくると冒険者ギルド内の人間達は二人に視線を向け、どのように反応すればいいのか分からなかった。だが、この時に一人の冒険者が前にでた。


「よう、お前等……やっと戻って来たのか」
『ん!?お前は……』
「っ……」


二人の前に現れたのは同じく黄金級冒険者のガオウであり、彼は腕を組んで二人と向き合う。そんな彼にゴウカとマリンは立ち止まるが、ここで二人とも首を傾げる。


『誰だお前は?』
「……?」
「ガオウだ!!人の顔を忘れてんじゃねえぞっ!!」


同時に首を傾げる二人に対してガオウは苛立ちの様子を浮かべて怒鳴り散らし、この様子を見ていた他の冒険者の何人かは噴き出す。

実は前にもガオウはこの二人に顔を忘れられていた事があり、彼が名乗り上げると流石に思い出したのかゴウカは笑い声を上げる。


『ああ、思い出したぞ!!ガオウか、悪いなすっかり忘れていたわ!!がはははっ!!』
「何がおかしいんだ!!ぶっ殺すぞ!!」
『ごめんなさい』
「うおっ……お前も相変わらずだな、何処からそんな物を取り出した?」


笑い声を上げるゴウカに大してガオウは突っかかろうとするが、その前にマリンが立ちはだかると、彼女は陽光教会が取り扱う水晶板のような道具を取り出し、指を動かす。

水晶製の板に彼女が指を書き込むと光の文章が表示され、彼女の伝えたい言葉が表示された。こちらはマリンが筆談用のためにハマーンに作って貰った特性の水晶板であり、これを通じて彼女は他の人間と筆談で対話が行える。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...