貧弱の英雄

カタナヅキ

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ゴブリンキングの脅威

第547話 その頃の王城では……

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「――ふむ、今回の遠征で最も功績を上げたのはやはりあの少年か」
「はい、ゴブリンキングに止めを刺したのもナイ殿で間違いありません」
「我々はこの目で確かめています」
「異議はありませんわ」


玉座の間にて国王は改めてアッシュとドリスとリンから事情報告を受け、その場に居合わせた家臣達はどよめく。遠征の指揮を執っていたアッシュだけではなく、彼の補佐を行っていたドリスとリンの言葉を疑う理由はない。

今回の遠征でゴブリンキングに止めを刺したのは間違いなくナイの功績であり、仮にナイが参加していなければゴブリンキングによる被害は甚大だったのは間違いない。無論、彼一人の力だけではなく、魔力を出し尽くして戦ったマホや他の者達も立派に戦ったのは承知している。

だが、敢えて今回の遠征で一番の功績を上げた人間を進言する場合、全員がナイの名前を上げた。その報告を聞いて国王は少々困った表情を浮かべる。


「どうしたものかのう。あの者は冒険者でもなければ王国騎士でもない。いったいどのような褒美を用意すれば満足してくれるか……」
「陛下、この際にあの者に爵位を与え、貴族として取り立てるのはどうでしょうか?」
「いやいや、いくら功績を上げたとはいえ、流石にそこまではやり過ぎなのでは……」
「冒険者達のように勲章を与えるだけに留めておくべきでは?」


家臣の間でもナイの功績に見合う報酬の件で話し合い、意見はまとまらない。国王は困り果てると、宰相に相談した。


「宰相よ、お主の意見を聞こうではないか。何か良案はあるか?」
「ふむ……ナイという者はアルト王子が世話をしていると聞いております。つまり、アルト王子が招いた客将という立場で考えるのであれば、ここは無難に報酬を与えるべきでは」
「報酬か……しかし、今の国の財政では……」
「分かっております。今回の飛行船の遠征だけで消費した魔石の数だけでもかなりの負担でしたからな」
「う、うむ……」


飛行船を動かすためには大量の風属性の魔石と火属性の魔石を消費するため、今回の遠征だけで掛かった費用だけでも相当な金額を消費した。そのため、あまりに金の掛かる報酬は与える事は出来ない。

しかし、ナイの功績は今回のゴブリンキングの討伐だけではなく、火竜やゴーレムキングとの戦闘でも彼は大活躍していた。それを考慮すると相応の報酬か対価を支払わなければ理不尽だった。


「ではこうするのはどうでしょうか、前回の一件でナイ殿には火竜討伐の件で勲章を、そして今回の遠征の功績を評価して彼が望む物を与えるという事で……」
「何?勲章はともかく、褒美の内容を好きに決めさせるのか?」
「その通りでございます。彼が爵位を望むのならば爵位を、金銭を望むのであれば金銭を……彼に決めさせるのです」
「ふむ……」


宰相の言葉に国王は悩み、確かに報酬が決まらないのであればナイに報酬を決めさせるのも一つの手ではあった。仮にナイが騎士や兵士ならば位を上げ、冒険者だったならば階級を上げる事もできたのだが、生憎とナイはどちらでもない。


「よし、では後日表彰式を行う際にナイが望む報酬の内容を尋ねよう。リノの命の恩人であり、あの火竜やゴブリンキングを討伐した英雄を皆で称えようではないか!!」
「「「はっ!!」」」
「…………」


国王の言葉に全員が従う仲、ただ一人だけ返事を行いもせず、険しい表情を浮かべる人物が一人だけ存在したが、その人物に誰も気づく事はなかった――





――その日の夜、イリアは研究室にて手紙を開いていた。その内容は彼女に「ある薬」を渡した人物からの手紙であり、彼女は面倒そうに手紙の内容を確認すると、暖炉の中に放り込む。


「はあっ……面倒くさい」


イリアは机の上に羊皮紙を用意すると、文章を書き込む。その内容は今回の彼女に与えられたもう一つの任務の失敗の理由を書き記し、彼女は書き終えると適当に机の上に放り込む。

今回の遠征にどうしてイリアは賛同したのかというと、表向きは討伐隊の援護のために彼女は派遣された事になっている。しかし、当の彼女本人は本来は戦う予定はなかった。

空賊やゴブリンキングに襲われた時は止む無く戦闘に参加したが、その他に起きた戦闘では極力彼女は飛行船に引きこもり、戦闘に参加していなかった。その理由はイリアの目的は討伐隊の援護ではなく、とある人物から国の害となる存在を排除するように言いつけられていたからである。


「流石に誤魔化しきれなくなってきましたね……けど、折角見つけた面白いおもちゃをそう簡単に手放しませんよ」


イリアは書き終えた手紙を手にして笑みを浮かべ、そして机の上に乗せたある魔道具に視線を向ける。これはアルトの研究室から拝借した代物であり、彼が改造を加えている特別な魔道具だった――
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