貧弱の英雄

カタナヅキ

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ゴブリンキングの脅威

第522話 英雄の子孫

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「ナイ君、この村に反魔の盾の正当な所有者がいると聞いていたが……」
「はい。この墓が村長とその息子の……ゴマンの墓です」
「この墓が……」


アッシュの言葉を聞いてナイは村長とゴマンの墓を示し、その場で手を合わせる。この時に王国に仕える人間は全員がナイに倣い、彼等の冥福を祈る。

反魔の盾の正当な所有者はもうこの世にはおらず、ナイはゴマンの事を思い返すだけで涙を流す。彼にとっては初めての友達だと言える相手でもあり、赤毛熊に戦いを挑もうとするナイのためにゴマンは反魔の盾を貸してくれた。


(ゴマン……必ず、用事が終わったらこの盾は返すからね)


ナイは何時の日かゴマンの墓に盾を返す事を約束し、もうしばらくの間だけは盾を借りて置く事にした。この時、反魔の盾が太陽の光に晒されて輝くが、誰も気づかなかった。アッシュは英雄の子孫が死んでいた事に残念に思うが、改めて街の惨状を確認し、ナイに尋ねる。


「ナイ君、一旦ここで休憩を挟む。その間にやり残したことがあれば済ませておくといい」
「え?」
「この村には君も住んでいたのだろう。なら、家に戻ったらどうだ?」
「家……」
「ウォンッ!!」


アッシュの言葉にビャクも頷き、ナイは久々に自分の家に戻ってアルの墓参りを行う事に決めた。アッシュの計らいにナイは感謝して早速向かう。

その様子をアッシュたちは見送った後、彼はドリスとリンに振り返り、村の見張りを怠らないように注意する。この時にクノは村の様子を確認してある事に気付いた。


(ここは……恐らく、和国の元領地でござるな。まさかここにも人が住んでいたとは……)


ナイが暮らしていた村は元は和国の領地である事をクノは確認し、そして彼女は改めて山の方角へ向き直る。ただの偶然かもしれないが、この山の向こう側にかつて「ムサシ」と呼ばれる地が存在する。


(この地に暮らしていたナイ殿は和国の事を全く知らないという事は、この場所に暮らしていた人々は和国の人間の子孫ではないようでござるな)


クノはナイの事をこの村で生まれた人間だと思い込んでいるが、真実は異なる。彼はこの村の近くにある山で捨てられ、それをアルに拾われた事を彼女は知らない――





――アルの墓に辿り着いたナイはビャクと共に祈り、そして改めて家の様子を探る。他の建物と比べてナイの家は被害は少なく、村を出た後に荒された様子もない。


「ここは変わってないな……ビャクがまだ小さい頃は家の中で一緒に寝てたね」
「ウォンッ……」


大きくなり過ぎたビャクは家の中に入る事はできずに寂しそうな表情を浮かべるが、ナイは家を見て昔を懐かしむ。だが、家に入った途端にナイは違和感を感じた。


「何だ……?」


何故だかナイは胸騒ぎを覚え、この時に彼は瞼を閉じてを発動させる。まだ上手く扱えないが、何となくだが部屋の中に何かが隠されているような気がした。

しばらくは瞼を閉じて違和感の正体を探ると、この時に彼は天井の方で何かが隠れている事に気付き、振り返る。天井に存在したのはゴブリンであり、しかも普通のゴブリンではなく、全身が赤色の皮膚に覆われていた。


「グギャアアアッ!!」
「うわっ!?」


全身が赤色の皮膚に覆われたゴブリンはナイと目が合うと、ゴブリンは奇声を上げて飛び掛かってきた。即座にナイは反応して後ろに下がると、ゴブリンは下に向けて鋭い爪を放つ。

ゴブリンの放った爪は丁度真下に存在した机を破壊し、その切れ味は本物の刃物のようだった。しかし、ゴブリンは魔獣種とは異なり、牙も爪もそれほど発達はしていない。それにも関わらずにナイの目の前に現れたゴブリンは異様なまでの切れ味を誇る。


(こいつ、赤毛熊に似ている!?)


ここでナイは観察眼の技能でゴブリンを調べると、どうやら赤い皮膚だと思われていたのは誤りであり、ゴブリンの全身は赤色の毛皮で覆われていた。だが、普通のゴブリンは獣と違って体毛は人間のように濃くはなく、まるで赤毛熊を想像させる赤色の毛皮と爪の切れ味にナイは動揺を隠せない。

しかし、重要なのはこのゴブリンは勝手にナイの家の中に入り込み、しかも机まで破壊した。その事実にナイは怒りを抱き、拳を握りしめるとゴブリンに目掛けて殴りつける。


「この野郎!!」
「グギャッ!?」
「ウォンッ!?」


全力の一撃でナイになぐりとばされたゴブリンは何本もの牙が折れながら吹っ飛び、家の窓から外へ放り出される。その様子を見てビャクは驚くが、すぐにナイは家を出るとゴブリンと向かい合う。


「グギギッ……!?」


ゴブリンは殴り飛ばされた際に相当な損傷を負い、牙は折れて鼻血を噴き出す。現在のナイの肉体はレベル60以上の戦士と同等の筋力を誇るが、その攻撃に耐え切ったとなると普通のゴブリンではないのは確定だった。
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