貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
531 / 1,110
ゴブリンキングの脅威

第517話 アルとエルのお守り

しおりを挟む
「色々と教えてくれてありがとうございました」
「……もう行くのか?」
「はい、これから用事があるので……あ、でもまた来て良いですか?」
「ふん、勝手にしろ……」
「親父、それはないだろ……ナイ、何時でも来ていいからな。まあ、しばらくの間は俺達も盗賊の武器を作り出していた事で怒られる事になるから会えないかもしれないけど……」


ニエルは盗賊に捕まったエルを人質にされ、脅されて盗賊達が扱う武器を作ってしまった。理由が理由なので彼が罪に問われるかどうかは分からないが、しばらくは仕事を休まなければならない。

最も盗賊団は全員捕まり、街の治安を守るはずの警備兵の中にも盗賊団と繋がっている者が居たため、彼だけが非難される謂れはない。それでも何の処罰も受けないわけにはいかず、しばらくの間はニエルは取り調べを受ける事になる。


「ニエルさん……」
「そんな顔をするなよ、俺なら大丈夫だ。こんな状態の親父を放っておけないしな」
「やかましいわい、このひよっこが……」
「俺達の事は心配するな、お前はお前のやるべき事をやれ……また、会おうな」
「……はい!!」


ナイは二人に別れを告げると、家を出て行こうとした時にエルはナイの後ろ姿を見送り、昔の事を思い出す。数十年前、アルが旋斧を手にして家を出た時と姿が重なる。


(やはり親子か……血は繋がってなくとも、兄貴《アル》にそっくりじゃ……)


アルとナイは容姿は全く違うが、その後姿にアルの姿を重ねたエルは悩んだ末、ナイを呼び止める。


「待て、ナイ!!」
「えっ?」
「親父、何を……」


ナイは呼び止められて振り返ると、エルは痛む身体を無理やりに動かし、机の引き出しからある物を取り出す。それは子供の頃にアルが弟のエルのために初めて作ってくれた道具だった。

エルが手にしたのはまだ彼が小さい頃、アルの両親に引き取られたばかりで実の親が亡くなって寂しく塞ぎ込んでいた頃、彼のためにアルが作ってくれたお守りだった。それは指先で摘まむほどの小さい木剣であり、表面には家紋が刻まれている。


「これを持っていけ、アルからの餞別じゃ」
「わっ!?」


ナイは投げ渡されたお守りを受け取り、エルは彼が手にしたのを確認すると鼻を鳴らして顔を反らす。その様子を見てニエルとナイは呆気に取られるが、ナイは渡された道具を見て笑顔を浮かべる。


「あ、ありがとうございました!!」
「……さっさといけ!!」
「たく、素直じゃねえな……じゃあな、ナイ!!また来いよ!!」
「はい、絶対にまた着ます!!」


お守りを握りしめたナイは元気良く腕を振り、外で待っているビャクはシノビたちとと合流し、イチノへ戻る事にした――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ステータス画面がバグったのでとりあえず叩きます!!

カタナヅキ
ファンタジー
ステータ画面は防御魔法?あらゆる攻撃を画面で防ぐ異色の魔術師の物語!! 祖父の遺言で魔女が暮らす森に訪れた少年「ナオ」は一冊の魔導書を渡される。その魔導書はかつて異界から訪れたという人間が書き記した代物であり、ナオは魔導書を読み解くと視界に「ステータス画面」なる物が現れた。だが、何故か画面に表示されている文字は無茶苦茶な羅列で解読ができず、折角覚えた魔法なのに使い道に悩んだナオはある方法を思いつく。 「よし、とりあえず叩いてみよう!!」 ステータス画面を掴んでナオは悪党や魔物を相手に叩き付け、時には攻撃を防ぐ防具として利用する。世界でただ一人の「ステータス画面」の誤った使い方で彼は成り上がる。 ※ステータスウィンドウで殴る、防ぐ、空を飛ぶ異色のファンタジー!!

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

魔王様は聖女の異世界アロママッサージがお気に入り★

唯緒シズサ
ファンタジー
「年をとったほうは殺せ」  女子高生と共に異世界に召喚された宇田麗良は「瘴気に侵される大地を癒す聖女についてきた邪魔な人間」として召喚主から殺されそうになる。  逃げる途中で瀕死の重傷を負ったレイラを助けたのは無表情で冷酷無慈悲な魔王だった。  レイラは魔王から自分の方に聖女の力がそなわっていることを教えられる。  聖女の力を魔王に貸し、瘴気の穴を浄化することを条件に元の世界に戻してもらう約束を交わす。  魔王ははっきりと言わないが、瘴気の穴をあけてまわっているのは魔女で、魔王と何か関係があるようだった。  ある日、瘴気と激務で疲れのたまっている魔王を「聖女の癒しの力」と「アロママッサージ」で癒す。  魔王はレイラの「アロママッサージ」の気持ちよさを非常に気に入り、毎夜、催促するように。  魔王の部下には毎夜、ベッドで「聖女が魔王を気持ちよくさせている」という噂も広がっているようで……魔王のお気に入りになっていくレイラは、元の世界に帰れるのか?  アロママッサージが得意な異世界から来た聖女と、マッサージで気持ちよくなっていく魔王の「健全な」恋愛物語です。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...