貧弱の英雄

ゴブリンキングの脅威

第515話 アルの弟、エル

――その後、ナイ達は警備兵から事情聴取を行われ、結局は解放されたのは夜明けだった。街に侵入していた盗賊団は全員捕まり、他の場所で潜伏していた仲間も捕まえた盗賊から情報を吐かせて警備兵が拘束する。

盗賊と繋がっていた警備兵もすぐに判明し、裏で金を受け取っていた事が判明した兵士は一緒に牢屋に閉じ込められた。その後の尋問の結果、ガルスの目的はこの街を乗っ取る計画を立てていた事が発覚した。

ゴブリンの軍勢の一件でこの街には大量のイチノの住民が押し寄せ、この期に乗じてガルスは一般人を装って中に入り込み、この街一番の宿屋を占拠した。少しずつ自分の配下の盗賊を忍び込ませ、内密に宿屋の店主の家族を捕縛し、人質として利用して宿屋の店主を従えさせる。

後に判明した事だが、どうやらガルスはエルが経営する鍛冶屋以外にもいくつかの店で脅迫を行い、武器や防具以外の物も集めていた事が発覚する。彼の目的は街の中で着実に勢力を増やし、いずれは領主の屋敷に忍び込んで彼を脅迫し、裏からこの街を支配するつもりだった。



しかし、ナイ達の登場によってガルスの計画は破綻し、彼を含めて盗賊団の団員は殆どが拘束され、逃げ延びた盗賊達も警備兵に捕まるのは時間の問題だと思われた。

領主はこの一件を知って自分の街で盗賊が忍び込んでいた事を知って嘆き、彼は盗賊団を決して許さず、警備兵に一人も残さずに捕まえるように命じる。

その後、ナイ達は今回の一件で盗賊団を捕縛するのに貢献したという理由で領主から感謝され、後々に正式に礼をしたいと伝えられる。今回の一件でシノビとクノの評価は上がる事は間違いなく、冒険者としての名声が高まるのは間違いなかった。



――しかし、ナイがこの街に赴いた目的はエルと出会い、彼から旋斧の情報を聞き出すためである。盗賊に捕まっている間に彼はかなり痛めつけられたようで本当ならば休ませなければならないのだが、ナイが残された時間は少ない。



既に夜明けを迎えてしまい、今日中にナイは戻らなければならない。その前にナイはエルから旋斧の話を聞くために彼の家に訪れた。


「そうか……お前さんがまさかアルの養子だったとはな。まさか、あいつの息子に命を救われるとはな」
「なあ、親父……俺も親父もナイの奴に救われたんだ。だから、教えてくれないか？うちの家系に伝わる魔剣の事を……」


布団に横たわったエルに対してナイは正座を行い、その隣には介抱するニエルも居た。ニエルはナイに世話になったのでエルに旋斧に関する情報を彼に教える様に頼むが、エルは険しい表情を浮かべた。


「……その旋斧は親父が兄貴に渡した物だ。今更、儂が語る事などない」
「親父！！ナイは親父の甥で俺の従弟なんだぞ！！いくら親父がアルさんを嫌いだからって、ナイに辛く当たるなよ！！」
「甥、か……」


ニエルの言葉にエルはため息を吐き出し、彼は上半身を起き上がらせる。彼はナイに向き合うと掌を差し伸べる。


「旋斧を見せろ」
「あ、はい……でも、気を付けてくださいね」
「ふんっ……」


ナイは旋斧を両手で持ち上げてエルに差し出すと、エルは旋斧の刃を覗き込み、あまりの変わり様に驚く。エルは昔から旋斧の事を知っており、かつての旋斧はせいぜい手斧よりも少し大きい程度の剣でしかなった。

現在の旋斧は様々な過程を経て刃が以前よりも大きく、刀身も伸びて刃の色も赤くなっていた。最初にこの旋斧を見た時はエルもすぐに気づく事はできなかったが、独特な刃の形をしていたので彼は旋斧だと気が付く。


「随分と変わり果てたな……これがあの、旋斧だと？」
「はい……あの、それでこの旋斧の事で色々と聞きたいんですけど」
「……この武器は俺達の先祖が作り出した物じゃねえ、伝説の鍛冶師フクツが作り出した代物だ」
「えっ……？」


エルは旋斧をナイに返すと、彼はこの旋斧の歴史を語り始めた――





――遥か昔、伝説の鍛冶師と謳われた男がいた。その名前は「フクツ」彼は伝説の聖剣を復元させた鍛冶師として世界中に名前を知らしめた。フクツは国一番の鍛冶師として称され、現代でも彼に憧れを抱く鍛冶師は多い。

そんなフクツだが、伝説の鍛冶師と称されながらも実は彼が作り出した武器は意外にも少ない。彼は生涯で二本の魔剣しか作り出しておらず、その位置本目はとある剣士の依頼を引き受けて作り出したと言われている。

その剣士の依頼はどんな事があっても壊れない剣が欲しいと頼み込み、フクツはその依頼通りに武器を製作する。それが「旋斧」だと言われていた。