貧弱の英雄

カタナヅキ

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ゴブリンキングの脅威

第514話 意外な関係

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――その頃、魔導士であるイリアはドルトンの屋敷に訪れ、居候しているイーシャンの元に赴く。イーシャンはイリアの顔を見ると心底驚いた表情を浮かべた。


「お、お、お前!?どうしてここに!?」
「お久しぶりですね、イーシャンおじさん」
「叔父さん?お主、姪がおったのか?」


イーシャンはイリアの顔を見た瞬間に度肝を抜かし、そんな彼にイリアは笑顔を浮かべて話しかける。ドルトンはイリアとは初対面であり、彼女はイーシャンの姪かと思ったが、イーシャンは否定した。


「いや、こいつは俺の姪じゃねえ……俺の兄弟子の所で世話になっているはずの薬師だ」
「ほう、薬師か……というより、お主に兄弟子がおったのか?」
「ああ、王都で医者をやっているらしいんだがな……それにしてもよく俺がここにいると分かったな」
「前に手紙で前にこの街に暮らしているとは聞いてましたから。街の人たちに医者の場所を尋ねたら教えてくれたんですよ」


実はイーシャンは王都の王城で勤務する専属医師の「イシ」とは兄弟弟子のなかであり、若い頃の二人はとある医者の元で勉強していた。実はイーシャンも王都の生まれだが、現在はイチノへ引っ越して暮らしている。

若い頃のイーシャンはイシと共にある医者の元で医学を学んでいたが、その師が死亡すると彼は王都を離れ、辺境の地に訪れて医者になった。ちなみにイリアは事情があってイシの元で薬学を学んでいた時にイーシャンとも知り合ったという。


「イーシャンさんが急にいなくなったので寂しかったですよ。どうして王都を離れてこんな辺境の地に来たんですか」
「……辺境の地で悪かったな、ここは俺にとっては第二の故郷だ」
「あ、そうだったんですか。そういえば前に小さい頃は王都とは別の場所で暮らしていたと言ってましたね。という事はここで育ったんですか?」
「まあな、ガキの頃にここへ連れて来られて成人するまでは育ったんだ。正直、王都よりもこの街の方が俺にとっては馴染み深いんだよ」


イーシャンは王都の出身だが、子供の時に家の事情でイチノへ引っ越し、ここで育った。後に彼は王都で戻ってイシと共に医学を学び、結局はイチノへ戻って正式に医者になった事になる。

久しぶりに出会ったイリアをイーシャンは感激し、とりあえずは彼女がこれまでどうしていたのか、イシが元気なのかを尋ねた。


「お前も久しぶりだな。今は何をしてるんだ?あの怠け癖の兄弟子は元気にしているか?」
「まあ、そうですね。師匠は元気ですよ、私の方は……まあ、今は王城で働いています」
「へえ、そいつは凄いな!!よくやったじゃねえか!!」
「凄い事、ですかね……」


イリアが王城で働いていると知ってイーシャンは素直に喜ぶが、イリアとしてはそんな彼に曖昧な笑みを浮かべる。その態度にドルトンは不思議に思うが、この時にイリアはここへ訪れた理由を答える。



「――それでなんですけど、今日御二人に聞きたい事があるんです。ナイさんはご存じですよね?あの人の事を教えてくれませんか?」
「ナイ……?」
「それは……どういう意味だ?」



ナイの事を尋ねたがるイリアにドルトンとイーシャンは戸惑うが、イリアは普段は滅多に見せない真剣な表情で告げた。


「ちょっと興味が湧いただけですよ……ナイさんの昔話、色々と聞かせて貰えませんかね?」


その後、イリアは二人から聞き出せるだけのナイの過去を知り、満足したのか立ち去ったという――






――その一方で盗賊に襲われたナイはたった数十秒でガルス以外の盗賊を叩きのめし、残されたのは地面に腰を抜かしたガルスだけとなった。彼の前には両手に岩砕剣と旋斧を構えたナイの姿が存在し、恐怖で顔を歪める。


「ば、馬鹿な……全滅だと!?」
「ホブゴブリンの方がまだ手応えがあったよ」


ナイは両手の大剣を背中に戻すと、改めて腰を抜かしているガルスに視線を向け、彼に顔を向けられただけでガルスは小便を漏らしそうになる。

ガルスが集めた盗賊達は殆どがレベル30近くの人間であり、この地方でここまでのレベルを上げた人間は冒険者でもそうはいない。それに彼等一人一人が対人戦には慣れており、この街の冒険者であろうと戦える力は持っているはずだった。

それなのに目の前に立つ少年《ナイ》はたった数十秒で配下の盗賊を殆ど倒した。そもそも戦闘にすら成り立たず、圧倒的な力で盗賊達は打ち倒された事にガルスは恐怖を抱く。


(何なんだ、こいつはいったい……何者だ!?)


ここまでの圧倒的な実力者ならば話題になっていないはずがなく、ガルスは動揺を隠せない。ニーノ地方にいる実力高い冒険者や武人は事前に調査済みだが、ナイのように二つの大剣を扱う剣士の噂など聞いた事もない。


「貴様、何者だ!?」
「何者と言われても……」
「冒険者か、傭兵か!?いや、まさか王国から派遣された騎士か!?」


王都から派遣された飛行船の事はガルスも耳にしており、彼はナイの正体が王国騎士かと考えた。しかし、その考えも間違いであり、ナイは考えた末に答えた。


「強いて言うなら……旅人、かな」
「ふ、ふざけるな!!」


ナイの言葉を聞いてガルスは激高し、これほどの強さを持つ人間が冒険者や傭兵や騎士ではないなど有り得るはずがない。自分をからかっていると判断したガルスは腰を抜かした状態でナイに短剣を構える。

しかし、そんなガルスの行動を見てナイは冷静に岩砕剣を振り払い、短剣の刃を弾き飛ばす。最後の武器を失ったガルスは慌てて眼帯に手を伸ばし、義眼を見せつけようとしたが、その前にナイは旋斧をガルスの首に構えた。


「降参して下さい、もう貴方に勝ち目はありません」
「ぐうっ……!?」


首元に刃を押し付けられたガルスは顔色を青くさせ、必死に頭を回らせて生き残る術を考える。そして宿屋の主人の事を思い出して交渉を行う。


「お、俺を殺せば宿の主人も部下が殺すぞ!?それでもいいのか!?」
「そいつはこいつの事か?」
「えっ……?」


何処からか聞こえてきた声にナイとガルスは振り返ると、そこには初老の男性とシノビとクノの姿が存在した。どうやら二人とも無事だったらしく、しかも既に宿屋の主人を救い出していたらしい。


「き、貴様等!?まさか、シノビ兄妹か!?」
「そういう事だ……もうお前の仲間は残っていないぞ。宿屋の外で潜伏している部下達も助けに来るとは考えない方が良い」
「ほら、こうして話している間にも警備兵が駆けつけてきたようでござるよ」


クノが街道を示すと馬に乗り込んだ警備兵が数十名駆けつけ、どうやら宿屋の煙を見て火事が発生したと思い込んで駆けつけてきたらしい。警備兵は倒れている盗賊達を見て驚き、ナイ達に事情を尋ねた。


「こ、これはいったい……何が起きたんだ!?」
「ナイ殿、拙者の冒険者バッジを」
「あ、うん……」


ここでナイは事前にクノから借りていた冒険者バッジの事を思い出し、それを取り出して見せつける。警備兵は彼が取り出したのが白銀級冒険者の証である事に気付き、慌てて態度を改めた。


「こ、これは冒険者殿ですか!!しかも白銀級とは……」
「俺達は別の街からやってきた冒険者だ。ここにいるのは街に侵入していた盗賊団だ。緊急事態なのでお前達に連絡を入れる前に倒してしまった」
「な、なるほど……そう言う事でしたか」
「ぐぐぐっ……!!」


相手が階級の高い冒険者だと知ると警備兵の対応が打って変わり、彼等はすぐに盗賊の捕縛を行う。この際に救出した宿屋の男性も警備兵に引き渡して保護してもらう。

ガルスを筆頭に盗賊達は警備兵に連行され、この際に先に避難していたはずのビャクが馬車を連れて戻って来た。この時に人質にされていた母娘は宿屋の主人と合流し、再会を果たす。


「貴方!!無事だったのね!?」
「お父さん、良かった!!」
「お前達!!逃げられていたのか……ああ、良かった!!」


三人の親子は感動の再会を果たし、抱擁を行う。その姿を見てナイは嬉しく思う一方、自分にはもう抱きしめてくれる家族がいない事を思い出して少し寂しく思う。


「いいな、あの子……抱きしめてくれる両親がいて」
「ウォンッ……」


ナイの気持ちを察したのか、ビャクは彼の元に近付いて自分も同じだとばかりに顔を摺り寄せる。そんなビャクの態度にナイは苦笑いを浮かべ、両親がいない者同士で慰め合う――
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