貧弱の英雄

カタナヅキ

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ゴブリンキングの脅威

第512話 盗賊団の頭

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「さあ、早くここから逃げましょう」
「お、お主何を考えておる!?儂は置いてけ!!どうせ助からん!!」
「嫌です。さあ、行きましょう」


エルを担ぎ上げたナイは母娘に視線を向け、どちらも酷い有様ではあるが動ける程度の体力は残っているらしく、離れない様に付いてくる様に告げた。


「さあ、急いで逃げましょう」
「で、でも夫が……」
「まずは貴方達を逃がすのが先です。大丈夫、必ずお父さんも救いますから」
「ほ、本当に!?」


この宿屋の店主に関しては妻と娘を人質に取られて盗賊団に従っているだけに過ぎず、ナイは一緒に救うつもりだった。だが、今は盗賊達が上の階に注意を引いている隙に母娘とエルを先に安全な場所に連れ出さねばならない。

今頃はニエルがこちらへ向かっているはずであり、彼が辿り着けば母娘とエルの安全は確保される。人質さえいなければ遠慮せずに盗賊達を相手に戦えるため、ナイは急いで倉庫から抜け出そうとした。


「さあ、早く行きましょう……何だ?」
「ど、どうした?」


階段を上がろうとした瞬間、ナイは妙な感覚を抱き、気配感知を発動させる。階段の上の方からとても小さいが確かに気配を感じ取り、目つきを鋭くさせた。


(何だこの気配……誰かがいるな)


よほど集中せねば感じ取れない程に気配は小さく、恐らくは何者かが気配を抑えて階段の先で待ち伏せしている。ナイはエルを一旦下ろすと、倉庫の中に三人を残して告げる。


「どうやら気づかれたみたいです。すぐに戻りますので、この中で待っててください」
「えっ!?」
「お、おい……」
「置いていかないで!?」
「大丈夫、すぐに終わらせるから」


三人はナイの言葉を聞いて呆然とするが、ナイは即座に扉を閉めると改めて階段を見上げる。すると、相手はナイに気付かれている事を察して姿を現す。


「……勘が鋭いな、何故気付いた?」
「あんたは……」
「ガルス……名前ぐらいは知っているだろう?」


階段から下りてきたのは長身の男性であり、白髪頭に左目の眼帯が特徴的な男性だった。ガルスという名前を聞いた瞬間にナイは相手が盗賊団の頭だと思い出す。

どうしてここにガルスが現れたのか、自分達の作戦が気づかれたのかとナイは警戒するが、ガルスの方はナイを見下ろして何かに気付いた様に告げる。


「女、ではないな……男、しかも相当に若い。だが、俺の気配に気づいたという事は相当に優れた気配感知の技能を身に着けているな。大方、暗殺者と言ったところか」
「……どうですかね」
「ここへどうやって入り込んだ?どうしてそこに人質が居る事を知っている?上の階の騒ぎはお前の仕業か?」


質問を行いながらもガルスは階段を降りると、この時にナイは懐に隠していた刺剣を取り出そうとした。しかし、それよりも早くにガルスは腰に差していた短剣をナイに投げ放つ。

顔面に向けて投げられた短剣を見て咄嗟にナイは顔を逸らすと、頬に刃が掠った。短剣は倉庫の扉に突き刺さり、ナイの頬から血が垂れる。


「あいてっ……」
「ほう、良く避けたな……この距離で獲物を仕留めきれなかったのは10年ぶりだ」
「そりゃどうも……」


ナイは頬の傷に手を這わせ、少し切っただけで致命傷には至らない。刃に毒物を仕込まれていたとしても毒耐性の技能を持つナイには大抵の毒は通じない。


「さあ、どうする?俺が叫べばすぐにでも仲間が駆けつける。その場合、お前は逃げ場はないぞ」
「逃げ場はないね……」
「一か八か、ここで俺と戦ってみるのも手だが止めて置け……お前では俺には勝てん」


ガルスはナイを見下ろしながら腰に差していたもう一本の短剣を取り出す。そちらの方は刃が緑色であり、恐らくは毒が塗り込まれていた。


「どうやら毒耐性の技能を持っているようだが、この剣の前では無意味だ。こいつは特製の短剣でな、オークやボアのような魔物でさえも掠り傷一つ与えればくたばる代物だ」
「それは……流石にやばいかも」


ナイはガルスの言葉を聞いて冷や汗を流し、毒耐性の技能は決して万能ではなく、あくまでも毒に対する耐性を身に着けるだけで全ての毒を無効化するわけではない。

強力過ぎる毒を受ければナイも死ぬ可能性はあるため、ガルスの言葉が事実ならば彼が持っている短剣だけは攻撃を受けてはならない。しかし、ガルスはナイに顔を向けると、眼帯に手を伸ばす。


「魔光眼《フラッシュ》!!」
「うわっ!?」


ガルスが眼帯を取り外した瞬間、彼の左目が宝石のように輝く義眼が嵌め込まれており、彼の言葉に反応するかの様に光り輝く。

義眼から放たれた閃光にナイは視界を奪われ、顔面を覆い込む。その一方でガルスの方は事前に右目の方は瞼を閉じて抑えており、閃光で目が眩まずに済んだ。そして右目を開くと、そこには顔面を抑えて膝を着くナイの姿が存在し、彼は笑みを浮かべた。
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